第36話 聖女の力?②

『"操る"のは"動かす"のとは効果が全く違う。"魔力の淀み"を動作させるという意味では同じだが、その後が違うのだ。通常"魔力の淀み"から何が現れるのかはわからないが、"操る"ことができればそこから現れる魔物をある程度指定できるのだからな』

「「「!?!?!?」」」


 なんじゃと?

 それはまさか……。


『わかったか? 上手くやれるようになれば、この前のドラゴンのような強力な魔物を自由自在に呼び寄せられるようになるのだ』

「……それは……」

『わかるだろう? そうすればもう二度と帝国のような国を恐れる必要はないのだ。それに、強欲な貴族共などに譲歩する必要もなくなるのだ』

 カイラスレーヴェンの声は急に興奮したような口調に変わり、流ちょうに喋っているが、一方でアリア殿の表情は浮かない。


 それはそうだろう。当たり前じゃ。


 ただ"魔力の淀み"を動かすことですら、聖女としての在り方にはそぐわぬと強い抵抗を感じておったはずじゃ。だから思い悩んだはずなのじゃから。


 それでも実行してくれたのは帝国軍による卑劣な行為……我が国で起きた悲劇を目の当たりにしたからじゃ。これ以上、苦しむ民を生みたくないと思ってくれたからじゃ。


 カイラスレーヴェンはそれをわかっておらぬのか?

 そんな心優しいアリア殿がいくら聖女の力の段階の1つだからと言って、凶悪な魔物を呼ぶようなことはしないだろうことが。



「アリア様。大丈夫です。決してそのようなことをする必要はないのです。そんなことになる前に、私が敵を切り伏せます」

「アーサー様……」

 アーサーが動揺しているアリア殿を慰めている。

 うむうむ。それでいい。

 お前はしっかりとアリア殿を支えるのだぞ?


 既に帝国に壊滅的なダメージを与えた今、王国としては二度とアリア殿に無茶を言うつもりはないのだ。頼り切るつもりなどないのだ。あっ、いや。あの光る球体は自然発生した何かじゃから王国はそもそも知らぬことだがな。


 "魔力の淀み"を集めて帝国軍にぶつけるような真似も、帝国が再び攻め入って来て騎士団や魔導師団が破れでもしない限り考えはしない。だから騎士団や魔導師団自体、より強力なものにしていく必要がある。


 そのための施策なのだとしたらもちろん余の望むところゆえ、余自身が稽古をつけてやってもよいし、カイラスレーヴェンの絵が協力してくれるなら受け入れよう。


 しかし。

 しかしな。


 聖女たるアリア殿に何かを求める必要はない。ただこの国にいてくれて、民を照らしてくれれば良いのだ。


「カイラスレーヴェンよ。諦めろ。アリア殿はそのようなことは望まない。魔物を操るなど」

『むぅ……』

 しかし不服そうな声。考えが受け入れられなかったからか?

 だったらこちらにも考えがあるぞ?


「燃やそう……それがいい」

『待てリナレス! おいっ! 待て! 相変わらず貴様は早計すぎるぞ!? 何をする!!?』

「燃やすだけじゃ。そうすればこの国は平和じゃ。帝国を追い出し、貴族たちへの対処を終えた今、安定した治世を実現するためには不用意なことをすべきではないのじゃ。今までありがとう。助かった」

『待てと言うのに! 貴様!? 先祖であるオルベアの言を忘れたのか!?』

「悪いが知らぬ。先代国王より何も伝え聞いておらぬ!」

『そうだった。我が悪かった。勝手な動きは避けるから、それだけは!!!?』


 容赦をする必要性を感じぬゆえ、王城に入り、真っすぐに絵のかかっている広間に向かう。その間もカイラスレーヴェンの声は何かを喚いているが、聞く必要を感じない。


 むしろ、あれだけ聖女が大事だと伝えていたはずなのに、その聖女が悲しむことをさせようとするとはどういうことか?

 

 


「カイラスレーヴェンの絵……本当にこの絵画に意思があって、喋っているんですか?」

 後ろについてきたアーサーが絵を見上げて呟く。

 普通に見れば荘厳な古の絵画でしかないからのぅ。

 だが、違うのじゃ。

 これは協力者ではあるが、自由意思を持ったものなのじゃ。


「あぁそうじゃ。お前には……アリア殿にもか。話しておく必要があるのぅ……と言っても、急遽王位を引き継いだ余は知らぬことも多いのじゃ。まぁ、燃やしてしまうゆえ、今後これに煩わされることもあるまい。そもそも"魔力の淀み"から魔物が現れる現象を引き起こしている魔道具なのであれば、燃やせばその力も消える……」

『やめろ!? そんなことをして何になるのだ!? やめろ~~~~!』

 やめろという言葉が聞こえるだけで抵抗はない。


「えぇと、でもこれまで協力してくれていたんですよね? 燃やすのは早計過ぎませんか?」

「アーサー。余も協力には感謝しておる。だが不明なことも多いのじゃ。例えば、なぜ"絵"なのかとかな。かつてこの国が建つ前からこの地にいた竜がなぜ絵画になっているのかとか……」

「まぁたしかに……」

『なんだと? それを知らぬだと? 簡単な話じゃ! 我は……』




 ズゴォォォオオオオォォオオオ~~~~~~~~~~ンンンンンン!!!




「なっ、なんじゃ!?」

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