学園都市の解決屋録
三重知貴
前編
那智ノ宮学園。
日本のとある巨大な島全体を社会実験として大規模に改修し、作り上げられ広大な学園都市に作られた学校。全校生徒が2万人を超え、日本最大級の規模を誇る。広大な敷地、数多の校舎、最新鋭の設備—ありとあらゆるものがトップクラスのクオリティを持ち、この学校だけで1つの町、いや1つの独立した社会を形成していると言っても過言ではない。そんな特別で学生になに不自由ない夢のある学校。
中身も夢のようだ。生徒会は権力持ってるし、風気委員は警察みたいだし、2万もいれば派閥も争いもある。常識を外に置いてきたような人間も沢山いる。一生に一度の青春の場としては、この上なく楽しい場所だ。
ああ、僕自身は取り立ててなにもない、権力を持ってないし、争いもしていない。名前は
そんなただの生徒にすぎない僕が所属する文芸部の部室にはカミサマがいる。僕の最も憧れて尊敬している先輩だ。
まぁカミサマといっても人間だし、単なるあだ名であるんだけれど、この高校でカミサマと呼ばれるのは彼女1人だけだ。なんのカミサマかと言えば、解決の神様かな?覚えておくと良いよ。
「後輩くん、あまり女性をジロジロ見るのは褒められないよ、特に足回りなんて年頃の女の子らは気にしてるよ。」
足回りを見てはないですよ。確かにスカートを履いた女の子がソファーで横になっていれば気にしてしまうのは確かだが、横目で見る程度だし。
「それは見ているということだよ後輩くん。まぁサービスしてあげよう。安心したまえ、私の絶対領域は基本無料だ。」
有料版もあるんですか。
「愛しい相手用だけどね。口説いてみるかい?そしたらついつい見せつけてしまうかもね。」
見せつけるんですか、見られてもいいじゃなく。というか見せたら絶対領域ではなくなるのではないんだろうか。というかそもそも先輩はロングスカートだから、絶対領域とは言わないのではないだろうか。
いや別に先輩の趣味に文句を付けたい訳じゃないですよ。意外な趣味だとは思いましたが。
「……参考として聞いておくが、どんな趣味だと思っていたのかな?――いやどんな趣味だと後輩君は良かったのかな?」
……さあ、考えてなかったですよ。
「まぁそんな視線をくれるんだ、君はさぞ私の事が好きなんだろうしな。今の私で満足かな?」
カミサマ、いや
ジロジロ見た事を怒られたの今回はじっくりと眺めさせてもらうが、しかし確かにこの先輩がどんな要素を追加したいだろうか。
小さな体に眼鏡と長髪、文学少女っぽいパッケージに包まれてるのに、中身が超越的なカミサマのような人間、キャラ立ちすぎて、逆に現実感が薄いくらいだ。でも、それが先輩の魅力であり、僕の尊敬しているところでもある。
確かに僕は、今の先輩で満足しているだろう。
「というか後輩くん、私の観察もいいけれど。お昼ごはんも終わって、部活勧誘の時間だよ。こんなところで何をしているのかな。」
新学期はいいですよね、昼前には放課後になってこうして大好きな先輩の背中を見てられるので。僕はなんて有意義なことをしているんでしょう。
「大好きな後輩くんよ、青春なんてさ、1回きり。部活勧誘なんてイベント、人生の舞台で言えば、数えるほどしか幕が上がらないレアな出し物なんだ、参加した方がいいんじゃないかな?。」
なら先輩はなぜここで横になっているのだろうかお答えいただきたい。
「面倒くさいからに決まってるじゃないか。」
なら僕も、したくないからしないということでいいんじゃないですか。そんなにやる気ないですし。
「確かに、そもそもここの部活は自由主義だからね。部長として許可しよう。」
自由すぎて部員の多数が来ずに現在二人きりなのは流石に問題ですけどね。何事もないことが一番だ。
別に僕は全国優勝を目指して部活動に励んでいるんじゃない、ただ学生らしい活動を、すこし怠惰に行ってるだけだ。
それに新入生なんて、勝手にあっちからくるものだろう。
「すみませんー。見学希望なんですけどー。」
ほら、来るもんだ。
形式上、見学歓迎の張り紙は出しているし、文芸部という典型的な部活動に誰も来ない方がおかしいのだ。
先輩は、手を振りながら行って来いと合図をしてくる。まぁ先輩が対応するわけないんだが。扉をあければ二人の女の子がいる。
「あ、見学で来たんですけど大丈夫ですか?」
大丈夫に決まってる。うちは勧誘には行かないが、来るものを拒むことはしない。何もしないだけだ。
来たのは朝倉さんと、夜菜月さんという一年生の女の子二人であった。
ちなみに先輩は振り返ると、凛とした姿でしっかりと深く腰を掛けて眼鏡に手を当てて決めポーズみたいな事していた。一応この人に外面の概念があったようだ。
ともかく、来てくれた一年生には丁寧に説明しよう。ほぼ活動の無い名ばかりの部活なのでほぼ雑談と言ってもいいのだが。
「うしろの方が部長さん?」
そうだ。この見目麗しいお人形さんのように小さく、眼鏡の奥の宝石のような瞳、足元まで届くかというような長髪を持つ女性こそが、わが校のカミサマとも言われる学校一の有名人、うちの部長さまだ。
「後輩君、1つだけ間違えだ。この学校には私よりも有名な人物はそこそこいるよ。」
「それ以外はあってるんですか。」
朝倉さん、すばらしいツッコミだ。だが、見た目に関してこの人が美少女なのは客観的事実だろう。
「ああ、あの噂のカミサマですか。」
おや、夜菜月さんの方は知っていたか。
「はい、3年に知ってる先輩がいて。なんでも知ってるとか、困ったことは解決してくれる解決屋だとか、信者が何人もいるとか、実はめちゃくちゃ優しいとか、いつもシンシっていう側使いがいるとか、変な噂はいくつもあります。目の前にすると、そんな感じはしませんけど。」
「私も聞いたことある。政府の陰謀を未然に防いだとか、連続行方不明事件の謎を解いたとか、学校の暴れ者を手名付けてるとか。実は某国が作った次世代型高性能アンドロイドが正体とか。」
先輩の噂の9割くらいはガセだからな、安心してほしい。アンドロイドが1割の方だ。
「いやそれ以外も1割でしょ――というか側使いのシンシって人、もしかしてあなたが?」
ああ、僕はシンシって呼ばれているね。真摯で紳士なカミサマに使える神使さんだ。
僕意外にも先輩のためなら働く人はいっぱいいるけどね。僕は特に働き者だよ。部員としても、解決屋としても。
「解決屋っていうのは、なんなんですか?」
読んで字のごとく解決する……ボランティア活動かな?
