転生したのはダンジョンボス〜手違いで神に殺された俺、転生先はダンジョン配信のある異世界でした〜
春風細工
【第1章 いつか暖かな花畑で】
第1話 そんな一昔前の流れで
まあ平凡な人生を送っていたと思う。
家庭は普通、学校も普通、交友関係はほどほどでたまにバレない犯罪犯す程度。そんなの誰でもやってることだし、車のない横断歩道を赤で渡るようなもの。
でも24になった最近じゃ、結構未来に希望を持てるようになってきたんだ。結婚の話とか、昇進の話とか舞い込んできて。まあ昇進しても増えるのは給料じゃなくて責任と仕事だが……ハクはつくよな、少なくとも。
で、今の俺がどこにいるのかって言うとだ。
「おめでとうございます、
まあ、死んだ訳だ。
「納得出来るか。これあれだろ、どうせ神サマの手違いで死んじゃいましたごめんなさ〜い、お詫びに異世界に飛ばしてあげるから許して〜んってやつだろ」
「よく分かりましたね天才ですか?」
「伊達に愛読書をラノベに設定してないぜ」
「履修済みなだけですか死ねばいいのに」
「言い過ぎじゃない? あと死んでるからね俺」
無駄に広い“白”だらけの空間。目の前には謎に声を発する紫の球体。俺には分かる、これが神だ。
神とは形なく意思もなく、ただシステムとしてそこに在る名ばかりのエネルギー体。これが俺の持論だ。こいつは俺のその考えにピッタリの見た目をしてやがる。
人の心がない部分も解釈一致だ。もし体を動かすことが出来たら間違いなくブッ飛ばしてるのに。
(あれ……そうじゃん。体動かね……)
赤い。その一点だけが。
なんとなく察しながら下を向くと、そこには赤黒い血溜まりがあった。よく見ると左半身も頭を除いて存在していない……なーるほど、見えてきたぞ。
俺は確か昇進を神に感謝するために神社に行って、無駄に長い階段を降りる途中で何かに押されて転んだ。
で、転がり落ちた。この時点でだいぶ死にかけだったが、そこから追い打ちをかけるように車に轢かれたんだった。そうだそうだ、全部思い出したぞ。
「死んだ状態そのままな訳ね」
「作り直すのも面倒だったもので」
「クソッタレめ無神論者になってやる」
「まあ酷い。過激派ヴィーガンの前でフライドチキン丸呑みするのとやってること同じですよ」
「微妙に違う上に絶対不可能な例えを出すな」
「いますよやってる人。見ます?」
「ああ言えばこう言うな反抗期かてめえは」
お互い様ですよ、と神は声だけで笑った。
面倒だ。全部面倒だ。この意味わからん空間とラノベでよく読んだ展開のお陰で少しばかりテンションが上がっていたが、急にいつもの感情を取り戻してきたぞ。
俺は面倒くさがりなんだ。転生の権利とかどうとか言ってやがるが、正直それもどうだっていい。
「はあ……ま、過ぎたことはどうしようもねえ」
「あら、諦めがいいですね。他の人とは大違い」
「他のやつも殺してんのかよ最低だな」
「よくあることですから。では、いい感じに緊張もほぐれて現実を受け止めてもらったところで……本題です」
神は急に真面目な声をして語り始めた。
「先刻申し上げました通り、あなたには転生する権利が与えられました。ただ、諸事情により元の世界にお戻しすることは出来ません……なので」
これもよく見た流れだ。
というか元の世界に戻されても困る。確かに最近ツキが回ってきた人生だが、続けたところで特に大きい希望が見えるような人生でもなかった。
やはり異世界。異世界が全てを解決する……
「元の世界と限りなく似た世界に転生してもらいます」
「……違うところを教えてくれると助かるな」
なんだろう、風向きが変わってきた。
「ダンジョンがあります、街中に。あなたもラノベ好きなら見たことありません? ダンジョン配信モノ」
「あの世界観に飛ばされるのか俺? 普通こういう時はあれだろ、剣と魔法のファンタジー世界だろ」
「剣も魔法もありますよ?」
「ちげぇよ! 中世っぽい世界に飛ばせよ!」
「ええ〜……言語統一されてませんし数字なんて便利な概念ありませんし自販機もレンジも冷蔵庫も、挙句の果てには車道を走れる電動キックボードもないですよ?」
「最後のは別にいらねえだろ。いいんだよそういう世界でさ……折角の転生なんだから、ぱーっと異世界に」
「そーんな
「最初から言えよ時間の無駄すぎるだろ」
まあ……仕方ないか。神の手違いで殺された
それにダンジョン配信も嫌いじゃない。流石に転生特典のチートとかもあるんだろうし、現代の世渡り術をフル活用してそれなりに稼ぎながら……
まったり異世界ライフでも過ごそうかね。
「では覚悟も決まったようなので、転生開始です」
「おう……ま、楽しんでくるわ」
「一応お伝えしておきましょうか。あなたはこれから【エディガン】という名前の……最強生物に転生します。文字通り、生物的に最強の生物に、です」
おお? ちょっとは気が利くじゃないか。
そうだよな。手違いで殺しちまったんだから、最強の生物になるぐらいのチートはもらえなきゃな……
最強“生物”? 人間ではなく?
「待て。ダンジョン配信の世界で非人間ってことは」
「ですので、ダンジョンボス生活楽しんで! 王道異世界なら魔王ポジです! ファイト!」
「テメェマジ絶対神殺ししてやっからな覚えて」
こうして俺、伊藤船善……もとい。
エディガンの異世界生活が始まった。
まさかの……ダンジョンボスとして、だが。
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