第39話 竜vs魔族vs人間

 余は手に持った剣を構える。



「父上!!!!? もしそれでアリア様を斬ったら……私は一生父上を許しません!!!!」


 すまんなアーサー。

 余は王なのだ。


 未来を祝福したいと思っていた。

 仲睦まじくも、立派に国を導く姿を見たかった。

 

 そのために苦しくても自らを律し、冷静に貴族と渡り合い、仲間を見出し育て、戦ってきた。


 未来が突然エリオットによって崩れたかに見えたが、お前が引き継いでくれて嬉しかったぞ、アーサー。



 しかし、それでも心を鬼にしてやるべきことをやらねばならぬ。

 逃げるわけにはいかぬ。


 なにせ、ここで魔王など召喚されてみろ。

 もしくは、さらに強力な竜など解き放ってみろ。


 未来などあっさりと崩れ去る。


 余だって、アーサー……お前とアリア殿の未来を楽しみにしていた。


 いずれ産まれるであろう孫と遊んでみたかった。


 可愛いだろうな。


 容姿のことではないぞ?



 苦労した先にある未来で、自らの血を引く子供と戯れるなど、人生最良の時になるじゃろう。


 じゃがな。


 ここで現実から逃げ、お前とアリア殿だけを連れて逃げたとしても、余はその時を味わうことはできぬじゃろう。


 国は消え、人々は苦しむ。


 そんな現実から逃げた余は王ではないただの敗残兵じゃ。


 すまぬな……。


 アリア殿も既に覚悟を決めているようじゃ。


 つまり、アリア殿もその未来を喜んで迎えることはないということじゃ。


 だからお前も覚悟を決めよ。




 そして余を恨むがいい。




「すまぬ、アリア殿。恨むなら余を恨め」

「恨みなどありません……止めてもらえると助かります……」

 間があるのは躊躇ではない気がするのぅ……。


 一片たりとも歪むことのない美しい目が余を真っすぐに見つめ返してくる。

 というか、アリア殿……覚悟が決まりすぎじゃないじゃろうか?


 今なら第二段階と呼ぶあの力を使う際の葛藤や苦悩していた姿とは雲泥の差じゃのう。



「陛下……」


 小さく呟かれるそれを余は危うく聞き逃すところじゃった……。


 すまぬな。覚悟などそんなに簡単に決まるわけがない。

 よくよく見れば、小さく震えている。


 まだ大人になったばかりの娘なのじゃ。


 



 表情が硬いのはカイラスレーヴェンによって力の使用を強制されておるせいか?


 こんな娘に。なんということをするのじゃ。


 しかし、魔物を指定できると言っていたな。

 今まさに伝説の魔王とやらを想像させられているのじゃろうか?


 それなら硬い表情も理解できる。


 許さんぞカイラスレーヴェンよ。









「その魔力のつながりはいつどこで作ったのじゃ!?」

『むぅ?』

「まぁよい。今はそれを断ち切る! 泣くなアーサー! 余は未来を諦めぬことを決めた故に!!!!」

「父上!?」

 余は手に持った剣に魔力を纏わせ、構える。

 あの魔力線によってアリア殿が身動きとれぬのであれば、断ち切ってしまえばよいのだ。


 見ておれ、アーサー!

 我々はアリア殿の献身と覚悟に対し、諦めることなど許されんのだ!


「"魔断"!」

『やめろ、リナレス!!!?』

「邪魔をするなぁぁぁぁぁぁあああああ!」


 余が力の限り、そして魔力を込めて剣を振ると、カイラスレーヴェンからアリア殿に向かって伸びていた魔力線が立ち消えていく。


 収縮していくエリオットは既に人間ほどの大きさまで小さくなっている。

 もともと半透明だった黒いもやは圧縮され、真っ黒に染まっている。

 どうだ? 間に合ったか?



『ふん、少しだけ遅かったな! 来るのだ、我が餌、魔王アルゼルバモンよ!』 

「くっ……」


 しかし、遅かったのか?

 黒い魔力がさらさらと粒になって消えていく。

 エリオットはもう諦めても構わん。仕方ない。だが、どんな魔物が来るのか? 本当に魔王などが現れるのか!?





『くっくっく……』

「きゃぁ!?」

「「「『ん?』」」」

 黒い魔力の塊を前に固唾を飲む余たちの、なぜか後ろから楽しそうな声が聞こえ、同時にアリア殿の叫び声が聞こえたので一斉に振り向く。


「なんじゃ?」

『ほう、ここにいたか……』


 なぜ、"何か"がここに?

 そして……やつめ、アリア殿をもともとの目的通り奪いに来たのか?

 もしかしてお前が魔王? とかはもうどうでもよい。この状況でそれはまずいな……。


『憎きカイラスレーヴェンよ。ようやくたどり着いたぞ……』

『誰だ貴様は……聖女を返せ。それは我のものだ』

『ふん、そうはさせぬ。この娘は貴様を倒すための生贄。この地獄の生態系を壊すための聖戦への切符だ!』

『貴様……そうか。魔物……いや、魔族か。ならばそこで座して待っているがいい。我らは既に貴様らの王である魔王アザゼルバモンを呼んだのだからな』

『なにを!? 貴様程度が魔王様を喰おうというのか!? かつて挑み、敗れて絵に成り下がった分際で畏れ多いぞ!』

『黙れ下っ端魔族め。魔王に挑んで絵にされたわけではない! 我は絵から戻るために魔王を喰い、かつての怨敵を倒すのだ!』

『絵に何ができるのだ! 貴様など魔王様の炎に焼かれて死んでしまえ!』

『そのためにバカを使ったのだ。あれを依り代に出てきた魔王など、魔力だけの餌にすぎぬ。さぁ、早く来い!』

『卑劣な……人間の底辺を使って呼び出すことで魔王様の弱体化を狙うとは……』



 カイラスレーヴェンと"何か"……魔族だったようだから魔族と呼ぶことにしよう……が何やら因縁や恨みの籠ったやり取りをしている。


 言われておるぞ、エリオット?



『さぁ、来るのだ!』

『くっ、お戻りください魔王様! くそっ、姿が変わる。遅かったか……』

 収縮した黒い魔力の塊が再び膨張を始める。

 明らかに何らかの魔物が出てくる予兆に、カイラスレーヴェンは興奮し、魔族は焦る。


『いや、まだだ。この娘を取り込み、カイラスレーヴェンの企みを阻止してやる!』

「やめろーーー!!!」

『邪魔をするな!!!』

 そして捕えたアリア殿を喰らおうとする魔族に斬りかかったアーサーの剣はその魔族自身に白羽取りされた。


「アーサー様、大丈夫です! お下がりください!」

「アリア様!?」

 そこに声をかけるアリア殿。


 アリア殿。そこは助けてくれと縋ってもよいのじゃ。

 むしろそうしてやってほしい……。




 シュイィィィィィ~~~~ィィィン!!!!!!!



 そこに不思議な音が聞こえてきた。



『おぉ! 現れたか!?』


 高揚したカイラスレーヴェンの声……。


 そして振り向く間もなく光の筋が"何か"を直撃し、アリア殿を掴んでいた腕を切り落としたのだった……。

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