21:国王陛下…ようこそ…え…?
仕切り直しての予定時刻午後4時を待つ、午後2時頃。
通信魔具により、一報が入る。
国王陛下、ガルシアが謁見前に訪れると言うのだ。
公式にはガルシアがふらっとハクトに会いたいという事になっているが、実態としてはジヒトへの度重なる失態への直接の謝罪であった。
そこからは慌ただしさが更に慌ただしくなった。
王族の主要な御三方が現れるとなり、使用人は誰も彼もが失礼の無い様に準備を進める。
ハクトは通信魔具での一報では凛々しく応対していたが、通信が切れたと同時に慌てだす。
エレノアはそんな夫の姿を見ながらお茶を静かに一口のみ、告げた。
「貴方は動かない方がよろしいかと。動けば動くほど、ボロが出ますので」
エレノアの突き放すような言葉に動きを止め、ハクトはエレノアの隣に腰掛ける。
「グスッ……」
そのまま静かにエレノアのティータイムに付き従うのであった。
ジヒトやエリシアはのんびりと庭でティータイムに勤しんでいる、ように見える。
ジヒトにはノアが、エリシアにはテナシーが優雅に傍に控えている、ように見える。
ここだけを切り取れば優雅な午後のティーパーティーであったが、各人の内心は優雅等とは程遠かった。
(なぜ、どんどんと勢い良くこの国の王族は訪問するんだ。王族っていうのは本来、どっしり構えて相手から来い、とか言っているものじゃないのか? ただのジヒトって言ってたじゃないか。国王陛下ぁぁああ)
(不安だなぁ……まさかレイラにあんな癖があるとか……どこで変な事やらかすか分からないし、けど王妃殿下には口止めされてて父さんと母さんにも事情を説明できないし……正直、あんなの伝えられないし……ジヒトもジヒトで、固まっちゃうから変態が変態できちゃうんだよぉおお! 変態王女ぉぉおお)
後ろに控えるノアはノアで、さり気なくジヒトの背中に尻尾をスリスリ、もじもじくねくね。
テナシーはテナシーで、呼ばれない限り何も聞かない言わない私は空気、とレイラとエリザの訪問以降は口を開かない。
エレノア以外、心穏やかと呼べる者はこのヘルアタック家屋敷には居なかった。
こうして各々は心の平穏を保とうと、予定時刻までは無理にでも表向きは優雅に過ごす午後を演じた。
……
時刻は思ったよりも遅く苦しい時間を与えて到達し、遂にヘルアタック家の屋敷に王家の馬車が到着した。
誰もが頭を垂れ、敬う国王陛下、ガルシア。
ガルシアが馬車から降りてくると、私も皆に倣い、頭を下げ出迎える。
そう、彼は国王陛ガルシアなのだから…
「私の娘が、大変申し訳無い……話は聞かせて頂いた……心から、謝罪する……」
情けない声で、私よりも更に低頭平身する国王陛下の姿がそこにはあった。
その様は不謹慎にも土下座に近い姿である。
世界広しと言えど、国王に土下座させた男など、私のみではなかろうか?
いきなりの事に思考は目の前の事を受け止めきれず、そんな変な事を考えてしまう。
誰もが固まり、誰もが頭を垂れる国王陛下ガルシアも頭を下げたまま時間はすぎる。
誰もが開口一番の謝罪は予想外過ぎた為に固まってしまったようで、私も動くに動けなくなってしまった。
そうして、私の胸中には奇妙な感覚と、この後はどうすれば良いかという周りとの連帯感のようなものが生まれ始めた頃、ガルシアが言葉を告げる。
「ど、どうか、頭を上げてくれ。すまない、私が頭を下げてしまい、誰も動けないままになってしまったな。ははは……」
「へ、陛下のせいなどでは御座いません。私が気を利かせず……」
「いや、良いのだ。頭にどうしても娘の粗相がちらついてしまってな……ジヒト、申し訳なかったな……まさか娘が」
「し、失礼かと思いますが、発言をお許しください。気にしないで頂ければと……その、この場では、何かと……」
ちらちらとハクトやエレノアを見て、周りの使用人達も視線で示す。
流石に人目のある場でいつまでも謝罪させるのもまずい。
それにレイラの件であれば、余計に醜聞となりかねない……責任など、私には取れないからな。
「あぁ、うむ……そうだな……すまない……こう見えても父親でね……はぁ……よし! では、本日は夕食に招待頂き感謝する。それでは案内してくれるか?」
「はっ! では、王妃殿下、王女殿下はエレノアとエリシア共に、庭にてお茶会の準備を致しましたので、どうぞそちらでお寛ぎください。国王陛下は私とジヒトと共に応接室へ……カムウェル、ノト、お茶を頼んだよ」
ハクトの言葉にカムウェル、ノトは頷く。
そこで庭に向かう前に言葉尻強くハクトへ告げたエレノア。
「貴方? くれぐれも余計な事をしない、言わない、ですよ? 良いですね?」
そう言うとエレノアは優雅に庭に進んで行った。
エレノアを見送ったハクトは再び先導して動き出す。
カムウェル、ノトの代わりの使用人が部屋までの扉を開き、静かに礼をして退室する。
「さて、ここで改めて国王ガルシアではなく、ガルシア個人として謝罪ができるな。ジヒト様、娘が粗相をし、大変失礼致しました……昔も似たような事をしていたのですが、タダヒサ様は子どものする事と許してくださってな……それ以来、あの子は良く舐めていたのですよ……いやぁ、懐かしいですが、今もしてしまうとは……ははは……」
「は、はははは……はは……」
笑って流そうとするが、衝撃が強すぎた為に乾いた笑いしか出なかった。
「小さな頃からしてきた事が大人になり落ち着いたのではなく、自室で似たような事を続けていたのでしょうな…それがジヒト様となって戻られた事で、匂いを嗅いで箍が外れたのでしょう……はははは……申し訳ない……」
何度目の国王からの頭を下げての謝罪だろうか……ははは……
まさかこんな所でボクと同じ様に
でも、馴れると犬に顔やら手やらを懐かれて舐められまくるのと変わら……どこの世界の当たり前で淑女に顔やら手を舐められるって言うんだ……
見た目に犬の特徴あるから、そのせいで甘くなってないか……似たような気持ちを抱いたんだろうなぁ、当時のボクも……
私はぼんやりとガルシア国王陛下の方を向きながら、焦点は定まらないまま、思い悩んだ。
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