捨てられて失恋したばかりの加護持ちはもっと上からの愛に気付かない〜女神の友人と観戦していた武闘大会で愛を叫ばれました〜

リーシャ

第1話浮気

付き合っている恋人が冒険者として成功して、ついに王家の覚えめでたく、褒賞を貰えることとなった。


そのまま家庭を築いて安定に暮らしていきたいなと夢を見ていたところ。


頬を殴りつけられても足りない衝撃が、アーミャに起きた。


「え?」


「だから、アーミャ別れてくれ。おれは本当の恋に落ちたんだ」


恋人のロレントが、真恋人と名乗る女を横に座らせていた。


初耳すぎて驚いた。


「浮気したってことでしょ」


というと浮気じゃない、本物の恋人、伴侶と出会ってなかっただけだと言われて、途端に恋人に対する情がかき消えた。


じゃあ、それはもう剥がすね?


恋人だったロレントからアーミャの加護を、ぺりぺりと剥がす。


それに気づかず、ロレントは今もペラペーラと恋人云々の戯言を吐き続けている。


「気持ち悪いからもう辞めて」


ぴしゃりと言うとアーミャは念書を書かせた。


二度と会わない。


二度と話しかけない。


二度と、二度と、エトセトラ。


念書を書かせたのちに、その真恋人たる女にも書かせる。


破れば罰が降るうまのことを明記して、妖精に願う。


妖精は契約を重んじる。


そして、アーミャも。


二人と別れて、アーミャはこの街にいるのも嫌になった。


ここにいれば、あの二人と会うことになるし。


この街の飲み屋で食べ納めでもしようかと、入れば見知った顔がいた。


「ん?おー、アーミャじゃん」


「コトノス」


コトノスは、アーミャの近所に住む人だ。


近所ゆえに生活圏が被る。


「最近どうだ?」


「彼と別れた。新しい恋人連れて」


「……はぁ?いや、え?お前の恋人って、あの有名人くんだろ?」


強さにおいて、上位に駆け上がった男。


「わたしはただ、安定した生活が欲しかっただけなんだよなぁ」


愚痴りつつ、お酒に溺れる。


コトノスは愚痴るのを聞いて、共に憤ってくれた。


あいつは、今後活躍出来る見込みがなくなったので、あとは下層に落ちるのを高みの見物にしていればいいや。


「はー、じゃ帰るね」


「おう、またな。落ち込むな。おれはお前のことが人として好きだからな。自信待て」


「勘違いされて、腹とか刺されるやつの台詞!」


「はは!」


最後にジョークで笑わせてもらい、帰宅。


布団に入ると、睡魔の呼び声に応えて瞼を重く閉じた。


「アーミャ」


アーミャには誰にも言ってない秘密がある。


「アーミャ、この本はどう?」


それは、この世界の女神と恋愛小説友達なことだ。


「こっちよりも、最近はこっちが気になる」


女神、ルルティアイナ。


この世界の主ではなく、端役と本人は言い、実際に聞いたことはない。


「騎士と姫の王道は外さないでね」


「ルル、好きだねぇそのジャンル」


「あなたこそ、恋愛度ちょっとのものしか最近は読んでないじゃない。潤いを足しなさい、潤いを」


ルルティアイナの愛称を呼ぶほど、二人は長く過ごしていた。


今日、恋人と別れたのだと言わずとも、彼女は上位の存在なので、知っていることだろう。


寧ろ、恋人の不実を知っていたと思う。


が、それを言うのは筋違い。


恋人にしたのはアーミャだ。


そこに女神の介入も、関係もない。


「飲み屋で会った人、どうなの?」


前半は小説についてなのだが、後半は何故か飲み屋の話なのだ。


「え?あの人?あの人は単に近所の人ってだけ」


「えーっ。そんなぁ。人として好きって言われたのにぃ」


「完全に聞いてたんじゃん。スキャンダル大好きっこめ」


あんなのはリップサービスだと苦笑。


しかし、恋愛小説ばかり読み漁る女は言うことが、それ基準になっていた。


勿論、自分も好きだから互いに仲良くなったし。


「あの人、わたし推してみようかしら」


「いやぁ、人間を推すのは……不毛じゃない?」


「キャラの濃さ的になかなかよ?」


ルルティアイナは、目の前にホログラムを出す。


ホログラムという名称だと、昔教えてもらった。


「ステータスも問題ないわ。器用貧乏系の人ね。伸ばそうと思えば伸ばせるわよ」


「どこ伸ばすの?ストレッチ?」


「ほほほ、アーミャったら、男は育てるものなのよ?」


「強い。小説でしか養ってない知識を振り翳してるだけなのに」


まるで、経験豊富のように語るこの女神は、大昔からこの空間から出たことがないらしい。


出なくても好きなだけ空間を作れるので、実質出なくても平気なのだそう。


「アーミャも早く、わたしと魂だけになったらここに住みましょうね」


「そうだね。百年後ぐらいにね」


このやりとり、最早定期文。

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