第七章
第7章 闇の胎動
王都へと戻ったアレン、セーラ、カインの三人は、「猫の隠れ家」で作戦会議を開いていた。
「まずは、情報収集だな」
カインが切り出した。
「魔王復活を企む連中について、何か手がかりを掴まなければ」
「酒場で聞き込みをするのは、どうだろう?」
アレンが提案した。
「…いや、それでは効率が悪い」
カインは、首を横に振った。
「もっと確実な情報源に当たる必要がある」
「確実な情報源…ですか?」
セーラが尋ねた。
「ああ。例えば…、王宮の情報部とか」
カインは、意味深な笑みを浮かべた。
「…まさか、カインさん、王宮に知り合いがいるんですか?」
アレンは、驚いた表情を浮かべた。
「…まあな」
カインは、はぐらかすように答えた。
「詳しいことは、今は言えない。だが、協力してくれる者はいる」
「…わかりました。信じます」
アレンは、カインの言葉を信じることにした。
「…ただし、王宮に忍び込むのは、容易ではないぞ」
カインは、釘を刺した。
「衛兵の警備も厳重だし、下手をすれば、捕まってしまう」
「…何か、策はありますか?」
セーラが尋ねた。
「…一つ、方法がある」
カインは、言った。
「今夜、王宮で夜会が開かれる。それに紛れて、忍び込むんだ」
「夜会…ですか?」
アレンは、首を傾げた。
「ああ。貴族たちが集まる、華やかな宴だ」
カインは、説明した。
「…でも、私たちには、招待状なんてありませんよ」
セーラが言った。
「…心配するな。その辺も、手は打ってある」
カインは、自信ありげに笑った。
「…ただし、服装には気をつけろ。貴族たちに怪しまれないように、それなりの格好をする必要がある」
「…それなりの格好、ですか…」
アレンは、自分の服装を見下ろした。旅の間、ずっと着ていた、くたびれた服だ。
「…私に任せて」
セーラが言った。
「知り合いに、服を貸してくれる人がいるの」
「…助かる」
アレンは、ホッと胸を撫で下ろした。
「…準備ができたら、俺に声をかけてくれ」
カインは、そう言って、部屋を出ていった。
アレンとセーラは、顔を見合わせた。
「…いよいよ、本格的に動き出すって感じだな」
アレンは、少し緊張した面持ちで言った。
「…ええ。でも、きっと大丈夫よ」
セーラは、アレンを励ますように微笑んだ。
「私たちには、カインさんもいるし」
「…そうだな」
アレンは、頷いた。
「…セーラ、ありがとう」
アレンは、セーラに言った。
「君がいなければ、僕は、ここまで来られなかった」
「…何を言ってるの、アレン」
セーラは、照れくさそうに笑った。
「私こそ、あなたに感謝してるわ」
「…さあ、準備をしましょう」
セーラは、立ち上がった。
「王宮に忍び込むなんて、初めての経験だわ」
「…ああ。僕もだ」
アレンも、立ち上がった。
二人の心は、期待と不安で入り混じっていた。
セーラは、アレンを連れて、王都の仕立て屋へと向かった。そこは、セーラの知り合いが経営する店で、王宮に出入りする貴族たちも顧客に持つ、高級店だった。
「いらっしゃい、セーラちゃん!」
店の女主人は、セーラを見て、笑顔で出迎えた。
「久しぶりね。今日はどうしたの?」
「…実は、この人に、服を貸していただきたいんです」
セーラは、アレンを紹介した。
「今夜、王宮の夜会に…」
「…なるほどね」
女主人は、アレンをじろじろと見た。
「…わかったわ。任せてちょうだい」
女主人は、そう言うと、店の奥へと消えていった。
しばらくすると、女主人は、数着の服を持って戻ってきた。
「…どれがいいかしら?」
女主人は、アレンに服を当ててみた。
「…この服なんか、どうかしら? きっと、似合うと思うわ」
女主人が選んだのは、上質な生地で作られた、紺色の礼服だった。
「…すごい…」
アレンは、鏡に映る自分の姿を見て、驚いた。まるで、別人のようだ。
「…セーラちゃんも、何か着ていく?」
女主人は、セーラに尋ねた。
「…いえ、私は…」
セーラは、遠慮しようとした。
「…遠慮しないで。せっかくの機会なんだから」
女主人は、セーラに、ドレスを勧めた。
セーラは、女主人の勧めに従い、ドレスを選ぶことにした。
女主人が選んだのは、淡い水色のドレスだった。セーラがドレスを着ると、まるで、妖精のように美しかった。
「…きれい…」
アレンは、セーラの姿に見惚れてしまった。
「…ありがとう、ございます…」
セーラは、照れくさそうに言った。
「…二人とも、よく似合ってるわ」
女主人は、満足そうに頷いた。
