32:笑う仮面の主様

 北部統括部、統括部長は部下が送った使い魔の報告を受け、慌てていた。


 自身が統括する区域にて、タダヒサの生まれ変わりである転移者ジヒトが拐われた為だ。


「主様はどこにいるんです!? 拐われたなんてどういう事!? 商事カンパニーの北部情報課・情報処理隊は何をやってるんですか!」


 統括部長の声に反応する部下。


「現場での報告によると魔力痕跡から都市ラティアを東に進んだ位置のようです。あの辺りは手付かずの森も多く、人も立ち寄らない為に今までも潜伏で見逃されたのだと思います」


「拐われて2時間でたったそれだけの情報では何も動いていないのと変わりません! 現場の主様の匂いや魔力感知はどうなったの!?」


「魔力感知は随時行わせておりますが、何分範囲が広い為、遺跡や廃屋等も含めれば索敵時間が足りません」


「埒が明きません! 私も向かいます!」


「ぶ、部長!? お、お待ちを!」


 静止の声を振り切り、急いで出るアニマの女性。

 その後ろをバタバタしながら通信魔具を持ち、仮面を持ち、付いて出ていく数人の部下達。


 統括部長と部下数人が都市ラティア東部への移動に1時間程かけた頃、月明かりに照らされた雪のような魔力が辺りを舞い始めた。

 四方で魔力痕跡が反応するようになり、機能しなくなったため、舞ってくる方向に進んでいく。


 すると、その先では…


 大量にキラキラと魔力が舞う中で満足そうにして、こちらを見た後に手を振る彼の姿があった。


……


「お前ら! さっきまでの腑抜けたジヒトじゃねぇぞ! 気を付けろ!」


 タリオが声を張り上げて危険を告げる。


「こ、拘束魔具を壊した……? それに体は……あれだけの傷はどこに消えたんだ?」


 エクシア宗教団の信者が、ジヒトを見ながら言う。


「ぼさっとしてんじゃねぇ! 加護持ちの魔人だ! その内に本調子になっちまう! 抑えつけて本国で磔にするぞ!」


 ジヒトに向かって放たれる水、火、風の魔力球ショット


「破壊。実行」


 だが、ジヒトが目を向け呟くと魔力球がさらさらと霧散し、触れる事は無かった。


「制裁。対象範囲指定、魔力開放15m、対象人数25人。実行」


「う、うがぁああああ!?」


 信者が涙を流し声を上げ、のたうち回る。

 それ以外出来なくなるが苦痛によって失神も許されない。


 そこかしこから似たような苦悶の声が響いてくる。


「こ、これがぁ……タダヒサ、の、せいさいぃいい!! うあぁああ!! このくらいでぇええ!」


 タリオが制裁による痛みを堪え、涙と声を上げながら腰に指した魔剣で斬りかかる。


 ジヒトは魔剣で斬りかかるタリオをひょいと躱すと同時に、タリオの後ろから膝の位置に蹴りを入れて膝をつかせる。


「その程度でボクを殺せるとでも? 身体強化魔法を使う必要すらないじゃないか。昔はもう少し骨のある悪党が多かったんだけど。ボクのせいでもういなくなっちゃったかな。破壊、魔剣、実行」


「ぬ、ぬぅううがぁああ!? 上位魔法ボルケーノ!! なぜ、なぜ魔法が発現しない!!?」


「上位であればあるほど、発現には操作と想像が重要となるんだよ? 制裁による身体への負荷がかけられている中で、まともに操作と想像を行えて発現すると、本気で思っているのかい? お馬鹿さんだなぁ?」


 余りにもお粗末な魔法、魔力知識に笑いを上げてしまうジヒト。


「うぅぁぁああ!! あぁあああ!」


 ジヒトが笑いながら、タリオを踏みつけ、優しげに言う。


「制裁による苦しみ、破壊による開放。これは救済だよ。受け入れろ。畜生と罵った者に劣る外道」


「う、うぅううう! 魔人め! 必ず! いつか必ず! 我等が同士によって! バニタスの教えによって裁か」


 言葉全てを語らせずにジヒトが無情に告げる。


「破壊。対象範囲指定、魔力開放15m、実行。バイバイ」


 辺り一帯を包む魔力へ、彼の特異魔法が連鎖して発現する。


 破壊により、物質が、魂が砕かれ、さらさらと舞っていく。


 その様はまるでダイヤモンドダストのように、月の光で煌めいていた。


 美しい……、と彼は考えながらその様を満足して少しの間眺めていると誰かが近付いてきた事に気付く。


 それは、右側が白く左側が黒の笑う仮面を被った商事カンパニーのメンバーだった。

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