第17話
でも羽津稀は峠を迎えている。
俺は身体が震えた。
羽津稀が居なくなるのが怖い。
「悪いな。諦めるなって言ってやれなくて」
兄ちゃんが言う。
「謝らないでくれよ」
俺は声まで震えていた。
「俺も居てやる。何も出来ないけどな」
兄ちゃんが続ける。
「仕事は?」
俺は兄ちゃんに聞いた。
この時には兄ちゃんはドラマや映画に引っ張りだこの役者になっていたからだ。
「番宣は他の役者にお願いして来た。峠を越えればすぐに戻る」
兄ちゃんは諦めない様に考えてくれているらしい。
「うん……」
俺は頷くしか出来なかった。
でも身体や声の震えは止まる。
「行くぞ」
兄ちゃんが先に栞さんに近付いた。
俺は深呼吸してから栞さんに近付くつもりでいた。
そんな俺を母ちゃんはあっさりと通り越して行く。
母ちゃんは兄ちゃんも足早に通り越し、栞さんの隣に黙って座った。
「いらしてくださったんですか」
栞さんが母ちゃんを見て言う。
「何も出来ませんけど来させて頂きました」
母ちゃんが栞さんに言った。
「病院から連絡が行きました?」
栞さんが母ちゃんに確認する様に聞く。
「ええ。どうやって連絡先を知ったんだか」
母ちゃんは正直に答えた。
「円さんのご家族と葉槻さんのご家族でしょうか」
結構若い看護師が俺達の前に現れる。
「そうですよ」
母ちゃんが答えた。
「私、円羽津稀さんの担当看護師でアイハラミサキと申します」
相原岬(あいはら・みさき)さんが俺達に自己紹介して来る。
「少々狭いかもしれませんが面接室に移動願いますか」
相原さんが言った。
俺達は5人で面接室に移動する。
面接室の机には人数分の書類らしき物が。
「皆さんには私が直に連絡を取らせて頂きました。連絡先は円さんから何かあった時に知らせて欲しい相手として情報を預からせて頂いていました。円さんのお母様には驚きと戸惑いを与えてしまって申し訳ありません。ですが円さんが逢いたい方には逢わせて差し上げたかったのでーー」
相原さんは思いの丈を俺達にぶつけて来た。
「ありがとうございます。あの娘が望んだ事を叶えてくださるのに文句や苦情なんてこちらにはありませんから安心なさってくださいね、相原さん」
栞さんが相原さんに言う。
「あとはこちらからは奈良野さんと言う方をお呼びしております。まだいらしてはいない様なのですがーー」
その言葉には驚いた。
羽津稀は花梨ちゃんと友也さんも呼んでいたなんて。
「ナラノさん?」
母ちゃんや姉ちゃんが首を傾げる。
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