お悩みでも、事件でも、喧嘩の仲裁でも、解決が必要なとこへ、どんなことでも。
「探偵ってことですか。」
うーん、探偵でも警察でもないかな。僕らは真相解明でなくて解決が仕事なんだ。警察みたいに証拠は探さないし、探偵みたいに推理を披露することもない。
問題があれば解決する。料理人が料理を作る、野球選手が野球する。そのくらい単純なことしかしてないよ。依頼を解決する、それ以上も以下もないよ。
「それはどういう……えっとなんでそんなことを?」
朝倉さん、それは先輩に直で聞けばいい。うちの部活に入部すればチャンスはいくらでもあるよ。まぁ部活なんて五万とあるから兼部でもいいけどね。
「後輩君、部活は同好会を含めても927個だよ。5万もないね。」
言葉の綾というやつですよ。しかし、相変わらずの学校規模だ。927個って高等部だけででしょう、よくそんな種類があるね。
まぁ、それはいいや。というか君たちは、他の部活も見回ってるのかな。
「私は楽なのところにでも入部しようかなと。夜菜月は……」
「私は美術部に行こうかなと。」
おや、もう決めていたか。なら今日はお友達の付き添いか、色々回るのは楽しいしね。美術部にはもう行った?
「行こうと思ったんですけど……ちょっと忙しそうで。」
忙しい?今は部活の勧誘期間だ。他に用事もあるだろうが、美術部はたしか人数もそこそこいるし、新入生の相手する人くらい居そうだけど。
「いや、なんか事件あったらしくて。なんか絵が壊されていたらしくて。」
絵が壊されていた。それは確かに事件だ、作者からすれば我が子のような作品を壊されるのは殺人事件みたいなものだみたいなものだ。子殺しの犯人はきっと地獄行きだ。
「よし後輩君、美術部に行こう。連れてってくれ。」
わかりました。すまないけど後輩諸君、今日の文芸部はここまでだ。
ここからは解決屋のお仕事だ。
ああ、あと文芸部への入部はいつでも歓迎しているよ。来る者拒まずってやつだ。
さて、あのカミサマとも言われる先輩と仲良く手をつないで、いや手を引いてが正しいか。
美術部までの案内。この学校はなんでも規模がでかい、美術室のある美術棟3階までは校内でもここから20分はかかるだろうか。
カミサマ、いや先輩の噂話はいくつもあるが、間違ってるものを紹介しよう。それはなんでも解決してくれるということだ。先輩は絶望的な方向音痴である。地理問題を間違えているところは見たことないが、三年生になって校内ですら迷子になる。なので道案内は不可能なのだ。
では何が本当の噂か、なんでも解決するのだ、迷子以外は。だから解決屋なんてものをしてる。
なんでそんなことをしているのか?それはまぁ優しいからだろうね。そんな感じには見えない?
