Duality Online~わがままお嬢様と羊執事のVRMMO漫遊記~
蘭桐生
プロローグ
プロローグ
「みんな。これまで本当にありがとうな! このゲームを始めて3年という長くも短い期間にこんな素晴らしい仲間たちと出会えたのは俺の人生でもトップクラスの幸運だった!」
西暦2067年3月末
全世界で1000万ユーザーを誇る有名なフルダイブ型VRMMORPG『
彼の名前は
仲間内では”NAMIさん”や”狼おじ”と呼ばれている彼だが、ワーウルフのアバターで相手を殲滅するその姿から、所属しているクラン名も相まって”
またクランマスターという立場についていた彼は30代のおじさんだと公言しており、クラン内での人間関係の緩衝材となったり、人生相談や受験生の勉強を見たりするということもあった。
そんな親しみのある彼との別れを惜しむ声は多い。
「狼おじ! ボス攻略とかイベント手伝ってくれたり、今まで本当にありがとうございました!」
「クランの皆を纏めてくれてたリーダーが居なくなると寂しくなるぜ。いつでも戻って来いよな!」
「まずだぁ......や”めな”いでぇ......」
「NAMIさんたちは私の恩人です! 空いた時間に勉強を教えてくれたおかげで志望校に受かりました!」
「NAMI君のおかげでアタシも心が救われたわ。ありがとね......」
レクリエーションアイテムである花火やエフェクトの派手な魅せスキルがクランハウス内を彩る中、所属しているクランのメンバーから感謝や別れを惜しむ声を受けつつ、彼は送られてくる個別メッセージなどにも律儀に返信していく。
「こらこら。これじゃ何時まで経ってもNAMIがログアウト出来ないじゃねえか。寂しい気持ちは分かるがその辺にしとけ」
このままではそろそろ0時を回ってしまうというところで次のクランマスターを任された
「SHOさん。クランの今後のことは託しますね。皆が楽しめるように運営してやってください」
「ははっ! 最後まで難しい注文を言いやがる。ま、お前さんとは違って肩肘張らずに気楽にやっていくさ」
笑って答える狸人アバターのMAIN-SHOは引退する狼NAMIにとって最高の相棒と呼べる存在だった。
2人は縦横無尽に先陣を切るワーウルフを狸人の幻惑魔法によって援護するというコンボで数多のボスモンスターや他クランのプレイヤーを翻弄して来た。
クラン結成当初からの最古参でもある。
詳しくは語らないまでもお互いの人生相談やゲーム内でリアルの愚痴を言い合う仲でもあった。
そんな人物だからこそMAIN-SHOに後を託したのだ。
二人は向かい合ってミニウインドウを開き、今までに狼NAMIが心血を注いで集めた超貴重な装備やアイテムの譲渡やクランマスターの権限移譲など一通りの引継ぎ作業を終える。
最後の挨拶は相棒との無言の握手だった。
そうして最強プレイヤーの一角とも呼ばれていた狼NAMIはFO2から引退した。
◆ ◆ ◆
「はぁ~。良い経験だった。でもやっぱトップを維持するプレッシャーには疲れたな。もうしばらくゲームはいいや。って、3年も30代のおっさんを演じ続けてたせいか言動まですっかりおっさん臭くなってんな!」
そう言って脳波読み取り型情報端末のVRバイザーを外した青年の名前は
この春から国立
彼にとってFO2は中学卒業までの3年間、部活などにも入らずにほぼ毎日ログインしては攻略やレベル上げ、他の者の手伝いなどをして過ごしてきた生活の一部であった。
「もうこんな時間か。明日は入学前オリエンテーションだったな。さっさと寝よ」
彼が名門校である聖純学園へ入学するのは偶然決まったようなものだが、中学ではゲーム三昧で疎かにしてきた部活動やリアルでの友人関係など、これから始まるであろう学校生活に期待している部分も多々ある。
クランの皆が引退式まで開いてくれたことが嬉しかったミナミは仲間たちの別れの言葉を思い返しながらもいそいそと布団を被り就寝した。
この時の彼は自分がすぐにまた毎日のようにゲームの世界へどっぷりとハマることをまだ知らない。
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