第3話 『借りた消しゴムは永遠の愛』


昼下がりの教室。窓の外からは心地よい春風が吹き込み、穏やかな時間が流れている。


「……くそ、消しゴム忘れた……」


悠真はため息混じりに呟いた。ノートに書いた数式を前に、頭を抱える。数学の小テストが目前に迫っていた。


「ん? じゃあ、これ使っていいよ!」


隣の席からひょいっと差し出されたのは、小さなピンク色の消しゴム。見慣れない可愛らしいデザインだった。


「えっ……あ、ありがと」


何の気なしに受け取ったその瞬間、教室中に響き渡る声。


「やだー! 悠真、私との永遠の愛を受け入れてくれるんだ!」


「はあああ!??」


悠真の手が止まり、クラスメイトたちが一斉に振り向く。


「ちょ、ちょっと待て! ただの消しゴムだろ!?」


「いやいや、悠真、知らないの? 昔から言うでしょ?“好きな人に消しゴムを借りたら、それは永遠の絆の証”なんだよ!」


「どこ情報だよそれ!? 初耳すぎるだろ!」


「ううん、これはもう学園の伝説レベルだから!」


「いや今お前が作ったんだろうが!!」


悠真が全力でツッコむが、千明のキラキラした目がにやりと笑って顔を近づける。


「でもね、悠真。もう受け取っちゃったんだから、取り消しはできないよ?」


「……な、なんだよその理屈……!」


「私、悠真に消しゴムを貸した。悠真はそれを受け取った。それってつまり……」


「言うなよ!? 絶対に言うなよ!?」


「……もう、両想いってことだよね?」


「誰かこの当たり屋止めろおおお!!」


悠真の叫びが響き渡る中、クラスメイトたちはすでに爆笑の渦に巻き込まれていた。


「悠真、もう観念しろって……」


「マジで千明、会話の天才すぎる……」


「これはもう、消しゴムプロポーズと言ってもいいのでは?」


クラス全体がすっかり千明のペースに乗せられてしまった。


「……ったく、もう絶対にお前から何も借りねぇからな!」


「えー? でも“借りなくても、隣にいるだけで気になる”ってことは……?」


「やめろおおおお!!」


その時、後ろの席でこのやりとりを見ていた玲奈が、呆れたようにため息をついた。


「ねぇ千明……そういうのってバカっぽくない?」


「…………………………………………………………」


玲奈の冷静なツッコミに、一瞬教室が静まる。


しかし、千明は間髪入れずに笑顔で答えた。


「バカと恋は紙一重!」


「開き直った!?」


玲奈が思わずツッコむが、千明は自信満々。


「だってさ、恋って冷静じゃダメでしょ? ほら、悠真もツッコミすぎてもう愛の告白レベルじゃん!」


「誰が告白してるか!!」


千明の当たり屋ムーブは、今日も悠真の平穏を見事に吹き飛ばしていくのだった。


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