我が魔王国、そして城へようこそ勇者よ
マボロシ屋
短編
俺は、今から魔王城に攻め入るんだな…
やっと、終わる…
これで、俺は、自由だ…
…
「良くぞ、召喚に応じ転移してきた、異世界の勇者よ!」
偉そうにふんぞり返り、でっぷりと肥え太った
人語を話してなきゃ豚だな。
それこそ、物語によく出てくるオークだ、オーク。
「ここはどこだ。そもそも召喚になど応じていない」
偉そうなおっさん《オーク》にムッとしながら、答える。
「お前!勇者とは言え、不敬であるぞ!ロマブタ王に向かって何たる口の聞き方だ!まずは頭を垂れ、謝辞を述べ、名を名乗るのが礼儀だろう!」
喧しく怒鳴り声を上げる王とは対称にヒョロヒョロな棒人間。
ここにはまともに人間と呼べる奴は居ないのか?
「良い良い、ガリヒョ宰相。勇者も混乱しているのだろう。さぁ、勇者よ。名を申せ」
「
偉そうに下っ腹ブルブルさせながら言うな、見苦しい。
「ぬぅううう!!!」
どうした、緊張で腹を下し漏らしそうなのか?
「ガリヒョ宰相、落ち着け。今は堪える時だ」
「ふぅー!ふぅー!」
言葉だけ聞けば漏らさないように必死に括約筋に力を入れて呼吸してるような絵面が想起されるな、クク…
「お、お前!何がおかしい!?」
「これにて召喚、謁見の儀を終える!勇者を部屋に案内しろ!私は自室へ戻る!」
椅子から立ち上がると肉がブニョンと揺れながら下に垂れ下がる。
そしてドスドスと音を立てながら垂れ幕の奥へと進み消える。
そちらにも扉があり、そこから出ていったのだろう。
王が退室し見えなくなった所で、後ろからぞろぞろと甲冑を着た騎士然とした者達が近寄ってきて言う。
「桜芽晶、付いてこい」
なぜどいつもこいつも偉そうにふんぞり返って言うんだ。
こちらはそもそも良く分からん内に、良く分からん豚と棒人間が目の前に現れ、勇者だとか言われた被害者だ。
もう少し説明をするなり、申し訳無さそうにして欲しい物だ。
渋々と騎士の後ろを付いていき、ややこしい順路で歩いた後に充てがわれた部屋と思しき扉の前に着く。
「今日からここがお前の部屋だ。食事は昼と夕にこの部屋に運ばせる。体は湯を張った桶を用意してやるから、それで拭け。それと勝手にこの部屋から出て歩き回った場合は牢獄に入れる。以上だ」
なんだこの勇者待遇の監禁は…
「おい、それだけ言って行こうとするな。ここがどういう場所でなぜ召喚されたか、諸々の説明が未だされていないぞ」
「必要ない。明日以降は地理、歴史の講師がお前に栄えある我等が王の統治する国を理解させ、剣術指南には近衛騎士団長である私が体術と剣術を鍛え、魔法を王宮魔術講師が徹底的に詰め込む」
「それは何時から始まり何時に終わる。それと期間は?」
「朝は城のメイドが起こしに来る。そこで朝食を食べ、すぐだ。終わりは日が暮れて暫くは暗い中でも鍛える。暗くとも戦えるようにする為にな。期間は1年だ。習得が早ければそれよりも早くに出立させる」
そう言い、もう言う事はない、と踵を返し去って行く騎士団長。
豚や棒人間に比べればマシな対応ではあるが、どうにも馬鹿に、下に見られている。
勇者というのはもう少し重要ではないのか?
