第3話 スマートフォンって珍しいんだよ

 結城は何を言っているんだろう……。

 確かに結城凛は高校時代に僕が好きだった、つまりその憧れの人だ。

 だけど、結婚なんて言われても実感がない。


 つまり、僕には結婚した記憶がない。


「僕たちは学生だし、結婚できるのは18歳になってからだと思うけど」


 僕の言うことを聞いて、結城はまぶたを閉じる。

 そして再び開き、僕の目をじっと見て言う。


「今まではね。でも、未来、つまり将来的に、私と高梨くんは夫婦になるのよ」


 オーケー。

 なんだかよくわからないが……。つまり、この結城も未来からやってきたということか?

 僕みたいに記憶だけを持って、この時間に来た。

 そんなこと、いくつもあるもんだろうか。

 ここはとにかく慎重にならざるを得ない。

 僕が未来から記憶を持ってこの時間へやってきたということは、結城は知らないはず。


「ええと、結城さんはつまり僕と交際したいってことかな?」

「いえ、結婚するのよ。それは確定した未来なの」

「告白にしては……ちょっと強気すぎる気もするけど」


 とりあえず、ここは未来云々ははぐらかすしかない。

 この結城の言動を逆手に取って、僕の事情を探られないようにしなくては。

 タダでさえ未来から戻ってきた時間旅行者が複数いるだけでややこしくなる。


 第一、


「あなたのことなら、なんだって知ってる。だって夫婦だったんだから」

「にわかには信じられないけど……」

「今までは私たち、接点がなさすぎだわ。ねえ、これからもっと一緒に過ごすことでお互いのことをよく知り合わない?そしたら、夫婦だったときのことを思い出すかも」

「夫婦だった時間を過ごしてないのに!?思い出すことは無いと思うよ」

「あ、じゃあ、これから夫婦になるに当たってもっとお互いのことを知るのは大切でしょ?」


 なんだか情熱的な告白を受けているようにも感じるが、言っていることが現在と未来がごっちゃになっているので、聞いていると混乱してくる。

 僕は自分のこれからのことも考えなくてはいけないけれど、結城凛が時間旅行者であるかどうかについても考える必要があるのだろうか。


「そ、そうだね。でも、その戸惑っているというか」

「さしあたって特別なことをする必要はないと思うけど、そうね、デートに行きましょうよ、もっと相手を知るために」

「で、デート!?」

「そう、デート。その……あなたにせっかく会えたんだもの」


 結城は魅力的な女性だ。高校時代の僕が好きだったことを含めて、それは間違いない。

 しかし、いきなりデートすることになるとは。

 急展開すぎて思考がついていかない。


「だめ?」

「い、いや……その、初めてだから、びっくりしちゃって。行こうか、デート」

「やったっ!じゃあ、いつものあそこね」

「いつもの?ど、どこ」

「あ、そうか。ショッピング・モールよ。初めてのデートの場所で、その後もよく行ったの」

「そうなんだ。ごめんね」

「いいの、また二人で思い出を作っていけばいいんだもん」


 結城はこれ、連絡先ね、とスマートフォンを差し出してきた。

 僕は、同じようにスマートフォンを出そうとして、あれ?これは……。


 パカパカの携帯電話だ。


「ショートメッセージも受け取れるから。じゃあ番号交換ね」


 僕は、一度目の人生では絶対に手に入らなかったであろう結城の電話番号をゲットしたのだった。

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