第4話 火おこし、そして初夜。

僕は適当な倒木に腰掛け、途方に暮れていた。

どうしよう。

食料・水・携帯・金銭、全てなし。

おまけに自分からは羊の唾液の臭い。

考えれば考えるほど、状況は最悪だった。

それに、少し肌寒くなってきた。日は刻一刻と沈み始めている。

もうじき夜がくる。今の服装で夜の寒さを耐え凌ぐことはできるのだろうか。

それにここは山だ。山は標高が高い。ということは夜の寒さはさらに厳しいんじゃないか?

焦燥感に駆られ丸太から立ち上がってみたものの、どうすればいいのか見当もつかないので突っ立ったままだ。

段々と明度を落としていく空を見上げたところに、一つのアイデアが降ってきた。

「火おこし」

そうだ!火を起こせばいいんだ!昔、無人島でサバイバルをする小説を読んで胸を躍らせたものだ。確かあれはロビンソン、なんとかみたいな名前だった気がする。

僕はワクワクしていた。

僕はすぐそばに落ちていた木の棒と板を手に取り、意気揚々と擦り合わせ始めた。

僕のサバイバルはここから始まるんだ!

数分後、僕の甘い考えは一瞬にして打ち砕かれた。擦れども擦れども、火が着く気配はなく、ただ木の先端が黒くなるだけだった。その後も根気強く続けてみたものの、状況は一ミリも変わらなかった。


僕はなんて愚かな人間なんだろう。素人が木を適当に擦り合わせたところで、火など付くわけがなかったのだ。


「何だよもう!」


僕は木と板を地面に叩きつけ、じんわりと体に広がる疲労感を認識した。

無駄に体力と時間を使ってしまった。

僕の火おこしは、火を最初に見つけた原始人を心から尊敬するという結果に終わった。


太陽の光は殆ど機能しなくなり、気づいた時には夜空が、次自分のシフトですよというように一面に広がっていた。

それと同時に、気温が一気に低下し始めたのが分かった。

あたりは暗闇に包まれ、殆ど何も見えなくなってきた。

どうしよう。どうしよう。寒い、怖い、、、助けて。

僕はその場にうずくまって泣き出してしまった。


森のどこかで、狼の遠吠えが聞こえた。


泣き疲れて、僕はいつの間にか眠ってしまい、そのまま長い長い夜を過ごした。

僕のこの世界での最初の夜は、寂しくて、寒くて、とてもお恥ずかしいものだった。




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騎士の休息 そこらへんの人 @popipopin

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