第18話 狂犬チワワ
高田部長はボランティア部の部長で、しかも校内のちょっとした有名人だ。
背は低いが(145cmくらいだと言っていた)、優れた容姿から人気者になるんじゃと思いきや、 誰にでも自分の意見をしかも歯に衣着せぬ形でズバズバ言うので、狂犬チワワというあだ名がつけられていた。
実際、敏腕であることは間違いないんだが……。
「折衝というと、何か問題でもあるのですか?」
高田部長がそう聞くと、塩釜会長はかるく頷いてから全員の顔を見回しながら話した。
「うむ、基本的に大きな問題は毎年無いのだが……去年の文化祭後に学校に訴えがあってね。文化祭参加の生徒であるとか、参加者のマナーがどうのこうのと……実は警察が呼ばれる騒ぎがあってね。学校からは苦情なしという条件を突き付けられている」
「そんな事、去年の文化祭後に聞いてなかったぞ、隠していたのか、生徒会は?」
塩釜会長の説明した内容に早速噛み付いている高田部長。
まあ、周囲の住民からすれば学校の都合で文化祭を開催して騒乱していれば迷惑に思うというのもわからなくはない。
しかしまあ……学生でいられる時間は短いし、その間にできることは何でもやっておくべきだ。
これは30を超えたオッサンである僕だからこそ、実感として思う。
「去年の件は既に終わったあとに持ち上がってきた話であるし、明るみに出れば今年の開催も危ぶまれるんだ。生徒会としては穏便にことを進めたいと考えている」
「生徒会じゃなくて、あなたが、でしょう。ボランティア部にやらせれば生徒会としては楽ができるからですか」
「そう思ってくれて構わないよ。あとは生徒会としても楽じゃない」
「ボランティア部が失敗したら生徒会が出るという腹づもりでしょう」
「失敗するとは思ってないけどね」
睨むようにして話を聞いていた高田部長が会長の依頼を刺す。
まあ、こう言ってはなんだが、どちらかというと生徒会が責任を持たないといけない仕事だと僕も思う。
しかし、辛辣な高田部長の意見に対しても塩釜会長は動じた様子もない。
「もちろん生徒会が対処すべき内容だと思う。しかし、ボランティア部は生徒会の外局だ。つまり生徒会とほぼ同等の権限を持ってボランティア部は事態に対処できるということだ」
「ものは言いようだな、生徒会は自分の責任を果たそうとしていないように見える。それに学校側にも責任があるんじゃないのか」
高田部長が不満そうに返した。
この人たち、もしかして仲が悪いのか?
「学校は文化祭は生徒が主導でやってるということで介入したがらない。あとは生徒会が持っている仕事だけで正直、対外的な交渉などやっている暇はない。内部的な文化祭開催に関する仕事は生徒会が、それ以外のことに関してはボランティア部に一任したいんだ。さもないと開催すら危ぶまれる」
「……学校も無責任な態度に見えますけどね。文化祭の開催を人質にボランティア部を働かせるわけですか」
高田部長は不服そうな雰囲気ではあったが、言い分はわかっているのか言い返さずにいる。
どっちにしろやらざるを得ないのだから仕方ないだろう。
「わかりました、周辺住民との会議については学校の教室を使用させてほしいのですが」
「高梨くん」
「高梨くんは賛同してくれるようだよ。じゃあ君にお願いしようかな」
「予算はつきますか」
「それは……」
細かい話は会長と、結城を交えて詰めることになった。
「犬にやらせる仕事だと思って回したようですから蹴ってやろうかと思いましたが……高梨くんが意欲的ですから引き受けましょう」
「大いに助かるよ、高田部長」
「ふん、最初からボランティア部は拒否権がないんでしょう」
会長は笑顔を浮かべるだけではっきりとは答えない。
結城を通して諸々の連絡をもらえるということで解散になった。
部室へ戻りながら僕たちは雑談をしていた。
高田部長は僕が折衝をやると言ったことに少し驚いているようだ。
やりたくなんかないが、学生たちが頑張っているんだ、ここは僕が手伝ってやらないといけないだろう。
