前編
第1話
2016年5月25日
あいつは旅立った。
行き先は天国であって欲しい。
この日はあいつが産まれてから10000日目でもあった。
円羽津稀(まどか・はづき)。
日にちが変わったら結婚しようってーー冗談だったのかな。
2016年5月19日は俺、葉槻窓伽(はづき・まどか)が産まれて10000日目を迎えた。
羽津稀は祝ってくれた。
その日の夜に意識を失くして、産まれてから10000日目の5月25日に旅立った。
俺と羽津稀が産まれたのは昭和にすると64年。
あの7日しかなかった昭和64年生まれ。
羽津稀はその最後の日の1月7日に産まれていた。
俺はその6日前の昭和最後の元旦に産まれたんだ。
俺は羽津稀の最後の10年しか知らない。
出逢ったのは17歳の春。
俺と羽津稀は共通の知り合いと言うか通っていた高校の教師である里崎花梨(さとざき・かりん)がきっかけで知り合った。
「まどかーっ!」
遠くから聞こえた声。
「んあー?」
「何ー?」
と同時に反応したのが俺と羽津稀だった。
「円さんじゃないよ、窓伽を呼んだの」
先生は笑いながら近付いて来て羽津稀にそう言う。
「まどか?」
羽津稀は俺を指差した。
「そう。窓伽」
俺は素直に認める。
「あたしもまどか」
羽津稀は苦笑いした。
「そう言えば窓伽の名字ははづきね」
先生は笑っている。
(?)
俺は首を傾げた。
「あたし、円羽津稀って言うの」
羽津稀が名前を教えてくれた。
「俺は葉槻窓伽だよ」
俺は驚いた表情のまま自己紹介する。
「結婚したら葉槻羽津稀ね」
先生がからかう。
「名前で遊ぶな」
俺が先生にツッコむ。
「円窓伽もあるよね」
先生は笑いながら続けた。
「どうゆう字書くの?あたしの字はこれ」
羽津稀はジャージに書かれた名前を見せてくれた。
「俺はこう」
俺は地面に自分の名前を書く。
「クラス、一度も一緒になってないよね」
羽津稀が言って来た。
「だって俺、定時の生徒だもん。あんたは全日の生徒だろ?」
俺が言う。
俺は定時制(夜間クラス)の生徒で羽津稀は全日制の生徒だった。
「里崎先生は何で葉槻君を知ってるの?」
羽津稀が不思議がる。
「あたし、彼の部活の顧問なのよ」
先生は笑顔で答えた。
「部活?」
羽津稀はキョトンとしている。
「美術部。裁縫とかもたまにしてるの。彼、凄く器用なの」
先生は楽しそうに話している。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます