第25話 連休は忙しい!?
「君は明日から、どうするんだ?」
「私は家族で、国へ帰ります。そこでのんびりしますよ。脇田さんは?」
「俺はずっとこっちだよ。娘の学校もあるからね。近場で色々と動くつもりだよ」
周りからそんな会話が漏れ聞こえる、社食のランチタイム。
明日からいよいよゴールデンウィークで、7連休に入る。
みんなの顔は、どこか明るい。
「で、久我山さんは結局、お休みどうするんですかあ?」
どこか気怠そうな美田園さんは、目の前に座って味噌ラーメンを啜っている。
今日もいつものように、二人でお昼ご飯だ。
俺は俺で、今日も日替わり定食、にんにく控えめの餃子をつついている。
「別にどうもしないよ。家でのんびりしながら、どこかブラブラするよ。大阪の観光名所をのんびり見て回りたいんでね」
大阪と言っても、そのエリアは広い。
有名なのはキタと呼ばれる大阪駅周辺と、ミナミと呼ばれる難波駅や心斎橋駅周辺だ。
他にも、天保山や関西空港といった湾岸エリアがあったり、もっと広く外を見渡せば、京都や神戸、奈良といった、心惹かれる場所が満載だ。
今までにも少しずつ足を伸ばしてはいたけれど、とても短い時間で回れるものではない。
「そうですか。つまりは、やっぱり暇なんですね」
いや、そうは言っていないつもりだけど、そう聞こえたのかな。
長い連休に、のんびりと一人で街を散策、これって大人の楽しみ方だと思うのだけれど。
「なら、私がどこか案内してあげます」
「そうか、ありがと……ええ!?」
一瞬聞き逃しそうになったけど、案内って、どういうことだ?
「えと……それって、何……?」
「だから、この前言ったように、私が付き合って案内してあげるって言ってるんです。私はずっとここにいるから、久我山さんよりか詳しいですから」
そりゃ、土地勘のある人間と一緒なのはありがたいけどさ。
でもそれって……同じ職場の先輩と後輩、しかも男女でって、ありなのか?
ちょっと前にもそんなことを言われて、何となく笑って誤魔化していたのだが。
「あれって、本気で言ってたのか?」
「本気ですよ。逆に冗談であんなこと言われると、引いちゃいません?」
いや、今でもちょっと引き気味なんですけど。
「なあ、それって、二人でってことか?」
「そうですね。みんな折角のお休みなんだから、呼ぶと申し訳ないですし。それに久我山さんの道案内に、みんなを付き合わせる訳にはいかないでしょ?」
「美田園さんは、それっていいの? 俺なんかと一緒より、他にやりたいことないの?」
「ご心配なく。やりたいことは、自分で決めていますから。それと、麻雀の対戦をして下さい」
ああ……麻雀ゲームの話ね。
まあ部屋に引きこもって、のんびりと麻雀三昧も、それはそれで悪くはないけど。
何だか学生時代にでも、戻った感じだ。
「まあ、それはいいけどさ、でも折角の休みだし、他に一緒に過ごしたい人とか、いないのか?」
「久我山さん、その発言はセクハラです」
え!? そうなるのか?