「…これで、夜会にも潜入できるわね」
「…ありがとうございます…!」
アレンとセーラは、女主人に礼を言い、仕立て屋を後にした。
「…それにしても、すごい服だったな」
アレンは、自分の服を見ながら言った。
「…ええ。王宮御用達の仕立て屋だもの」
セーラが答えた。
「…でも、こんな服を着て、本当に大丈夫かな…」
アレンは、少し不安そうな表情を浮かべた。
「…大丈夫よ。私たちがついてる」
セーラは、アレンを励ますように言った。
「…それに、カインさんもいるし」
「…そうだな」
アレンは、頷いた。
二人は、「猫の隠れ家」へと戻り、カインに準備ができたことを告げた。
「…よし、準備万端だな」
カインは、二人を見て、満足そうに頷いた。
「…それでは、出発するぞ」
カインは、そう言うと、歩き出した。
アレンとセーラは、カインの後を追った。
三人は、王宮へと向かった。
夜の王宮は、昼間とはまた違った雰囲気を漂わせていた。煌びやかな光に照らされ、まるで、夢の世界のようだ。
「…すごい…」
アレンは、圧倒された様子で、辺りを見回した。
「…さあ、行くぞ」
カインは、二人を促した。
三人は、王宮の門をくぐり、中へと入っていった。
門番には、カインが用意した偽の招待状を見せた。門番は、特に疑う様子もなく、三人を通した。
「…うまくいったな」
アレンは、ホッと胸を撫で下ろした。
「…ああ。だが、油断は禁物だ」
カインは、気を引き締めるように言った。
「…ここからは、俺の指示に従ってくれ」
「…わかりました」
アレンとセーラは、頷いた。
三人は、夜会の会場へと向かった。
会場は、大勢の貴族たちで賑わっていた。着飾った男女が、談笑したり、踊ったりしている。
「…すごい人だな…」
アレンは、周囲を見回しながら言った。
「…目立たないように、行動しましょう」
セーラが言った。
「…ああ。まずは、情報収集だ」
カインは、頷いた。
三人は、会場の中を、ゆっくりと歩き回った。
カインは、知り合いの貴族に声をかけ、さりげなく情報を聞き出していた。アレンとセーラは、周囲に気を配りながら、カインの様子を見守っていた。
「…どうやら、最近、王宮内で不審な動きがあるらしい」
カインは、二人の方に戻ってきて、小声で言った。
「…不審な動き…ですか?」
アレンが尋ねた。
「ああ。夜な夜な、人影が出没したり、不気味な音が聞こえたりするそうだ」
「…それは…」
セーラは、不安そうな表情を浮かべた。
「…魔王復活に関わることかもしれないわ」
「…ああ、その可能性は高い」
カインは、頷いた。
「…さらに詳しく調べてみる必要がある」
「…でも、どうやって…?」
アレンが尋ねた。
「…王宮の書庫に、何か手がかりがあるかもしれない」
カインは、言った。
「…書庫には、王宮の歴史や、秘密の記録などが保管されているはずだ」
「…でも、書庫に入るには、許可が必要ですよね…?」
セーラが尋ねた。
「…ああ。だが、方法はいくつかある」
カインは、意味深な笑みを浮かべた。
「…例えば…」
カインは、周囲を見回し、小声で続けた。
「…書庫の鍵を持っている人物から、鍵を借りる…とか」
「…借りる…って…」
アレンは、呆れたように言った。
「…盗む、ってことですか…?」
「…まあ、そうなるな」
カインは、悪びれる様子もなく答えた。
「…そんなこと、できるんですか…?」
セーラは、心配そうな表情を浮かべた。
「…心配するな。俺に任せておけ」
カインは、自信ありげに言った。
「…お前たちは、ここで待っていろ」
カインは、そう言うと、一人でどこかへ行ってしまった。
「…大丈夫かな…」
アレンは、不安そうに呟いた。
「…カインさんを信じましょう」
セーラは、アレンを励ますように言った。
二人は、会場の隅で、カインの帰りを待った。
しばらくすると、カインが戻ってきた。
「…鍵を手に入れたぞ」
カインは、手に持った鍵を、二人に見せた。
「…どこから…?」
アレンが尋ねた。
「…まあ、色々な方法がある」
カインは、はぐらかすように答えた。
「…それより、急ぐぞ。書庫は、この近くにある」
カインは、そう言うと、歩き出した。
アレンとセーラは、カインの後を追った。
三人は、人気のない廊下を抜け、書庫へとたどり着いた。カインは、手に入れた鍵で扉を開け、中へと入った。
書庫の中は、薄暗く、静まり返っていた。天井まで届くほどの高い本棚が並び、古い本の匂いが漂っている。
「…すごい数の本だな…」
アレンは、圧倒された様子で、辺りを見回した。
