交換
長万部 三郎太
責任をもって処分しておく
「突然どうした?」
男は玄関を開けるなり、そう言った。
目の前に“いかにも悪魔”といった風体の何かが立っていたからだ。
「少しは慌てたり驚いたり、声を上げるなりしてもいいのに……」
不服そうに答える悪魔をよそに男はドアのカギをかけると、悪魔をずいっと押しのけて部屋へと入っていった。
「立ち話もアレだろうし、まぁ座ってくれよ。我が家へ、ヨーコソ」
拍子抜けした悪魔だったが、他所ではなかなか見ない妙な胆力を備えた男。悪魔は素直に従って椅子に座り、ティーカップに注がれたコーヒーを受け取った。
「そもそも、だな……」
コーヒーをひと口飲み、カップを置いたタイミングで男が切り出す。
「そもそも、キミたち悪魔は決まって代償を求めるだろう?」
「いや、わたしはまだ何も言っていませんし、
願いを叶えに来たわけでもありません」
男は怪訝そうな顔で聞く。
「じゃあ何をしに我が家へ入り込んだのだ?」
「いつだったか、部屋の明かりに誘われて入り込んだ蛾を助けて下さりました」
「ああ、先週だったかな。叩き落とすのは忍びなかった」
「その時のお礼に参ったのです」
なんとその悪魔は蛾の化身だという。
男は2杯目のコーヒーを淹れて、これまたずいっと身を乗り出した。
「悪魔のお礼か。となると、やはり山盛りの金銀財宝でも授けてくれるのか?」
欲望丸出しの男に、悪魔はようやくそれらしい表情で誘った。
「魂だとか、寿命なんてケチくさい要求はしません。ズバリ、あなたの身体と
黄金を交換いたしましょう。腕なら腕一本分の金塊を。それが悪魔流のお礼です」
しばし考えたのち、男は悪魔に質問をした。
「交換されたあとの身体はどうなる……?」
「ふむ、考えておりませんでしたが、わたしが持って帰るのも面倒ですので、
交換したあとの身体はこの家に置いて帰ります。処分はあなたがしてください」
その答えに男はにやりと笑い、こう言い放った。
「分かった、その申し出を受けよう。
では、頭は髪の毛先から、全身それこそ身体じゅう……!
足の爪先まで黄金と交換してくれ!!」
しまった、と悪魔が気づいたときには術が発動していた。
「見事な彫像をありがとう。
交換したあとのこの身体は、俺が責任をもって処分しておくよ」
男は腕どころか、一切の傷を負わずに、自分自身を模った黄金の像を手に入れた。
(死体遺棄or黄金像シリーズ『交換』 おわり)
交換 長万部 三郎太 @Myslee_Noface
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