第23話 アーサー第二王子のターン①バカ確定

「そんなところで何をしているのかな?」


 特に意図はないが、王城の廊下を歩いていたら押し問答をする衛兵と若い女性の声が聞こえた。


 聞こえてきた方からするとバカ兄たるエリオットの部屋の前で、問答の内容からするとミラベルとか言うバカ兄の愛人に間違いない。

 だが、万が一違った場合を考慮して声をかけた。


 振り向いたその姿はミラベルだ。

 学院で何度か見たことがある、派手な見た目。

 今は謹慎を命じれられていたせいか、少しやつれているようにも見えるが、間違いない。


 申し訳ないがこの女のどこがいいのか理解できない。

 確かに明るい茶髪に甘いたれ目気味の顔は華やかで良いのだろうが、底が浅そうな……正直に言って頭の悪そうな軽薄な表情、甲高く耳障りが悪い金切り声、無駄にスリットが入ったセンスの悪いドレス。


 自分なら絶対に近付きたくない。


 これでは遊郭か何かみたいだ。



「あっ……あなたは!?」


 っていうか、そもそもミラベルは今なお謹慎中のはず。

 なんで勝手に出てきているんだ?


「ミラベル・エルメラーダ。あなたは国王陛下から謹慎を申し付けられていたはず。なぜここに?」

「謹慎など、酷いです! 私はただ婚約者であるエリオット王子に会いに来ただけです」

「はぁ……?」


 この女は何を言い出すのだろうか?

 『酷い?』と言っても、処分なのだから従うしかないはずだ。

 なぜ堂々と男に会いに来たなどと言える?

 

 しかも、その男も謹慎中だ……。


「お願いです、アーサー王子。私にエリオット王子に会わせてください」


 バカなのかな?

 潤んだ目で見つめられても気持ち悪いだけなんだが。


 もしかして軽薄で軽そうな頭は本当に振ったらカランカランと音でもなるんじゃないだろうか?

 むしろ何も入ってないから鳴りもしないかな?


「ミラベル・エルメラーダ。あなたは国王陛下から謹慎を申し付けられていたはず。なぜここに?」

「ですから、エリオット王子にお会いしたいだけです!」


 うん、言葉が通じない。


 なぜ会えると思った?


 面白そうだから聞いてみよう。

 

「あなたも兄も謹慎を命じられています。謹慎という言葉がわかりますか?」

「謹慎なんて酷いです! そんなことを命じられるような悪いことはしていません!」

「……」


 バカなのかな?


 それを決めるのは国王陛下であって、君じゃないんでちゅよ?

 わかりまちゅか?


「私にはグレアナルド公爵とレオメット侯爵がついているのです。いくら国王と言えど……」


 『なのかな?』じゃなかった。バカだった。


 グレアナルド公爵とレオメット侯爵が揃えば国王陛下の命令が無視できると?

 本気でそんなことを思ってる?


 笑いをこらえるのに必死だった。


 というか、父上がなめられすぎでは?



「ほう……どうしてグレアナルド公爵とレオメット侯爵があなたにつくのですか? 彼らは貴族です。国王陛下の命令には従うと思いますが?」

「そもそも私やエリオット王子を閉じ込めるなんて、お二人はお許しになりません!」


 やめてくれ。

 それ以上、僕の腹筋を攻撃しないでくれ。


「くっ……。それはなぜ? あなたとグレアナルド公爵とレオメット侯爵に何の関係があるのですか?」

「グレアナルド公爵は祖父でレオメット侯爵はお父様だからですわ!」


 ……。


 ……。


 ……。



 なんとか耐えた。

 誰か僕を褒めてほしい。


 そして、この女は何を言い出した?


 グレアナルド公爵の孫で、レオメット侯爵の娘?

 本当に?



 それって、レオメット侯爵の浮気だし、グレアナルド公爵の娘は結婚もせずに通じたということになるのでは?


 そして、そんな大っぴらにできない事を理由に国王陛下の命令を拒否できると本気で思ってるのか???



 しかし、これで多少なりとも理解が進んだ部分があった。


 なぜバカ兄は自信満々に子爵家の娘などと婚約すると言い出したのか?

 それで咎められないと思ったのか?


 それから、アリアの父でもあるレオメット侯爵がアリアの婚約破棄に反対しなかったのか?


 疑問に思っていたことがつながる。


 と同時に、目の前のバカのお花畑な思考に笑いをこらえるのに必死だ。





 だから気付くのが遅れたのは勘弁してほしい。




「危ない!」

「なっ……」

「きゃあぁあぁぁああぁああああ」


 突然現れた黒いなにか。


 "魔力の淀み"かと一瞬思ったが、すぐに違うと理解した。


 淀みから直接的な攻撃が放たれるなんてことはあまりないからだ。



「大丈夫か?」

「はい。聖女様の力ですので」

「なるほど」


 そして衛兵はアリアが王城の護衛用に力を施した武器を使っているらしく、きちんと攻撃を弾いたようだ。



「アーサー王子!」


 再び襲い掛かって来た攻撃を衛兵がまた弾く。



 グブグブグブ


 黒い何かがミラベルを取り囲むように広がっていく。

 なんだこれは……?


「なんなのよこれ!? 助けて! 私はミラベル! 高貴な血を引いているのよ! ねぇ! そんなところで見てないで命がけで助けなさいよ!」


 そしてなんだこいつは?


 そもそも僕自身にとっても、王家にとっても、お前より衛兵の方が価値が高いんだ。


 それは不穏な雰囲気に気付いて駆けつけてきた騎士団員や魔導師団員についても同じ。


 とりあえずあのバカ女ごと黒い何かを王城の外に放り出そうか。



「みな、少し時間を稼いでくれ! 僕が吹っ飛ばす!」

「「「「はい!」」」」


 僕の指示に従って僕の周りを囲むようにみんなが展開してくれた。


 そして黒い何かが散発的にはなってくる攻撃を全て防ぐ。


 やはり優秀だな。


 

 さぁやろう。


 アリアがいなくても。僕だってそこそこ力があるんだよ?


 最近お互いに忙しくて会えていない。もちろん婚約してお互いに準備をしているところだから不満はないけど良いところを直接見せられないのは残念。だけど、まずは仕事をしないとね。


「なに!? なにをするの? ねぇ? なによそれ。そんなの放って私に当たったらどうするのよ!?」

「ホーリーストライク!!!!!」

「いやぁぁああああああああ」


 当たったら?

 当てるんだよ。

 やっぱりバカだな。





 とりあえず窓から外に吹っ飛ばすことに成功した……





「なんじゃあぁぁぁああぁあぁああ?」

「「へっ! 陛下!?」」





 が、なぜか陛下たちの声が聞こえてきたので、慌てて中庭に急ぐ僕だった……。

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