代理死刑 Ver.1.05

異端者

『代理死刑 Ver.1.05』本文

 椅子に座った私の目の前には、赤い丸スイッチがあった。

 これを押せば、私は刑から逃れられる。

 代理死刑。そのシステムの試験運用だそうだ。

 彼らは、試験に協力すれば私を釈放すると言った。

 彼らにはその権限がある、と。

「押すのなら、早くしてくださいね」

 私の背後で、白衣を着た男がそう言った。

「押せば、私は釈放されるんですね?」

「ええ、もちろんです」

 淡々とした口調。

 押せば、代わりに「誰か」が死ぬ。そして、私はゆるされる。

「向こうに居るのは、あなたと同じ『死ぬべくして死ぬ』者です。それなのに……」

 白衣の男は急かすように言った。

「あなたは、生きたくないんですか!?」

 ピッ!

 私は気が付いたら、それを押していた。

 そうだ、私は生きたい。だから――


「おい! 釈放してくれるんじゃなかったのか!?」

「このシステムの利点とは何でしょうか?」

「なんだと!?」

「死刑囚に殺させれば、我々が直接手を下すのは最後の一人で済みますからね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

代理死刑 Ver.1.05 異端者 @itansya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