たしかに人間、『実は計算高い策略家で優しさは仮面だ』とかってこともある。でも違うんだな、これが。先輩の優しさは純度100%、砂糖菓子も驚いて辛口で批判するくいには本物の優しさだ。もし誰かが困ってたら、『助けてください!』って叫ばなくても、『まあ、いいか』って勝手に助けちゃう。僕からすればそういう人なんだ。
そんなところがカミサマと呼ばれる所以なのだろう。でも結局人間だ。優しいけど好き嫌いは当然あるからね。
それでも出会う人は、綾先輩の事を信仰やら心酔させてしまう。それこそ本当の神様のように。
だからこうして歩いていると、手を合わせてくる人すらいる。
「後輩くん、私に手を合わせてみんなは何を望むと思う?」
難しいですね。神様に祈るなんて色々ですけど、大概は幸せのためじゃないですか。
自分の不幸を願う人なんて、中々いませんから。
「なら私は神様失格だ。私のよくやる解決なんて、だいたい1人は不幸になるものだからね。解決されると不都合なことも世の中多い。でも解決しないと幸せになれない人が多くなる。神様ならそのくらいどうにかしたいものなんだけどね。」
みんな幸福にできる神様は古今東西どこにもいないと思いますよ、だから宗教に多様性があるんでしょう。
それに神様だって、勝手に祀り上げられただけのやつもいるだろうし、そんなに責任持つもんじゃないですよ。幸せになりたいやつが勝手に神様の下で幸せになるんですよ。
現に僕は先輩についてきて、結構幸せになってますよ。
「おや、嬉しい事を言ってくれるね。口説いてるのかい?君の理想には程遠いけど嬉しいな。ご褒美にこの事件解決したら、ご飯にでも連れっててあげよう。」
それ、連れて行くのは僕になるんですけどね。
美術室、僕は美術選択をしていないので入ることは普段ないのだが、まぁよくある美術室だ。
いつもは香らない、絵の具の独特な匂い、イーゼルが沢山あって石膏像もいくつもあるな。流石はこの学園の規模と言おうか、少し広すぎるようにも感じるけれど、最新鋭の学校でも置いてある物の要素だけ抜き取れば美術室は特に変わったようには思えない。しかし、綺麗な美術室だ。美術室ってのはもっと絵の具で汚れてるイメージなものだけど、整理整頓されて、メンテナンスが行き届いている。とてもいい完璧な場所だ。
教室の後方の人1人よりも大きそうなそのキャンバス、色使いが独特で変わった絵柄の海を描いた風景画のその絵の真ん中に、粗く真っ直ぐ切られた痕がなければ完璧とも言えた。
「やあやあ、
「ん?水萌さん。少し待ちなさい。」
どうもすみません。江ノ来間さん、うちの先輩はそういうの聞かないもので。
「あなたシンシくんだよね?止めてくれると助かるんだけど。完璧な状態で美術室を残しておきたいの。」
僕じゃ止められませんよ。というか先輩のことご存知でしょ。うちの学校で先輩のこと苗字とはいえ、あだ名以外で呼ぶ人は少ないですし。
「クラスメイトですから。」
知ってますよ。先輩のクラスメイトは特選組、優秀な方ばかりです。なんならうちの先輩よりも有名人ですよ。そんな人に僕の事まで覚えてくれてるとはありがたい。
「いつも迎えに来てれば覚えるよ。顔も完璧にね。」
それでもですよ。なにせ特選組の人って、大概の人が傍若無人な天才様で、プライド高くて自分以外になんて興味ないですからね。
「私は完璧だけど、美術は完璧だけじゃないから。全部を受け入れ学ぶものよ、完璧にね。私以外はそうでもなさそうだけど。」
才能あって、その中で更に能力や実績が認められる天才のクラスですからね。むしろ、仲良く和気あいあいとしている方が気持ち悪いくらいですよ。
「あら、じゃあ完璧に部長を務めて、部員たちに頼られ、和気あいあいしてる私は気持ち悪い?」
江ノ来間さんは別ですね。こんなに話しやすいとは思えませんでした。話ついでに今回の事件のこと聞いても?
「解決してくれるのはありがたいけど――風紀委員をもう呼んじゃった。うちの部員の子にいてね、速通報よ。」
ああ、警察ごっこの風紀委員ですか。
「ええ。まぁ解決するなら、どっちでもいいんだけどね。速く終わらないと美術室使えなくて困っちゃうのよ。」
なら、その問題を解決しましょう。僕らは警察でも探偵でもなく、解決屋ですから。先輩のお悩みを解決しますよ。
あんな警察ごっこ達と違ってね。
「あら、風紀委員はお嫌い?」
風紀委員というかシステムですね。いくら社会実験の一環で外部から独立して運営されてる学園とはいえ、生徒内で犯人捜しまでやるのはおかしいな話ですよ。なんなら学園都市法とかいうルールで処罰までやるんですから。大人の監視がありはしますけど、生徒を信頼しすぎでしょう?
あとは――うん、風紀委員には個人的に嫌いなやつがいますね。やっぱ風紀委員も嫌いかもしれません。
「そうかい。まぁ私は好きだけど。この学校だけの経験があるし、普遍じゃないことは絵の刺激になるしね。」
それに特選組は学校からの補助が色々と手厚いですからね。なんでも1人1億円掛かってるとか。
「実際もっとよ。用意されない物の方が少ない、好き勝手した。今の水萌さんみたいにね。」
絵の具とか色々ベタベタ触ってることは許してください。どうせ解決しますから。
「一応後で風紀委員指紋取りにくるらしいわよ?凄いよね、生徒が科学捜査だよ?」
風紀委員にそういう趣味のやつがいますからね。この学校なら、できるやつは他にもいそうですけど。
「科学捜査が趣味?」
いえ、個人情報収集が趣味の変態です。頭から爪の先までなんでも知りたがるやつです。
「変わってるね。」
それで納得するあなたも変わってますけどね。
というかそろそろ、今回の事件のこと聞かせてもらっても?風紀委員とは会いたくないので。
「そういえばその話だったわね。まぁそこにでも座って。」
ありがとうございます。とりあえず、時系列順でお願いします。
「ええ完璧にね……最初に発見したのは私たち。放課後になって鍵を開けたのは私。後輩の子たちと一緒に来てたけど、まぁ私が第一発見者みたいなものね。すぐにそれを見つけて、風紀委員呼んで、部活の勧誘は中止して、風紀委員から話聞かれて、君たちが来たって流れ。風紀委員は今頃指紋検出するのに準備してるんじゃない?」
なるほど、壊されのは誰の絵ですか?