家族とか友達と一緒にとか、そう言いたかっただけなのだけれど。
「とにかく、また連絡しますから。たまには、こうして先輩の世話を焼いている後輩のことも、労わって下さい。どうせ暇なんでしょ?」
確かに、ここに来て以来、世話にはなっている。
一度恩を返しておくのは、ありかもしれない。
けど、全く暇って訳でもないんだよな。
と言うのは、少し前に……
◇◇◇
「たまたま空いていたから、予約しちゃったんだけど」
いつものようにベランダで向き合っている時に、電話越しに遠野さんがそうのたまった。
「え、何を?」
「あの、キャンプの話。海に近い場所にある、グランピングなんだけどね」
そう言えば、そんな話をしていた。
半信半疑だったのだけれど、連休中にたまたま空きがあったようで、予約をしてくれたみたいだ。
「ありがとう。それって、泊り、だよね……?」
「……うん。キャンプって、そうかなって。でも二人ともやったことがないから、簡単にできるのでどうかなって。ダメかな?」
普通のキャンプだと、テントを張ったり自炊をしたりと、素人だけでは難しいことがある。
グランピングだと普通は施設やサービスがある程度整っていて、解放的な建物に泊ることだってできる。
未経験者でもお手軽に、キャンプの気分を味わえたりするのだ。
どうしよう、二人だけで夜を明かすことになるけれど、それっていいのかな……
きっと楽しいだろうな、でももし、他の人に知られたら、俺はともかく、遠野さんは大丈夫なのだろうか。
きっと心の中には大事な人だっているのだし。
でも、折角見つけてくれたものを、断ってしまうのも悪いし。
色々な心配事が、頭の中を駆け巡る。
誰か他の人を呼ぶにしても、こっち方面に知り合いはいない。
会社の人達だって、もう色々と予定があるに違いない。
「それって、遠野さんは、俺と二人でいいの?」
「……うん、久我山さんとなら、いいかなって。いつもこうして話しているし。東京に出張に行った時だって、星宮のお父さんの家で一緒に過ごしたし」
それはそうだけど、今回はグランピングっていう解放的な場所とはいえ、個室に近い場所で二人きりになるんだけれど。
少し恥ずかしくなってしまうのは、男の性というやつだろうか。
「あの……遠野さんがいいのなら、俺もそれでいいけど……」
「良かった。じゃあそうしようよ。楽しみだな」
電話越しに聞こえてくる遠野さんの声は明るい。
少し遠く、20メートル先にあるベランダから、遠野さんが手を振っている。
俺の中での戸惑いは消えないけれど、これも後輩孝行の一環、そう考えて、自分を納得させた。
少し心が踊っている自分も感じてしまいながら。
それに、おまけにもう一つ。
『ゴールデンウィークはそっちにいるの?』
そんなメッセージが届いた。
差出人は北条若菜、半年ほど前に別れた元カノだ。
もう必要のない連絡先なので、そろそろ消そうかと思っていた矢先だった。
『一応そのつもりだけど』
『だったら会わない? 私はそっちへ帰るから』
若菜の職場は東京だけれど、実家は京都にあって、大学から東京に出たのだ。
大阪と京都は、電車に乗れば1時間ほどの距離だ。
『会ってどうするんだよ今さら?』
そう送り返しながら、何かあったのだろうなと推測する。
彼女は男子社員の間でも人気があるし、サバサバした性格なので、別れた男に自分から連絡を入れる必要など、普通はないはずだから。
これは、1年近く付き合ってきたことからのカンでもある。
『近況報告よ。お互いのね。昔のよしみでさ』
近況、ね……
少し前の俺なら、そんなものに応じる心の余裕は無かった。
けど何故か今は、あまり心がざわついてはいないのだ。
どうしよう、返事は一旦、保留かな。
◇◇◇
そんなことがあったので、この連休は全く暇ということではなくなったんだ。
むしろ、かなり重大イベントが、控えていることになる。
色々と考えてしまうけれど、せっかくそう言ってくれているのを断わるのも、悪い気がしてきた。
「まあ、空いてる日はあるから、そこで頼むよ」
「はあい。じゃあ後で候補日を送るから、都合のいい日を教えて下さい」
「はい、了解」
美田園さんに向かって頷いて、日替わり定食の餃子を頬張った。
とにかく明日からは、待ちに待った大型連休だ。
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(作者より御礼とご挨拶です)
本作におこし頂きまして、誠にありがとうございます。
年が明け、初春のお慶びを申し上げます。
旧年中は沢山の応援を賜り、大変感謝致します。
本年もどうぞ、よろしくお願い申し上げます。
今年が皆様にとってよいお年でありますように!
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