「…ここから、目的の情報を探し出すのは、大変そうね…」
セーラは、困ったように言った。
「…手分けして探すぞ」
カインは、言った。
「…俺は、魔王に関する記録を探す。お前たちは、王宮内の不審な動きについて、何か手がかりがないか探してくれ」
「…わかりました」
アレンとセーラは、頷いた。
三人は、それぞれ別れて、本を探し始めた。
アレンは、歴史書や伝記などを中心に、手当たり次第に本を手に取った。しかし、魔王に関する記述は、どれも断片的で、具体的な情報は得られない。
「…くそっ、なかなか見つからないな…」
アレンは、焦りを感じ始めた。
一方、セーラは、王宮の記録や、貴族たちの書簡などを調べていた。
「…これは…!」
セーラは、ある書簡を手に取り、目を輝かせた。
「…アレン、カインさん! これを見て!」
セーラは、二人を呼んだ。
アレンとカインは、セーラの元へ駆け寄った。
「…どうした、セーラ?」
カインが尋ねた。
「…この書簡、ある貴族が、黒曜会という組織と密会していることを示唆しているわ…!」
セーラは、興奮した様子で言った。
「…黒曜会…だと…?」
カインは、表情を険しくした。
「…それは、魔王復活を企む、秘密結社の名前だ…」
「…やっぱり…!」
アレンは、拳を握りしめた。
「…この書簡には、密会の場所も記されているわ…」
セーラは、続けた。
「…王都の外れにある、廃墟…」
「…そこが、奴らのアジトか…」
カインは、呟いた。
「…よし、行くぞ」
カインは、立ち上がった。
「…奴らの企みを、阻止しなければ…」
「…はい!」
アレンとセーラも、力強く頷いた。
三人は、書庫を後にし、黒曜会のアジトへと向かうことにした。
三人は、夜の王都を駆け抜け、外れにある廃墟へと向かった。廃墟は、かつては教会だった建物で、今は見る影もなく荒れ果てている。
「…ここが、黒曜会のアジト…」
アレンは、息を呑んだ。
廃墟からは、不気味な気配が漂ってくる。
「…気を引き締めろ」
カインが言った。
「…奴らは、何をしてくるかわからない」
「…はい」
アレンとセーラは、頷いた。
三人は、廃墟の中へと入っていった。
中は、暗く、埃っぽい。崩れかけた壁や、朽ち果てた家具が、かつての面影を残している。
「…どこかに、奴らの気配があるはずだ」
カインは、周囲を警戒しながら言った。
三人は、慎重に廃墟の中を進んでいった。
しばらく歩いていると、どこからか、話し声が聞こえてきた。
「…あそこだ」
カインは、声のする方へ、指を差した。
声は、廃墟の奥にある、大きな部屋から聞こえてくる。
三人は、足音を忍ばせ、部屋へと近づいていった。
部屋の中を覗くと、黒いローブを身につけた男たちが、数人集まっているのが見えた。
「…あれが、黒曜会の連中か…」
アレンは、息を潜めて言った。
「…ああ。間違いない」
カインは、頷いた。
「…何をしているんだ…?」
セーラが尋ねた。
男たちは、祭壇のようなものの前に集まり、何やら儀式のようなことを行っている。
「…魔王復活の儀式…かもしれない」
カインは、推測した。
「…阻止しなければ…!」
アレンは、剣を抜こうとした。
「…待て、アレン」
カインが、アレンを制止した。
「…今、突入するのは危険だ。まずは、敵の数を把握する」
「…でも…!」
アレンは、焦りを隠せない。
「…落ち着け。敵を倒すだけが、全てじゃない」
カインは、冷静に言った。
「…情報を集め、奴らの計画を阻止する。それが、俺たちの目的だ」
「…わかりました」
アレンは、渋々、剣を鞘に納めた。
三人は、物陰に隠れ、黒曜会の様子を伺った。
黒曜会の男たちは、儀式を続けながら、何かを話している。
「…魔王様の復活は近い…」
「…我らの悲願が、ついに叶うのだ…」
「…この世界は、我らのものとなる…」
男たちの言葉を聞いて、アレンは、怒りを覚えた。
「…許せない…!」
アレンは、拳を握りしめた。
「…絶対に、魔王の復活を阻止しなければ…!」
「…ああ。そのためにも、まずは、ここから脱出し、情報を持ち帰る必要がある」
カインは、言った。
「…奴らに気づかれる前に、ここを離れるぞ」
「…はい」
アレンとセーラは、頷いた。
三人は、足音を立てないように、慎重に廃墟を後にした。
闇夜に紛れ、三人の影が、王都へと消えていく。
魔王復活を企む黒曜会。その胎動は、すでに始まっている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます