第3話 “厨二”のデートはワクワクドキドキ

 からつなさんが徐々に腕を緩めていって

 カノジョの顎がオレの肩から離れて


 ため息ともクツクツ笑いともつかない何かが、お互いの鼻から洩れる。


 ここでふたり、始めて間近で見つめ合って


「ちょっとエッチ?」


「いやいやかなり」


 などと会話をする。


「これでもう私たち仲良しだよね」


「うん」


「じゃあ、ここからがデートの本番!! 私ね!電車に乗って遊園地に行きたいの!」



 ◇◇◇


「ね!私にやらせて!」


 かつらなさんはオレから千円札を受け取ると券売機に挿し入れた。


 券売機が立ち上がり、購入可能な金額のランプが点く。



「で、この『大人二人』のイラストのボタンを押して……」

 とかつらなさん。


「そうそう!『梅園』までだから250円を押して」とオレが教えると


 かつらなさんは

「えいっ!」と金額ボタンを押す。


 券売機が唸り

 2枚の切符が発券された。


「出てきた~!!」


 ぴょんぴょんと喜ぶかつらなさんだが……


“忘れている事”を指摘する。


「かつらなさん! お釣り取らなきゃ! そこ!500円玉出てる!」


 かつらなさんは

「あっ!」

 と500円玉を拾い上げ、ペロッ!と舌を出す。


 そのしぐさが可愛くて……


 オレ、『萌え死む!!』



 オレの後に付いてガチャンコ!と自動改札を通ったかつらなさんは自分が自動改札機にちゃんと認識されたのが嬉しそうだった。


 オレは「自動改札をすり抜けできるんならどこにでもただで行けるじゃん」と軽口を叩いて……

「ズルはダメでしょ!」

 とかつらなさんに窘められたたしなめられたけど……


 かつらなさんは『この世界から』取り残されて、ずっとさまよっていたのだろうかと思えて来て……

 ウルッ!しかけたのを必死で堪えて「アハハハ」とバカ笑いで返した。


 かつらなさんは電車を待っている間も、電車がホームに滑り込んで乗り込む時も、電車の中で立って車窓を眺めたり、オレとで並んで座った時もニコニコが止まらなくて……もう、“遊園地のアトラクション”を楽しんでいるかの様だった。


 だから『街なかの遊園地 プラムガーデン』に入園してからはテンション爆上がりで……


 さっそくオレの袖を引いてローラーコースターへ向かった。


「オレ!“絶叫系” ニガテなんだよなあ~」と腰が引けると


「こんなちっちゃなコースター! 怖くない怖くない」と最前列へ押し込められた。



 ウィンチでのてっぺんに引き上げられて……そこから加速度を付けて下り始めると、コースターは遊園地の内外に立っている建物の壁からスレスレのところをいくつもいくつも走り抜けてゆく。

 それが怖い!!