だからこそ召喚したのでは?、と疑問が浮かぶが仕方がない。
今は明日から始まる講義で詳細を確認し、鍛錬に付き合わされるしかないだろう。
その日は自分が帰還できるのか、そもそも勇者というからには魔王のような某かの敵を討滅せねばならないだろう、と考え、少しだけだがホームシックに浸る事となった。
それから寝てしまったようで、夕食すら食べず、朝の起床時刻となりメイドに乱雑に起こされた。
もそもそと口の中が乾くようなパンとクズ野菜のようなものが入ったスープを食事として出され、仕方なく食べる。
20歳の体には少々物足りないどころか、味付けも薄い為に、昨日召喚されるまでは気楽に食べていた日本での和洋中の食事を嫌でも思い出してしまった。
そうして、地理、歴史の講師と2人きりの中、この国の歴史、周辺地理、人類の敵である魔王の存在、魔王国についてを語られる。
どうやらここはロマネスブタ王国と呼ぶらしく、ロマブタ王は8代目のようだ。
初代国王は大柄だったが武に優れ、それまで土地を収めていたが魔王国に良いようにされてきたロースブタ王から王位を簒奪。その後、ロマネスブタ国を興し先陣を切って魔王国に反抗し国土を維持した英傑だったとの事だが、徐々に英傑とは程遠い者が世襲で選ばれて言ったようだ。
一方的な魔王による蹂躙による、殺され犯され奴隷とされ、様々な悪逆非道の限りを尽くしているとの事だ。
この国にも魔王国の魔族が手先として潜伏しており、誘拐や殺人などで暗躍しているらしい。
この王国と魔王国の地理だが、楕円形の大きな大陸で中央部に
また魔族は身体的特徴を魔法で隠して近寄り闇討ちも平気でしてくる卑怯者と講師は述べた。
私の休める時間はこの日から出立まで、この地理、歴史の時間だけとなる。毎回、魔王国を非難し如何に王国が素晴らしいかを説かれ、暗唱させられた。
間違えれば指し棒で叩かれたが、軽いものだった。
魔術講師には初日から勇者だから魔法を使えるようになれ、と無理を言われ、出来ないと身をもって知れと火魔法で焼かれ、水魔法で呼吸をできなくされ、風魔法で腕や脚に一晩で傷が塞がる程度の深さで切りつけられたりした。
翌日も使えない場合には同じように各属性で痛めつけられ、昨日の塞がりかけた部分が再び切られると治っても皮膚に傷跡が残るようになった。
体術、剣術鍛錬では体を何度も痛めつけられ、その度によろけ、地に体が倒れ、足蹴にされる。
夜中は更に過酷であり、日本で特に武道などやってこなかった20歳の自分は何度も何度も痛みがどこから来るかも分からぬ恐怖に怯えた。
倒れた後の執拗な痛みから少しでも身を守ろうと体を縮めるしかできなかった。
騎士団長や魔術講師に反抗する気持ちは初日の痛め付けで無理だと悟り、2日目以降は覚えて痛めつけられないようにしたが、体が思うように動かなくなっていた。
3日目以降はただのサンドバッグだ。やれどもやれども、何も上手く行かない。
食事を断って死のうとしても、気付けば魔法で無理矢理眠らされ、喉奥に入れられて無意識に飲み込んでいた。
こうして私はどんどんと萎縮し痛みや恐怖による洗脳を受け朦朧としていき、3年後に魔王国へ続く不帰山脈に運び出され、魔王を倒しに行け、と捨てられた。
癒やしであった地理、歴史のお陰で冬季以外であれば険しいが超えられるルートを体は無意識に選び出し、山脈の頂に到達した。
そして、体が不意に限界に達し、滑落した。
起きた時には、腕がぶらぶら、足も腫れていたが、この程度で耐えられ死なないのは洗脳による、魔王を倒せ、を果たすためなのだろう。
私は魔王国をズルズルと、ズルズルと…
魔族に見付からぬように森を歩き、草原を這いずり、最後はなんとか魔王城、城下町に忍び込んだ。
ズルズルと路地裏を歩く私を訝しげに凝視する数人の魔族達。
だが私は気にする事なく、ズルズルと、腕は片方が治らぬまま、ぶらぶらとさせながら…
…
俺は、今から魔王城に攻め入るんだな…
やっと、終わる…
これで、俺は、
…
そして、誰にも会う事無く魔王が居る執務室へ向かった。
扉を開くと、執務室に座る魔王が言った。
「やぁ、ようこそ召喚されし勇者。そして嘘で塗り固められた知識と痛めつけられ洗脳された勇者よ。君は、私に殺されたいか?それとも、生きたいか?」
「…」
何も言う事はなく、早く終わらせたかった。
「そうか、では、そうしよう」
そこで美しく光り輝く魔力によって顕現した魔法を目にして私は倒れた。
…
「…」
「おはよう、勇者。そして良くぞ1人で魔王の下に来たな勇者」
「我が魔王国、そして城へようこそ勇者よ」
我が魔王国、そして城へようこそ勇者よ マボロシ屋 @kamishiro168
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