第58話(2) オアシスの村
【砂漠行8日目】 200キロ
30キロ、オアシス方向に進んだ。上空からオアシスが見えてきた。到着は日没寸前。キャラバンに戻って、オアシスの位置を報告した。
ムスカが旦那様に「オアシスの脇にベルベル人の村があるはずです。水利権を守るために武装してます。仁義を通して使わせてもらいましょう」と言う。旦那様とムスカが村の方に行く。女は後ろに下がってろ、女のいるキャラバンは襲撃されるからな、と言われた。襲撃されても皆殺ししちゃうんだけど、目立たないようにことなかれで行動しないといけない。
「銀貨で払ってやったよ。それと酒をプレゼントした。それから、オアシスに直接入るのは水質保全の問題でダメだ、って言うから、じゃあ、浴場を脇に作ってやって、水を引き込んで浸透槽を作ってやると言っておいた。他の人間も使えるようにしておく。浴場付きオアシスなら入浴料も取れるぜ、と言っておいた」と言う。
確かに、ここは低地で、地下水が湧き出た泉というところ。42人が水浴びして、ラクダが水を飲んだらオアシスが汚れてしまう。
絵美様が村人から見えない砂丘の陰で、くぼみを作って、直径10メートルくらいの浴槽を作った。浴槽面は硅砂の溶けたガラス質になっている。ラクダの水飲み場も作った。オアシスに向けて細いトンネルを導水路としてうがって水を引く。上下の引き上げ板でバルブ代わりにした。排水路の終点で、十数メートル井戸を掘って、浸透桝にする。お風呂に入れる!!!
オアシスは、水面と周囲にはえているヤシの木などの植物からの水の蒸発で周辺の気温は低くなる。さらに夜になると急激に温度が下がるので水の温度はさらに下がる。日没あたりがちょうどいい。ぬる湯だ。
砂漠の民は、オアシスに住んでいる人間でも入浴の習慣はない。体を拭う程度。絵美様の言う20世紀の映画で、オアシスを見つけて、ドボンと飛び込んだら、水質汚染になるわよね。でも、排水設備付きの浴場なら、水浴びしても大丈夫になる。
みんなで水浴びした。ラクダにも水を飲ませる。こいつら、どれだけ飲むのかしら?150リットルくらい飲むんじゃないかしら?ムラー様が言うには、ラクダがコブに水を貯めるなんて間違いだ、と言う。飲んだ水は血液中に吸収され、大量の水分を含んだ血液がラクダの体を循環する。ラクダ以外の哺乳類では、血液中に水分が多すぎるとその水が赤血球中に浸透し、その圧力で赤血球が破裂してしまうが、ラクダは水分を吸収して2倍にも膨れ上がっても破裂しないのだそうだ。なるほど。
水浴びして生き返った。もう体中、ジャリジャリ。あそこもネトネト。一昨晩、いっぱいムラー様に出されたけど、洗える水もなくって、海綿スポンジで拭いただけだもん。やっぱり、砂漠のセックスは砂は入るしベトベトになるから、ダメだね。それでも砂漠の民は平気なんだよねえ。
夕食の準備をする。ムラー様がバーベキューにしようと言う。村人も呼ぼうと言う。村は、15家族ぐらいだった。代々ここに住んでいる。全員で150人くらいだ。
村の長(おさ)が村人を引き連れてきた。ムラー様が、浴場の使い方を教えている。この引き上げ板で、引き入れる水の量を調整するんだ、とやってみせている。ちゃんと掃除すればずっと使えるぜ、と言う。
ムラー様の横に村の長(おさ)が座った。羊皮紙に書かれたボロボロの家系図なんかを見せている。数十代続いているようだ。ベルベル人もオアシスのメンテがあるから、ここを襲うものはいないとのこと。
ムラー様が村人たちに酒を振る舞った。もちろん、水で薄めて。村人からデーツやナッツなどを買った。こちらも綿の反物、糸や針などを売った。払いはアウレウス金貨じゃなくて、デナリウス銀貨、セステルティウス青銅貨、アス銅貨で支払う。アウレウス金貨は25デナリウス銀貨で、デナリウス銀貨1枚は約二千円の価値がある。
1アウレウス金貨 約5万円、デナリウス銀貨25枚
1デナリウス銀貨 1デナリウス銀貨=2千円
