私は月に届かない

あんのーん

第1話

私は月に届かない。あのちっぽけな、私達に月光を届けてくれている星へ手を伸ばしても、決して報われることはない。

鳥籠に囚われた小鳥が、絶対的に外には出れないように。そして、誰かの手に引かれるしか手段はないように。

私は、あなたにこんな小さい鳥籠から出してもらいたいのに。

そんな願いは、口には出せない。だから、私は嘘をつくことにした。私はただ彼女と居れるだけで安心、と。


眩いほどの陽の光が教室の模様を彩っている。私と彼女は机をくっつけ、肘をつきながら他愛もない話をしていた。

「カンナはモテそうだよね~」

彼女はその吸い込まれそうなほど綺麗な黒髪を揺らしながら、少し微笑みを浮かべそう言った。

「なにそれ」

私は困惑を体現したかのような声を上げる。

「そのままの意味だよ?」

私は純粋そうな彼女の声色に、ため息をつく。

「もしそうならもっとまともな恋愛してるよ...」

私は深刻そうな声色でそう告げる。

言い終わった後、少し暗い口調で言ってしまったと気づき、急いで彼女の返答を待つ。

「え~じゃあ好きな人とかは?何気恋バナしたことなくない?」

あなただよ。

喉まで出てきたそんな言葉は、口から出なかった。

恋バナがしない理由なんぞ、明確だろう。

好きな人に、好きな人がいないか言われるほどつらい事はない。

友人、という関係性なら尚更。

「..いないよ」

彼女との関係にピリオドを打たない為、私は今日も嘘をつく。

「なにそれ~!怪しい!」

彼女は軽く微笑みながら、瞳を私にじっと向けている。数秒経てば、興味深そうにこちらを見つめた。

そういうとこだ、そういう、情緒がわからない所が...。

「ねえ」

私は彼女を呼ぶ。

「どうしたの?」


「私達、ずっと友達だよね?」


「?もちろん」

私は、嘘をつく。

本当は友達なんて範疇を越えた事もしたいのに。


ずっと前から好きだった。

そう言えたらどれほど楽な事か。

時々、自分の度胸のなさに鬱になることがある。

けれど、こればかりはしょうがない。

そう私は私自身に嘘をつく。

彼女と共に恋人として居られる夢を、静かに心の中で描きながら。


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私は月に届かない あんのーん @darapuras

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