俺のアイドルは玉子だ!!

ここグラ

俺のアイドルは玉子だ!!

「玉子は料理のアイドルだ!!」

「またみのるの玉子馬鹿が始まったよ……」

「事実だろうが!! 玉子に勝るものなどない」


 水樹稔みずき みのるのワンマンショーに、クラスメイトが頭を抱えていた。もはや慣れっこという感じだ。といっても普段から奇行が目立つわけではなく、とあるモノが絡むとこうなってしまうのだ。言うまでもなく……玉子である。


「まずバリエーション!! 王道の目玉焼きに厚焼き玉子、オムレツにスクランブルエッグ!! 他の料理に混ぜてもよし、合わない料理などほとんどない。だが俺としては、一番は卵かけご飯だと思っている。あれほどシンプルイズベストを体現したモノはないだろう」

「いや、確かに卵かけご飯は美味いよ。生卵をご飯にかけて、あとは醤油かけて海苔まぶして……こんなに簡単で美味しく、しかも安く済ませることが出来るのは奇跡だと思う」

「お前は分かっている!! 卵かけご飯用醤油なんてのが売っているのも、卵かけご飯がいかに素晴らしいかの証明と言えるだろう」

「お前の脳の構造は分からんがな」


 クラスメイトのしょうのツッコミも意に介さないという感じで、稔のワンマンショーは続く。ぶっちゃけ、これはツカミである。


「次に値段と手軽さと栄養価!! 物価上昇が続くこの世の中でも庶民の味方と言えるその安価な値段、どこでも買えるその手軽さ。そして、【完全栄養食品】と呼ばれる程のその栄養価の素晴らしさ!! 神が人間に与えた魔法の食材と言えるのではないか?」

「まあ、確かに奇跡ともいえるほどのコストパフォーマンスだよなあ」

「その通り!! 他の食材から『非常識だ!!』って妬まれてもおかしくないな」

「お前のテンションの方が非常識だけどな」


 同じくクラスメイトのゆうのツッコミも、暖簾に腕押しである。稔の加速は止まらない、もはや誰も彼を止めることは出来ない。


「そして何より、その味!! 癖がなくて食べやすく、それでいて他の食材と混ぜてもその良さを消さずにむしろ相乗効果を生み出す、その魔法のような奥深さ!! 卵の可能性を完璧に分析出来る奴が現れたら、そいつはノーベル賞モノだな」

「そりゃ、卵がない生活なんて考えられないけどな。とりあえず卵用意すれば何とかなる的な感じするし」

「ファンタスティック!! まさに卵は人間のライフラインと言って良いのではないか?」

「とりあえず、ファンタスティックな精神科に診てもらった方が良い」


 翔も悠もそろそろツッコミに疲れてきた、という感じだ。稔を止めることが出来る者はいない……たった一人を除いては。


「はぁ……相変わらずねえ、稔」

「そうだろみお、もっと拡張高く俺を褒めてくれ!!」

「いや、褒めてないし」


 幼馴染の小城澪こしろ みおが、頭を抱えながら話に参加してきた。手には二人分の弁当箱を持っている。


「稔、常々思ってるんだけどさ……あなたにとって一番のアイドルは誰なの?」

「もちろん、玉子だ!!」

「やっぱり!!」

「……でも澪も一番のアイドルだけどな」


 今までおふざけ一辺倒だった稔の表情が、一変して真面目な顔になった。澪のことになると、いつもこうなのである。澪は思わず、顔を赤らめた。


「そ……それって二股じゃない。私と玉子、どっちが大事なの?」

「美味しい玉子料理を作ってくれる澪が一番大事だ!!」

「!!??」

「玉子料理はどれも美味しいけどさ、澪の玉子料理に勝るモノなんてないんだ」

「稔……」

「もちろん玉子料理を作ってくれなくても、澪は誰よりも可愛くて好きだけどな」


 稔の返答に澪はときめいた表情を浮かべ、2人で手作り弁当を食べ始めた。手作りの玉子料理を澪が稔に食べさせる構図を見て、翔と悠はため息をついた。


「まったく、このバカップルは」

「まあ、他の人が入り込む余地なんてないよなあ。なにせ……」


 呆れた表情を浮かべた翔と悠は、声を揃えて呟いた。


「「名前からして、相性抜群だもんな」」

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