「2年の
パッとしない言い方ですね。
「まぁ私が部員何十人分の作品を把握してるわけじゃないから。ちゃんと見ればわかるけど、でも他の子が描いてるとこ見たらしいしから。当の本人があの絵を見て、『こんなの私の絵じゃない。描いてない!』ってずっと怒ってたけどね。まぁもうすぐ完成みたいだったから仕方ないけれど。それにしても彼女、頑固なのは知ってたけど、それ以上に無口で有名だから驚いたわよ。知らない?あの子も特選組の子なんだけど。」
ああ、知ってますよ。
「あらあなもだったのか。そうね、まぁああいう独特な子はよくいるから別にいいんだけど。風紀委員にも私のじゃないって言うから。まぁ間違いなく独野さんだよ。なにせあんなに上手い子、うちにはいないから。」
それは江ノ来間さんよりも?
「さあ。彼女は独創的な自分の絵って感じだけど、私は写実的な絵だから。ほら、私完璧主義なとこあるから、目の前のものよく観察して、再現するように完璧にそのまま描いてるほうが性にあうのよ。潔癖症ってやつかしらね。それに観察眼には自信あるのよ、私。」
見た事あるんでわかりますよ。少し遠くから見たら写真かと思いましたよ。特性組ってすごいですよね、人間離れというか。うちの先輩は記憶力に自信があるって言って試しに食べたものをどこまで遡れるかを聞いてみたら、離乳食より後からは全部覚えてるとか言い出しましたよ。僕は昨日のご飯も覚えないのに。
「褒めてくれてありがとう、あれ描くのすごく大変なのよ神経使うし。だからうれしいわ。話を戻すと、つまりはそういう事ができるから特選組なの。特殊で特別を選んだ人の組。君だってわかるでしょう?。まぁだから、そもそも独野さんと私は比べようがないわね。絵は人それぞれ。まぁ、ああいう絵を描くのは独野さんのくらいだと思うわ。」
絵の事はよくわからないですけど、納得はできますよ。
「絵なんてそれぞれに色んな道があるから一生理解できないわよ。私もね。でもだからって諦めはしないけど。まずは手の届くところから完璧に理解したいものよ。」
そう思えるあたり、やっぱりあなたは特選組の人間ですね。
まぁいいです、肝心の独野さんはどこに?
「癇癪収めにどっか行ったわね。今日はもう来ないんじゃないかしら?」
わかりました。ではぶっちゃけ聞きますけど犯人と思う人はいます?
「随分とぶっちゃけね。まぁ部員の誰かでしょうね。本来、絵はとなりの部屋で保存してるのにわざわざ出して来たんだし、鍵の場所なんて部員以外知らないだろうし。」
あの後ろの方にある部屋ですか。
「ええ、湿度とか色々管理できる部屋。道具も全部あそこ。美術館ばりの施設よ。普段は美術の授業とかで他の生徒が入らないようにいつも鍵をかけてる。管理自体は美術部の机の中に入れてるだけだけど。」
美術室の鍵は?
「他と一緒で学校の管理室の管理。手続きやって三島ちゃんが手渡ししてくれるよ。ほら。美術室って書いてあるでしょう。」
じゃらじゃらと、美術室とタグついた鍵を顔の目の前に出してきた。
そんな近くなくてもわかりますよ。三島ちゃんて管理室の事務員さんのことですか。女子って学校の職員の人とも結構気軽に接する人多いですよね。
その鍵の管理は江ノ来間さんが?
「昨日と今日の鍵の管理は私。確か昨日、備品の補充ついでに鍵を借りに行って、活動終わりが全部道具やら片付けたの確認してから戸締りした。他の子には鍵を渡してすらないし、朝は自主活動だけど昨日はいないね。管理室のタブレットで見た時の記録では前回の貸し出しは昨日の私だったし。それに美術の授業もまだ新学期でないはずだから誰も美術室には入れない……あれこれ、もしかして密室事件かしら?」
なら先輩が犯人の可能性もありますか。美術室に出入り自由な鍵を持ってたら密室事件にはならない。1番犯人として有力でしょう。
「あれ、疑うの?」
失礼しました、ジョークですよ。可能性の話ではありますが。
「疑ってるね。別にいいんだけ。一応戸締りは他の子もいたし、鍵の返却は後輩の子と一緒に返しに行った。記録があるんだよ?」
気に障ったのならすみません、冗談が下手なもので。じゃあ心当たりはありますか?恨みとか、いじめだとか何でもいいんですけど。
「うーん、あまり部員を疑いたくないけど、あの子の周りなら結構いるでしょ。私もなんだかんだで妬まれる。特選組ってそのくらい他より扱いが違うから。あまり人と関わらないタイプだけど、むしろそれが腹が立つみたいな。ほら、推薦組とか上手くてプライド持ってる子多いし。」
なるほど、まぁ残酷なほどにこの学校には上下がありますからね。そういう問題も出てくるでしょうね。うちの部活ではないですけど。
「水萌さんはそういう次元じゃないからねぇ。可哀想だけど、ここだと美術っていう同じ土俵で競って比べられる、天才と戦おうとすると疲れるのも仕方ないのかも。」
なるほど。嫉妬が動機ならわかりやすい。特に推薦組は特選組に比べれば実績が少ないが、それでも十分な実力があるはずだ。それで色々と積もる感情もあっただろう。わかりやすい結末だ。そうなら、さっさと
しかし、こんなただの予想は、推理とは言えないだろう。もう少し情報が欲しいな。
「失礼いたします。風気委員です。」
おや、情報が扉を開けてやってきた。そろそろだとは思ってたよ。
「ああ、また解決屋ですか。相変わらず熱心なことで。誰が呼んだんです?」
勝手に来たよ。しかしラッキーだ、まだ当たりの方の不渡くんじゃないか。
「なにが当たりだ、エセ紳士。そもそも勝手に来るな。捜査ごっこはやめてくれ。」
そら君のとこのハズレ委員長様や他の権力に溺れたバカ共に比べりゃ大当たりだ。君はクソがつくほど真面目だしね。あと、捜査じゃなくて解決だ。穏便なね。
「知るか。なんなら現場荒らしでお前のとこのカミサマ逮捕しようか?」
大丈夫、うちの先輩は大事なものには触ってないよ。ふらふら観察してるだけさ。
「ガキに現場を歩かせるなと言ったのは何回目だよ。」
さあ、いつも言われてるから数え忘れたよ。君覚えてたりするの?
