第31話 冒険者失踪事件
「ウシシシシ……さぁて、ウシミツキノコちゃん……待っててなぁ」
C級冒険者にして採取専門のトルバーは洞窟に潜っていた。
ここはC級冒険者に人気の高難易度ダンジョンだが、トルバーの狙いはウシミツキノコだ。
これが近いうちに高騰すると見込んだ彼は、予め採取して市場に放出する計画を立てている。
(近いうちに王都にやってくる錬金鍛冶師……あいつの腕ならウシミツキノコを使った武器や防具強化ができる。そうなりゃ価値は数倍にまで跳ね上がるだろうなぁ)
素材採取専門でやっているだけあって、トルバーの情報のアンテナは広い。
ウシミツキノコはこの高難易度ダンジョンに生えているとはいっても、実のところ大した価値はなかった。
ここにくる冒険者も、ウシミツキノコには目もくれない。
「お、こんなところにも落ちてるじゃねえか。もったいねぇ、あぁもったいねぇ……」
冒険者の誰かが捨てたウシミツキノコがトルバーにとっては宝にしか見えなかった。
うまくいけば一攫千金を狙えるとトルバーは意気揚々と洞窟の奥に進む。
「お、先客か?」
ダンジョン探索をしていれば同業者と出会うことは珍しくない。
そういう場合はお互い譲り合うのが冒険の秘訣だとトルバーは知っている。
そのため、挨拶をする心の準備をしたのだが――
「……ッ!?」
トルバーは咄嗟に洞窟内の岩壁に隠れた。
冒険者達の一人が血を噴き上げて倒れたからだ。
そして、そこにいるのは黒いフードを被った人物。
(なんだよ! なんだよありゃ! 通り魔ってやつか!?)
漏らしそうになる声を押し殺しながらトルバーは様子をうかがった。
遠くから冒険者達と黒いフードの人物が言い争っている声が聞こえる。
「な、何をしやがるんだ! 何者だよ!」
ここにくるのは当然C級冒険者のみ、しかしトルバーにとって黒いフードの人物はあまりに不安だった。
冒険者とは思えない風体で、何より視界に入れるだけで体の芯から冷えていく。
(あ、あいつ……なんかわかんねぇけどやばそうだぞ)
冒険者達は武器を抜いて黒いフードの人物と相対した。
「あぁ、わかった。いるんだよ、お前みたいな奴がな。あいにくオレ達なら簡単に片づけられるとでも思ったのか」
「残念だがオレ達、C級冒険者パーティ『約束の戦士達』はすでにB級昇級試験のお声がかかっている」
トルバーもその名を聞いたことがある。
三つ子の冒険者パーティ、約束の戦士達。
翡翠の翼が王都から消えるまではC級冒険者の中でB級に近いと言われていた。
「
冒険者達がそれぞれ武器を黒いフードに向けるが何も起こらない。
「……なんだ?」
黒いフードの人物が疑問を口にした。
が、すでに三人に取り囲まれて即総攻撃を受ける。
三人の剣速を見切ったように黒いフードの人物が蝶のように回避。
が、フードの人物が四方八方から斬られてしまった。
三人は黒いフードの人物の動きを予知したかのようにそこにいる。
「
その
トルバーは口を開けたまま閉じることができなかった。
(つ、強すぎる……。あの通り魔、なんのつもりか知らねぇが終わったな……)
三人が黒いフードの人物に斬り込んだ。
常に先手を取った動き、そして攻撃は黒いフードの人物を逃がさない。
間もなく斬り裂かれたマントがひらりと舞う。
「フ……呆気ないな。三人揃ったオレ達に敵う奴なんていない」
「待て、何かおかしくないか?」
あるのは舞ったマントのみ。
その直後、三人のうち一人が崩れるようにして倒れた。
「お、おい! どうした!」
倒れた男は顔を真っ青にして泡を吹いて倒れていた。
その脇をしゅるりと何かが走る。
「へ、蛇だと!?」
「戦いに大切なのは仕込みだよ」
黒いフードの人物が素顔を露にして二人の背後に立った。
二人は身動きをとれずにただひたすら圧倒されている。
こんなことは一度もなかった、
よく言えば経験不足、悪く言えば慢心。
どちらにしろその後悔はあまりに遅かった。
「三人揃えば無敵……逆に言えば三人揃わなかったら
「そ、そこまで……用意を……」
トルバーはその素顔を見て驚愕した。
(あ、あれって……ウソ、だよな? なんで……)
よろめいたトルバーがその場から走り去った。
「こ、これ早く誰かに教えねぇと……」
「どこへ行く」
トルバーの肩が掴まれて、そして洞窟の奥まで引きずり込まれた。
* * *
「冒険者失踪事件、今月に入って三件目だ」
冒険者ギルドでの職員会議にて支部長が厳しい口調で言った。
会議室に緊張が走る。
最近になって冒険者が死体すら発見されずに失踪する事件が増えていた。
冒険者が失踪すること自体は日常茶飯事だ。
例えば魔物に食われてしまえば証拠すら残らない。
そうでなくても、誰にも発見されないような山の中の谷底に落ちてしまえばまず発見されない。
冒険者が失踪した事例が三件。
これの何が問題かとなると場所だ。
「場所はロックラビリンス……。C級推奨のダンジョンで簡単な場所ではない。しかしここに向かった冒険者が次々と姿を消している」
「まーったく! 由々しき事態ですなぁ! 諸君! 耳の穴をかっぽじってよぉく聞いておきなさい!」
ゴマすりで有名な副支部長が会議室で叫ぶ。
誰も彼の言葉など聞いていない。
ただ一人を除いて。
「はい! このダンジョンは封鎖すべきだと思います!」
「クレアン君、突然何を言い出すのかね」
「失踪事件が起きているなら封鎖しましょう!」
「あのねぇ、君ィ。まだなーんにもわかっとらんのだよ。それに魔物に食われた可能性だってある」
「あそこに痕跡を残さずに人間を丸ごと飲み込める魔物なんていません。それに遺留品すらないのは不自然です」
クレアンが口答えすると副支部長が露骨に舌打ちをした。
ラナはクレアンの腕をくいくいと引っ張ってもうやめなさいと訴えかけている。
「封鎖は考えられない。あそこには豊富な資源が眠っている上に副支部長の言う通り、まだ何もわかっていない」
「でも明らかに不自然です。これは人為的な事件として見るべきでは?」
「誰が? 何のために?」
「それは……わかりません」
クレアンは表情で不満をあらわにしたが、支部長の断固とした厳しい顔つきを見て諦めた。
その後、事件の真相を追求する意見などが飛び交ったが実のある進展はない。
「国が調査すべきではないか?」
「騎士団に動いてもらう事案だろう」
「いやいや、あの騎士団が冒険者失踪くらいじゃ動くとは思えない」
いつもの風景ではあるが無駄に時間だけが過ぎていく。
その時、クレアンがスッと挙手した。
「あの……トルバーさん、帰ってきてますか? ロックダンジョンに行くって言ってました。私が非番の日に帰ってきていたらいいんですけど……」
クレアンがその名前を出してようやく、そういえばといった流れになった。
トルバーは五日前に王都を出発したばかりだ。
しかも彼は珍しくクレアンに仕事の詳細を話していない。
「ラナ君、どうかね?」
「い、いえ、支部長。見てないと思います……」
なぜか会議室が静まった。
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