=4セステルティウス青銅貨 1セステルティウス青銅貨=約500円
=16アス銅貨 1アス銅貨=約125円
オアシスの民にとって、金貨5万円とか銀貨2千円をもらっても、交易で相手がお釣りをもっていないのだ。逆も同じ。小銭がありがたがられる。ムラー様は小銭もたくさんもってきている。
村の長(おさ)が、若いのを二十人ほどどうだい?そっちも女奴隷がいるだろう?交換しないか?と言う。こういう閉鎖的な村では、若い人間を入れ替えしないと、プトレマイオスの一家のように近親婚になってしまうのだ。だから、近隣の村と若い男女を嫁婿入りさせたり、奴隷に売ったりする。
ムラー様が、ウチの女奴隷は売り先が決まってるんでダメだ(まさかクレオパトラとの戦闘で使うとは言えない)が、若い男女は買おうと言う。村の長(おさ)が、各家族に言って、50人ほどの12~18才くらいの子たちを連れてきた。
絵美様とアイリスが頭をなでるふりをして、意識を読んでいる。利発で性格の良い子を選んだのだろう。二人が相談して、子供たちを選別した。女の子8人、男の子10人。ラクダを9頭。
ムラー様が、ラクダ込みで金貨54枚でどうだ?と言う。村の長(おさ)が、旦那、それは殺生だ、100枚はいただかないとと言う。だいたい、相場の4分の3と相場の3分の4から初めるみたい。お互い上げて下げて、75枚に落着。
一人約金貨4.2枚、21万円。これが流れ流れて、アレキサンドリアやフェニキアでは、一人金貨10~30枚になっていくんだろう。ローマの貨幣が流通したから、奴隷商売も活発になったわけだ。物々交換なんてしてたら、支払いに困る。
買われていく子どもたちが両親に泣きついている。儀式みたいなものだ。私たちの女奴隷や娼婦が、彼らの両親にこの旦那のところは待遇が良いんだ、フェニキアで農園も持っていると説明している。
ムラー様に「この子どもたちはどうされるんですか?」と聞く。「まさか、戦闘に参加させるわけにもいかないでしょう?」
「女の子は、アルシノエに面倒をみさせよう。あいつはタフだから、これくらいは統率できるだろう。ゆくゆくはソフィアとジュリアの代わりだからな。男の子は、ラクダの面倒とか雑用を見させる。手下どもは雑用から離れてて、戦闘訓練をもっとしないと。戦闘の際は、ラクダと荷物の番をさせる」ソフィアとジュリアの代わり?じゃあ、その内、アルシノエもハレムに入れて抱くんですね!
なるほど。確かに、砂漠の旅って、雑用が多い。寝場所とトイレの設営をしないといけない、ラクダの糞を集めないといけない、食事の支度、お茶の支度、衣服の繕い、夜のお勤め・・・夜のお勤め!ああ、そういうのも目的の一つか。
絵美様はじめ、私たちは5人。手下どもは手を出せない。女奴隷3人、娼婦6人の合計9人だが、マンディーサやキキ、その他、だんだん相手も決まってきた女には手が出せない。しかも、キキの言う、生きて戻れば金貨100枚なんだから、無理に体を許す必要もない。男と違って、女は定期的に抜く必要はないのだ。
女の子8人だけじゃなく、男の子10人も後ろの穴でできるわけだから、人数的には十分なんだろう。女の子、男の子も手下からお小遣いをもらえてホクホクだ。後は、取り合いなんかで喧嘩にならないようにすればいいけど、ソフィアとジュリアがいるから大丈夫。
これって、数万人、十数万人の軍団の場合、溜まるんだろうなあ。どうしてるんだろう?侵略した国家で、暴行するのも当たり前なんでしょうね?絵美様だと憤慨するんでしょうけど、紀元前とか言う世界なんだから、仕方ないのよね。
絵美様もだんだんわかってきたけど、未来の人間なら『ひじんどうてき』!とか言うんだろう。じゃあ、どうするの?ってこと。この村の民が、人間の交流無しで、親子兄弟姉妹で子供を作って、やがて奇形が増えて、死に絶えるのを待つってことかしら?
未来の常識は、この時代の非常識なのよ。
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