「後輩くん、嫌味の前にガキのところを否定したまえ。」
…………先輩は気配消して後ろから耳元で急に話しかけるのをやめてください。
「それはごめん、じゃあ撤収するよ。もう見たし。あと風気委員の……三途の川渡りくんだっけ?私はレディーだよ。君が口説くのが100年早いくらい大人のレディーだ。ガキ呼ばわりはやめてくれ。」
先輩、不渡くんです。そんな死相が丸見えの名前じゃないですよ。
という事で、美術部からは撤退してきた。不渡くんは真面目だから先輩に名前を覚えてもらうまで自分の名前を名乗り続けてたけど、先輩は嫌いな人の名前は覚えないらしい。なので残念ながら名前を呼んでもらえることはなく、仕事は良いのかい、と言ったら悔しそうな顔で諦めたよ。本当に真面目でよかった。
僕は彼がお気に入りだ、具体的には風気委員のくせにまだ話を聞いてくれる真面目さの辺りとか。
「とりあえず、管理室の方に行ってみようか後輩君。」
わかりましたよ。
管理室というのは、そのままの意味で校舎の鍵や備品など校舎の管理をしているし、専門の講師の人たちもそこいいる。つまりは職員室が分散されているような感じだ。校舎が数十あるこの学校独特なシステムではあるだろう。あと、基本的に校舎の1階の玄関前に設置されている。
「そういえば、私あまり管理室行かないから新鮮だな。毎日目には入るんだけどね。」
先輩は鍵借りなくても、誰かが届けてくれますもんね。
「うん、鍵以外もペンとかノートとかの文房具はなくなったら補充されるし、なんなら図書館で借りた本は読み終わると勝手に返却してくれるし、みんな優しいよね。」
僕が言うのも変な話ですけど、信者ってのは怖いものですね。
「まぁみんな私の事大好きだからね。後輩君もだけど。それよりも、さっさと話しを聞いてしまおうか。」
管理室の窓口は「管理室」と大きく書かれた看板がありその下に、受付をしている職員の女性が1人いるような感じだ。奥の方には何人かの職員がパソコンに向かって作業をしている、恐らく講師だろうか。
「どうされましたか。」
受付の人が聞いてくる。声色が学校の職員というより、ちゃんとしたお店の受付みたいだ。江ノ来間さんが言っていた三島という人だろうか。三島ちゃんというには少し年上に見えるけど。
「ちょっと聞きたいことがありまして。美術室の鍵についてなんですけど。」
「ああ、もしかして風紀委員の子たち?」
「はい、こちら責任者の不渡くんです。」
先輩は爽やかな笑顔でそう言う。哀れなり、不渡くん。
まぁこう言った方が話は早いのからいいのだが。真面目な不渡くんのストレスが増えてしまいそうだな。風紀委員辞めないように、流石に謝ってあげようかな。
「事件の事は軽くだけど伝わってるわよ。顧問の吉住先生はもう行っちゃったけど。とりあえず、何が知りたいかな?」
随分と慣れた感じにそう答える。
「この学園、癖の強い子多いから。色々と問題は多いからね、それなりにいると慣れるのよ。」
「とりあえず、鍵の事と出入りで怪しい人はいませんでしたかね。それと美術部についてなにか気になることあれば教えてほしいんです。」
「鍵はとりあえず記録見る?特に変なところはないと思うけど。いつもは江ノ来間さんと他の子が一緒に来てるけど。」
そう言いながらタブレット端末をこちらに出しなてきた。端末には美術室の鍵の情報がある。書いてあることを見ると確かに、今日の日付で江ノ来間さんの名前と時間が載っている。
「ありがとうございます。では不審者というか、いつもと違う人の出入りとかありませんでしたか?」
「うーん、特にいつもと違うとかはなかったかな。新入生も多いから普段とは雰囲気違うけど、不審者とかはなかったと思うわ。」
「他の職員の方もですか?」
先輩が後ろで仕事をしている人達に声をかける。すると一人の男性の人が椅子に大きく背を任せてこちらに顔を覗かせる。
「僕たちはオリエンテーションとかで出払ってたからわからないよ。美術部の事も吉住先生以外は関わりもないしねー。」
「ありがとうございます。」
そう言うと「どういたしまして。」と言わんばかりに手を振ってまた仕事に戻っていった。
「そんな感じで、まぁ私は基本一日中ここにいるけど、特に変なこともなかったわよ。気になるならカメラも玄関にはついてるから。」
「いえ、ありがとうございます。では一応美術部についてなにか変わったことあれば教えてほしんですけど。」
「美術部か、うーん、特に変なことはないわよ。いつも仲いいなとは感じるけど。備品を取りに来る時とかもわいわいしながら来るし。江ノ来間さんとか結構話しかけてくれるのよ。変わった子ではあるけど、春休みとか1日中頑張ってたし、描いてる時とかすごく集中しているのよ彼女。」
江ノ来間さんは部員が怪しいと言っていたが、彼女からすれば仲がいいのか。少し違うことを言っている感じだが、この人が部員を全員見ているわけでもないだろうから仕方ないことではあるんだろう。
「そうですか。じゃあ、独野さんはどうです?なんか恨まれてるとか知りません?」
「独野さん?あまり友達といるところは見ないけど悪い子には見えないから、そういうのは知らないわね。そういえば、さっきスケッチブックを持って出て行ったよ。確か被害者なのよね。やっぱりショック受けてるのかしら。あんないい絵を描いてたのにね。」
「ありがとうございます。――さて後輩君、走るよ。」
独野さんのところですか?
