タイフーン対J-20

 台湾空軍のタイフーン四機編隊は、哨戒飛行をしていた。

 それと与那国島周辺には、航空自衛隊がF-35を四機飛行させ、警戒に当らせていた。

 中国空軍J-20四機編隊は、まだ台湾海峡を出たばかりのところでタイフーン編隊を発見した。台湾海峡はそれほど狭い水路であった。

 J-20はレーダーにより、タイフーンをロックオン。すぐさま長射程ミサイルPL-15を、十六発つるべ撃ちした。

 ミサイルの発射を探知した航空自衛隊のF-35は、タイフーン編隊へリンク16で情報提供した。

 タイフーン編隊も、ESM(レーダー波探知装置)でJ-20のレーダー波を探知。発信源に向けて、ミーティア長射程空対空ミサイルを十六発、全弾発射した。

 ミーティアは撃ち離しモードで発射していたので、タイフーンはすぐに回避機動に入る。そして電子妨害装置のスイッチを入れ、曳航デコイを展開した。

 曳航デコイは、長いワイヤーに引かれる小型の飛翔体である。

 デコイは小さいが、レーダー反射や赤外線放射は、タイフーン実機そのもので、囮となった。

 タイフーンは旋回して回避行動を取り、曳航デコイも、まるで飼い主に引かれる犬のように追尾する。

 その間もPL-15はタイフーン編隊へと接近し、最終的にデコイへと命中した。

 PL-15はデコイに命中するか回避機動にまどわされ、中国側のミサイルは全弾タイフーンを外した。

 タイフーンの発射したミーティアは、中国側のAWACS(早期警戒管制機)の、長視程レーダーに探知され、J-20は回避行動を取った。

 長射程ミサイル同士の空中戦は射程が長いせいか、回避時間も長く取れることを意味し、双方とも命中しづらい結果となった。

 しかしJ-20が攻撃に失敗して帰投すれば、中国の作戦を阻止した台湾空軍の戦略的勝利となった。タイフーンが無傷であれば、なおさらである。

 こんな空中戦が、約一か月繰り返され、空中での戦線も膠着した。

 しかしある日、J-20はより積極的に空中戦を挑んできた。

 それはJ-20がステルス機であることを積極的に生かして、台湾空域に近づいてきたのである。

 この頃タイフーンは二機編隊、それが二エレメンツ、互いに蛇行するように、交差して飛行していた。これは後ろに敵がいないか、互いに確認していたのである。

 もし片方の編隊の後ろに敵機が近づけば、もう片方の編隊が敵機に襲いかかるという算段である。

 この戦法の源流は、第二次世界大戦時に使われた有視界での戦闘法、サッチウィーブである。

 その上、タイフーンはレーダーのスイッチを切っていて、IRSTだけで敵を捜索していた。

 この状態ならば、ステルス機にしろ、非ステルス機にしろ、レーダーを使わなければタイフーンの正確な位置はつかめない。

 レーダーを使えば、タイフーンの優秀なESM機器で逆探知され、方位を特定される。

 タイフーンはステルス機ではない代わりに、かといってステルス機に一方的に攻撃を許すことは設計思想になかった。

 タイフーンはサッチウィーブでJ-20数機を撃墜した。そのせいかJ-20が、台湾へ安易に近づくことを不可能にした。

 それ以外でも、タイフーンのデジタルステルスを信頼して、強力な電波を放つ中国のAWACS機に向けてミーティアを何度も発射した。これは命中こそしなかったが、AWACS機を中国内陸部に押し下げる効果があった。


 それだけでなく、台湾周辺海域、太平洋側を、航空自衛隊のF-35が飛行していた。

 F-35は遠く離れた空から、EOTSとEO-DASより、台湾海峡の広域を赤外線で探査しており、赤外線探知をおこなうAWACS機となっていた。

 これならば中国空軍のJ-20が例えステルス機であっても、台湾に近づけばある程度発見される。

 J-20にもIRSTはあったが、前方を監視することこそできるが全周の監視は無理であった。その点で全周を監視するEO-DASを持つ、F-35に勝てるものではなかった。


 衝突は突然起こった。J-20が八機編隊で台湾を襲ったのだ。

 哨戒していたタイフーン四機は、再建されたレーダーサイトの情報でJ-20へと進路を向けた。

 航空自衛隊のF-35も、台湾空軍へ方位をリンク16で送信した。

 レーダーサイトの人員は航空自衛隊F-35の情報と、レーダー情報を組み合わせて計算し、J-20のおおまかな位置を割り出した。

 地上レーダー員はタイフーンに敵地点を伝え、航空自衛隊のF-35も継続して敵機の方位を伝えていた。

 これらの誘導により、タイフーンはJ-20をIRSTで発見。J-20の側面を突く形で、ミーティアを発射、同時にデジタルステルスと曳航デコイを使用して、敵からの攻撃に備えて回避行動に入った。

 ミーティアはJ-20八機中四機に命中し、残りは引き返した。

 本来ならミサイルの接近を、中国側AWACSがJ-20に教えてもよさそうなものだが、それはできなかった。その理由は、内陸に引きこもったAWACSでは、台湾全域を監視できなかったからである。

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