タラバガニ

大星雲進次郎

タラバガニ

「先輩!私、カニ食べたい!」

「……奇遇だな。俺も食べたいよ」

 デレた、先輩がついに……

「私も食べたい」

「俺も食べたい」

 主任、課長!会話に入ってこないで!

「会話に入ってくるなと考えているな?」

「私達はあなたを連れ戻しに来たの」

 ち、これさえなけりゃ清々しい連中なんだけど。

「そうですね。スンマセン課長、長々とコイツを引き留めてしまって。そちら今からミーティングでしたね」

 先輩がなぜか課長に謝る。

 どうして?私がここにいるのは誰に頼まれたわけでもなく、自分の意志だよ?例え先輩でも、私の意志を歪曲して伝えないでほしい。自由意志の侵害だ!

「私、最後まで戦うよ!手が折れ、足がもげても!」

「こわっ!一体何と戦う気だ」

「ズワイガニがタラバガニになっても、自由と正義のために!」

 カニの話をしていたので、カニで返してみた。

「意味分からん」

 やはり先輩には高度すぎるボケ返しだったか。

 だけど早く先輩には私と同じ高みに登ってきてほしい。いっちょ説明するかぁ。

「良いですか?私は手が折れ、足がもげてもと言いましたよね」

「そうだったか?」

「もう!私の話は一言も聞き逃さないでください!」

「無茶言うなよ、脳味噌が焼き切れちまう」

「そんな昭和アニメのようなセリフ回しは止めなさい」

 ~しちまう。なんて80年代放送のTFくらいでしか聞いたこと無いわ……。先輩は本当は何歳なの?

 ミステリアスな先輩も好きですけど? 

「よくこんなのと付き合ってるな……」

「付き合ってませんて」

「疲れない?」

 課長も主任も朝からお疲れなのね。もう若くないんだから、夜更かしとかはダメなんですよ!

「まぁ、ここさえ乗り越えれば、あとはモジモジするだけなんで、可愛いじゃないですか」

 え?私可愛いって言われてる?どういう流れで?何だよ、見るなよ~。

「それでですね」

「話を戻した!」

 課長達がいるとほんと話が進まない!

「足が少なくなったら呼び方が変わる、カニの特徴を交えてのボケだったんです」

「ますます分からん」

「俺も分からん」

「……あ、分かったかも。彼女、ズワイガニの足が少ない物がタラバガニだって思ってる?」

 え?違うの??

「え、違うんですか?」

 そうだよね、先輩もそう思うよね。

 主任ちゃんって歳の割にカワイイけど、カニなんて食べ慣れてなさそうだし。

「歳は関係ねぇッス……」

「主任、無理にインテリぶらなくても良いんですよ。私どんな主任も好きですから……2番目よりは下ですけど」

「主任でも知らないことあるんですね。なんか親近感湧くなぁ」

「先輩!浮気はダメ!」

 こう言うと先輩の次のセリフは!

「「いや、付き合ってないから」」

 フフフ、私達息ぴったり。

「主任、なんて顔してるんです。いつもの駅のオジサマには見せられませんよ、それ」

「言わないでぇ~」

 あらあら、主任は泣き崩れてしまった。さすがにこれは私が悪い。

「主任ゴメンナサイ……」

 真摯に頭を下げる。仕事って謝ること。謝るときは誠意を持って。就職担当教諭の名言ね。

「後であの人の勤め先と家族構成教えてあげますから、許してください……」 

 あ~あ。

 主任は泣きながらウンウン頷いてるし、先輩は青い顔で震えてるし。大丈夫かな、この会社。

 では課長、締めの一言を。

 

「週末、カニ行くか」

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タラバガニ 大星雲進次郎 @SHINJIRO_G

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