「いや、あれだよ。」
先輩は廊下の向こうの人を指差す。
男女が2人、腕章をつけている。うちの学校で普段から腕章を着けているのは、生徒会か風紀委員かのどちらかだろう。
「聞き込みに来たんだろうね。さぁバレる前に行くよ。」
恐らく今頃報告を聞いた不渡くんは怒っている頃だろうか。真面目だしな、彼。
「後輩くん、私以外の女の事考えてるね?ダメだよまったく。」
残念ながら男の事を考えていましたよ。というか先輩走った後でこんなくっつかないでください。
「男でもダメだろう?というか、こんな美少女と肩が触れ合いながら、ソファーに座っているんだから喜びなよ。」
そうなんですか。あ、先輩髪の毛に絵の具ついてますよ。服に垂れますよ、拭かないと。
「露骨に話をそらしたね。もっと興味の引く話題をしなよ。」
なら事件のことでも考えますか?
「待ち時間だしね、それもいいだろう。今の所どうだい、今回の事件は?」
まだなんとも。知ってる情報はさっき帰りながら言ったのが全部ですから。憶測の域を出ませんよ。
「その憶測を聞きたいんだ。私は先輩だからね、後輩の話を聞くものなんだ。」
なるほど、では粗末な推理をしましょうか。気になるところは色々ありますが、とりあえず事件は前の日の美術室の戸締りから、今日の放課後まで。鍵は江ノ来間さんが管理して他の人は触れてもない、管理室の記録もある。三階ですから侵入もないでしょう、わかってましたが密室の犯行ですね。
「そうだね。どうやったと思う?」
ぶっちゃけ、どうやるかは検討つかないんですよね。計画的にやってるなら合鍵とかの可能性もあるんですけど、それなら証拠が残るでしょう?なのでお手上げです。
「じゃあどこから推理する?」
動機ですかね。
「いいね、続けて。」
まずは美術室の目立つ所に切った絵を置いているかの理由。
独野さんを困らせるだけなら盗むなり隠すなり色々とやり方があります。その中でわざわざ見せつけるように美術室のど真ん中に置いてある、嫌がらせの意味が強いでしょう。
となると、かなり恨みなりなんなり、暗い感情があるんでしょう。
「なるほど、犯人は独野さんをよく思ってないやつだと。」
ついでに言うならわざわざ絵に嫌がらせをする当たり、美術部員の可能性は高いでしょうね。あまり決めつけるのは推理にはよくない事ですが、特選組ならクラスメイトと衝突もないでしょうし、あの子は人と関わる方じゃないなら、美術部以外とは接点もないでしょうし。
「確かに。決めつけはよくないが、私のクラスも言い合ってるのなんてごく一部だから衝突は少ないのは事実だね。それに美術部が関わってるのは間違えないだろうね。」
まぁ、そこらは指紋取るなら一発でわかりますがね。美術部以外の指紋が出たらそいつは犯人でしょう。
あとは犯行時刻ですが、昨日から今日にかけて。これはまだわかりませんね。監視カメラにでも写ってたら簡単なんですけどね。
「そう簡単にいくなら、わざわざ私はこんな話しないし、一々首を突っ込んだりしないよ。」
…………もしかして、なにかわかってたりしますか?