「高梨くんは去年、ボランティア部の活動に全然参加しなかっただろう。別に任意活動だからそれ自体はいいんだが……どうしたんだ急に」
「そうですね……」
実は精神的にはオッサンになったから若者のことを応援したくなったとは言いづらい。
しかし、まあ、今回引き受けた理由自体はそのまま話しても大丈夫だろう。
「文化祭を楽しみにして頑張っている生徒がいるからですかね。つまらない揉め事で無くなったら悲しむ人がいるのは嫌だ」
「ふうん、君はもっと冷めた人間かなと思っていたがなかなか面白いな」
まあ、実際、この春までは冷めたボッチとして生きていたからな。
30才で社畜やってると、学生時代の後悔みたいなのが積み上がっていくんだ。
ある意味ではその復讐をしてると言ってもいい。
「センパイがやるなら、私もやりますよ!何でもお手伝いします!」
「ああ、助かるよ。一人じゃ骨が折れそうだ」
「まかせてください!こう見えて経験豊富なんですよ、私!」
未来から来たというつばめは彼女が言うとおりなら本当に経験豊富なんだろう。
心強くはあるが、現在のつばめは高校1年生だということを忘れてはいけない。
「何言ってる、上級生の僕に花を持たせてくれてもいいんじゃないか」
「どうしましょうかねえ」
「つばめくんは高梨くんと知り合いなのか」
「ええ、中ガッコのときには同じ科学部でしたから」
「そうなのか、つばめくんはやる気があるみたいだから、高梨くんのサポートを頼むよ。あの集まり具合を見てくれたら分かると思うが、ボランティア部の部員は殆どが有名無実でな」
「高梨センパイはやる気みたいですから、大丈夫ですよ!」
あんまり、僕に期待をかけられすぎても困るんだが……。
部室についた僕たちは、「なんでも相談」くんの札をかけずにテーブルに座った。
今後の方針についての会議のためだ。
僕から話し始める。
「折衝については、日取りを決めて学校で会議をしようと思います。その際に参加していただけなかった場合は、文化祭の開催に関して賛同してもらえるとみなします」
「それで納得してもらえるかね」
高田部長が訝るように聞き返してきた。
「逆に意見があるなら参加するでしょうし、地域住民との問題は数が多くなればボランティア部でも個別に対応はしきれないと思います」
僕が言うと、つばめがニコニコ顔でさらにこう続ける。
「いっぺんに解決できれば、ラッキーですよね」
まあ対応するのは僕たちになるんだけど。
高田部長は納得したようで、ひとつ頷くと続けてきた。
「それが現実的なところか。内容については考えているか」
「今、話を聞いたばかりですから」
「それもそうだな」
「とりあえず集まってみんなで話せばいいんじゃないですか!ね、センパイ!」
なんでつばめはそんなに楽しそうなの?これめちゃくちゃ面倒くさそうよ?
「会えないお宅もあるんじゃないか」
高田部長は慎重派だ。正直、こういう人が味方にいてくれるのはありがたい。
「いずれにしても、おそらく会議に相談を持ってきてもらってそこから対応を考えることになるでしょう。それでこの早い時期に生徒会から依頼が来たんでしょうし」
そうか、と高田部長は思案している。
「それより、高梨くんは随分、しっかりしてるんだな。大人の考え方みたいな」
「え、た、たまたまじゃないですかね」
何だこの人、妙に鋭いじゃん。
実はオッサンだということは、誰にも話していないし、ギリギリまで隠しておきたい。
現時点では理由はないが……むやみに話す内容でもなさそうだからだ。
「センパイは昔からとっても頼りになるんですよ!」
「そうか、付き合いの長いつばめくんがそう言うなら間違いないな」
(しかし結城と話すようになって、つばめには過大な評価を受けている。そして前世では関わりのなかった高田部長と話すようになって……僕はどうなろうとしているんだ?)
塩釜会長、どういう問題があるかははっきりと言わなかったが、それが引っかかるな。
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