「流石に全部ではないけどね。君よりはわかってるはずだよ、先輩だから。まぁ、ヒントというか私が見た現場からの情報をあげよう。」
「まずは密室。君の言う通り、窓や扉、色々と見たけど進入口になりそうなところはないね。普段使わない上の方の窓なんて埃が溜まってたし、それっぽいところは一通りはない。次に絵そのものについてだけど。まぁ良し悪しは置いておいて、真ん中を綺麗に一線。刃物を振り下ろした感じだろうね。後ろの木材の部分が見えるほど豪快に。あれならナイフとか包丁みたいなものかな。乱暴に扱われたせいか周りも少し形も崩れて汚れていたしね。あと他には確実ではないけどそうだね――まぁ、一旦ここからは情報待ちでいいかな。」
それもご教授願えたいものなんですが――でも確定してない情報だらけで推理しても、ただの妄想もいいところですからね。一旦そこまで教えてもらえただけでも感謝しますかね。
「わかってるじゃないか。しかし、時間を持て余すのは嫌だね。とりあえずイチャイチャしながら私の事でも口説くかい?後輩くん。」
妖艶な笑みで、僕を吞み込んでしまいそうな先輩の瞳、断る理由のない悪魔の囁きが聞こえてきた。
いや断るんだけど、この距離で言われると色々と困ってしまう。僕は真摯な紳士ですよ。TPOを弁えてる、立派な紳士です。
「おや、後輩くん。それにしては目の色が変わってるよ。じゃあ――やっぱり今日はここらでお預けだ。さあ入ってくれ。」
先輩が手を叩く。、開く扉。現れるはカメラを持った1人の女。
「どうも、
いつもより随分と攻めてくると思ったがこういうことか。先輩は妙にこいつのことを気に入ってる。
化野香、我が校最大手の第一新聞部の記者、そしてなぜかなんでも調査してくる情報屋。
「いやー、シンシ先輩がカミサマに手を出してくれれば特大スクープになったんですけどね。」
なったんじゃなくてするんだろう。そんな噓っぱちの三流記事に需要があるなんて、僕には理解できないよ。
「みんなが欲しいのは真実じゃなくて、信じたい真実のような嘘です。その嘘にみんなが踊り出すんですよ。」
どっちでもいいよ。最低でもこの部室だと、嘘か本当かは先輩が決める。
「うわー、相変わらずの信者だ。まぁ私もカミサマのことは信じてますけど。」
そうだろう。あと、今日は新聞屋の仕事じゃないんだ。わかってるだろう?
「わかってますよ。情報屋ですから。解決屋相手に情報の方には嘘をつくことも誇張することもありませんよ。ちゃんと事実だけをお教えしますよ。報酬もいただいておりますし。」
報酬ってのはまたカミサマの情報か、今回は何貰うんだよ。
「なんと今回はカミサマの写真です!なにせ無許可で撮ると必ずブレて顔がわからないですから。」
よく許可あげましたね先輩。
「別に顔を隠してる訳じゃないからね。よく働いてくれてるし、このくらいいいんだよ。なんなら後輩くんもあげようか?私の自撮り100選。」
…………考えておきます。
「えー!先輩だけずるいですよ!私もカミサマのかわいい自撮り欲しいですよー。」
「仕事次第かな。今回頼んでおいたのはどんな感じだった?」
「ご期待に沿えると思いますよ。とりあえず、絵から指紋は本人除いて3つ出てきたみたいです。風紀委員が今頃3人を聴取してると思います。絵を切り裂いたのはカッターみたいですけど、証拠品自体は出てないですね。」
流石、変態のくせに優秀だな。しかし3人か、思ったよりは少ないな。
「その3人ですが、2年生の岡崎望さん、篠原勝也さん、木原桜さんです。」
全員2年生か、まぁ予想通りってところかな。
「全員推薦組の方々ですね。独野さんとの関係はけっこうハッキリ別れてる感じです。岡崎さんと篠原さんの二人は独野さんのことはあまり良く思ってないみたですね。美術部は美大受験対策でデッサンの順位付けをしてるみたいで、評価されるのはいつも独野さん。裏で色々毒を吐いてるみたいです。お二人とも順位はトップの方みたいですが、それ以上に目の上のたん瘤は気に食わないんでしょう。」
これまた随分とわかりやすい動機を持った人たちだ。もう犯人として名乗り上げてるようなものだ。怪しすぎる。
「木原さんは逆に、独野さんのことをかなりリスペクトしてたみたいですね。一度絵を教えてもらうのに泣きついたこともあるようです。独野さんには完全に断られたそうですけど、いつも近くで観察されていたらしいですね。作品を何個か見ましたが、もろに影響されてます。信者といってもいいんじゃないですかね。」
なるほど、逆にわかりやすいほど動機がない。私は犯人じゃないって言っているみたいな、逆に怪しくも感じる。
「とりあえず、風紀委員の調べがついてるのはここらでしょう。この中に犯人がいたとしても自白はしてないでしょうね。一応学校全体の監視カメラも見たみたいですけど特に目立つような生徒はいないらしいですし。不審者とかそういう情報もなく、みんな顔のわかる生徒と職員しか写ってないみたいです。まぁまた新しく不審な人がいたとわかったら、風紀委員の方から情報くるでしょうし。」
いつも気になってるんだが、そのリアルタイム情報ってスパイでもいるのか?
「企業秘密です!ただ少し後ろめたい方法を使ってるのは事実です!」
そこまで言うなら全部秘密にしとけよ。一でも言ったら十まで聞きたくなるんだぞ。
「いや、秘密なんですけど、カミサマの前でそこは認めないと怖いですから!」
「はは、まぁ私は正義の味方でもないから、そのくらいはいいよ。」
それはいいのだろうか。いや、先輩が認めるならそれでいいんだけど。
「ところで後輩くん。色々と新情報がでたけど、推理は進みそうかい?」
まだなんとも、やっぱり本人達に聞いてしまうのが速そうですね。情報を確定させないといけないですし。
「でも犯人候補はみんな風気委員の方ですよ、話を聞くって誰にですか?」
1人風気委員に捕まってない人がいるじゃないか、独野さんだよ。被害者本人に心当たりがないか聞くのが手っ取り早いだろう?
「でもどっか行ったんでしょう?」
心当たりがある。たぶん見つかるさ。
行ってもいいですか、先輩?
「後輩くんが言うなら行きたまえ。後輩くんに任せよう。私はここでひと眠りして休憩するかな。困ったら戻ってきな。」
ありがとうございます。じゃあ化野いくぞ。
「え!?私もですか!?」
そら1人で行くわけにはいかないだろ。
「なんですかシンシ先輩、寂しんですか?」
違う、様式美のお話だよ。
「様式美?」
「化野ちゃん、私からも頼むよ。ついていってあげてくれ。一旦後輩くんが探偵役だからね。」
そうだ、僕が探偵だ。解決屋とはいえ、事件の謎を解きに行くのは探偵だ。
探偵には助手が1人。様式美だろ?ワトソンくん。
「私の名前は化野香です!できれば香ちゃんって呼んでください!」
…………忘れないようにするよ。
「ところでシンシ先輩どこに向かうんですか?」
屋上。
「どこのですか?」
しらみつぶしに全部。
「何でですか?」
たぶん独野さんがいるから。
「ぶっちゃけ犯人誰だと思います?私はあの恨みのある2人だと思いますけど。」
動機があるから犯人とは限らないだろう。そもそも先輩も言ってたけど推理で決めつけは良くないぞ。
「そうですか…………えっと。そういえば好きな食べ物あります?」
別に質問を続けなきゃいけないルールなんてないからな?
というかその質問は会話下手にもほどがあるだろう。仮にも記者を名乗るなら、もう少し言葉を踊らせてせなよ。記事で人を踊らすんだろう?
それにほら、化野がそんな調子だと、こっちが「何か喋ってやろうか?」って気を遣っちゃうもんだ。質問がないなら僕が逆に質問しようか?
「……先輩ってカミサマいないと結構喋りますよね。というか性格もなんか違くないですか?なんか言葉が強いというか……嫌味ったらしい?」
正直だな。たしかに、化野と話す時はいつも先輩といる時だったし違和感あるか。元々こっちの方が素だよ、配慮がない人間でね。だから普段は優しくなるよう努力してるんだ。口数多いのは――探偵役に浮かれてるのかもな。先輩が任かせるのは嬉しいから、張り切ってるんだよ。
というか化野。僕なんかに興味があったんだな、眼中にないのかと思ってたよ。
「いやいや、シンシ先輩だって特選組、興味は全然ありますよ。ただ先輩ほど話題性がないだけで。」
そら先輩と比べれば常識の範囲内の人間だからね。話題性は薄いだろう。
「いやいや、仮にもカミサマの右腕のシンシ様。話題性はありますよ。何なら特集組みましょうか?」
それはやめてくれ。別に目立ちたくてはないんだ。君が面白がって煽るのは勝手だけど、僕を主役に仕立てるのは勘弁してくれ。
僕が目立っちゃったら、周りの視線が一斉に刺さってきて、ハリネズミみたいに針だらけになるのが目に見えてるだろう。そういうのは先輩の役回りだ。
「なら、個人的に少しお話聞かせて下さいよ。記事にもしないし、情報を流したりもしませんから。1人の噂話が好きな乙女のためにさらけ出してください!」
その言葉を信用するほど僕という人は良くない。
「じゃあ、今回の手伝いの報酬として少しだけでもお願いします。ちゃんと黙秘権は認めまから。」
それは当然の権利だろ。まあ先輩だって報酬はきっちり払うし、僕がケチるわけにもいかないか。いいよ、隠し事も大してないし、聞かれりゃ大体喋るよ。
「あら、急に素直。怖い!でもラッキー!」
機嫌が変わらないうちに早く聞きな。
「ではまず、なぜ解決屋をしてるんですか?。」
先輩に憧れてるからってところかな。追いつきたい、並びたい、同じようになりたいって感情はよくあることだろ。
「どんなところに憧れてんですか?」
色々あるよ。あの先輩相手なら憧れるところなんてさ、数え切れないくらいゴロゴロ転がってるし、拾いきれなくて困るくらいだろ。
君だって先輩のいいところなんていくらでも知ってるだろう?
「それはそうですけど。なら解決屋を始めた理由は?、元々カミサマ自体そ困りごとの解決はしてたらしいですけど、わざわざ解決屋なんて名前掲げて、色々と首を突っ込み始めたのはなんでなんですか?というか解決屋を始めてからシンシ先輩性格変わったみたいですし関係あるんですか?」
化野、質問は1つずつ簡潔にが社会のマナーだ。あと答えはノーコメントだ。それに、その質問は先輩が教えてくれないから僕に聞いてるだろう?
「やっぱりわかってますか。先輩は色々教えてくれるのに、そこら辺ははぐらかすんですよね。」
それはそうだろうな。でもしょうもない理由だから、知ってしまえば肩透かし食らうと思うよ。
知らないまま夢見てるってのもありだけど、期待値が高けりゃ高いほど、拍子抜けの落差がデカいんだ。君が勝手に盛り上がって勝手に落ち込むのも自由だけど、それをしない程度には僕にも優しさがあるんだよ。
「えー、それ逆に気になりますよ。というか期待値上げてませんか?」
じゃあ、ちょっとくらいは答えよう。約束だしな。
先輩は、僕に付き合ってくれてるだけだよ。なんせ優しいからね。
「付き合ってくれてる?一応聞きますけど、それはスクープの方ですか?」
残念ながら、お前が期待する方のお付き合いではないよ。いつも男女が一緒にいるからって『決めつけるのはよくない』。
さて、取材もここまでだ。思ったより早く見つかってよかった。海が良く見えるいいところだ。
どうも、独野さん。探しましたよ。捜してるのは犯人ですけど。
とりあえず先輩にも言われたし、化野にもカッコつけて自分の言葉のようにも言ったから僕はちゃんと忘れないうちに確認するよ。
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