 けれども最後のトンネル?の出口前に…おっさんの人形が“マンガ”みたいに天井に張り付いていて笑えた。



 出口のモニターに“今のクライマックスショット”が映し出されていたが、大抵の人が笑っていて……“厨二”的にも好感が持てた。


 かつらなさんから買ったオレたちの写真も笑顔で……


「二人ともお揃で笑顔!良かったね」とかつらなさんもご機嫌だった。


 降り注ぐ夏の日差しは強くて、かつらなさんには辛そうだったので、『お化け屋敷』を発見したオレはカノジョの手首を掴んだ。


「かつらなさん! 次はあそこへ行こう!! 直射日光から少しの間、逃げられるよ」


「えっ?! えっ?!」と戸惑うかつらなさんを半ば強引に『お化け屋敷』へ引っ張り込んだが……


 かつらなさんはお化け屋敷の中で叫びっぱなしで……出て来た時には涙でグシャグシャだった……


「悠生のバカッ!! すっごく意地悪!!」


 オレには予想もしない展開だったがとにかく謝った。


「ホントごめん! まさか かつらなさんがお化け屋敷が苦手だとは思わなかったんだ! ほら、暗闇とか色々慣れてるでしょ!」


「悠生の無神経!! あんな化け物、見た事あるわけないでしょ!!! それに……あんなのと私、同類にされた!!」

 とホンキでバシバシ叩かれた。


 けれど、こんな風にかつらなさんを泣かせた事が……叩かれた背中の痛みなんか比べ様もないくらいにオレの心に深く突き刺さった。


 カノジョを傷付けてしまって……謝る言葉が見つからない。


 オレはすっかりしまったのだけど……


「リベンジしてやる!!」

 と今度はかつらなさんがオレの手首を掴み引っ張って行った先は……『スペースショット』だった!!


 この『スペースショット』……足元には何もない吹き抜けのシートに座らされて安全バーで固定される。


 高所恐怖症のオレにとっては刑の執行前の拘束された罪人のような心境!!


 物凄い勢いで一気に打ち上げられ空中に投げ出されて、落ちていく時には途中でバウンドするという“余計なお世話”までくっ付いていて……

 ようやく拘束を解かれたオレは逃げるようにシートから降りたが足元がおぼつかない。


 そんなオレとは真逆のかつらなさんは、今回は歓喜の叫びを上げっぱなしで……


「あー!!楽しかった!! もう一回乗る?」

 とオレを悪戯っぽく覗き込んだ。


 何と言われても二度と御免だ!!



「私を泣かせた罪はこんなもんじゃまだまだ消えないよ。 何か私を喜ばせて!」

 そう笑いながらキャップを被り直したかつらなさんの長い髪は『スペースショット』で煽られてグシャなままだ。


「あれっ?! いつもは一瞬でサラサラになるのに……“生身”に近づいたのかしら……」

 と髪を手櫛で直そうとするかつらなさんに……


「じゃあ、おやつでも買ってあげるよ」と声掛けしておみやげ屋に入ると……



 麻の葉模様の可愛いケース付きの、トンボと山査子さんざし彩色が施されたつげ櫛が目に留まった。


 椿油をしっかりと染み込ませてあって梳かすたびに髪に潤いを与えるらしい。


「これだ!!」


 と商品を取り、さっそくレジへ向かう!!



「もう!! 逃げられたのかと思った!!」


 こんな言葉と共に、おみやげ屋に入って来て……ちょっと頬を膨らませているかつらなさんの手に今買ったばかりのつげ櫛の包みをのせてあげる。


「これ、プレゼント!」


「えっ! 何?」

 と包みを開けるかつらなさんに


「ほら! 乱れ髪を整えるのにちょうどいいかなって思って」

 と返事を返すと……


 中身を見たかつらなさんから

「ありがとう!!」と抱き付かれた。


「やっぱり悠生はワルイヤツだ!! 女の子を泣かせる!!」との言葉付きで……



 ◇◇◇


 園内のフードコートは酒類の提供もしていて


「なんだかビアガーデンみたいだね」ってかつらなさんは言ってる。


 行った事あるのかなあ……


 かつらなさん……オレと同い年か少し上くらいの見た目だけど……生きている時はいくつだったんだろう?聞いても、昨日の様に言い返されて教えてはくれないだろうし……


「私達は未成年だし、コーラーかウーロン茶でカンパイだね!」


 そう言って来るかつらなさんの言葉をそのまま受け止める事にした。


「そうだね! 何か食べる?」


「私、焼きそば!」


「じゃあ、オレはたこ焼き! シェアする?」


「するする!!」


 他にもスイーツ系フレーバーのポップコーンやミックスピザなど買い足して……テーブルを挟んで向かい合って座り“酒なし”お二人様宴会だ!


「お肉が殆ど入ってなくてキャベツとソースの芳しさで食べる焼きそばって屋台の味だよね!! おいし~!!」


 そう言いながらモグモグと焼きそばを頬張るかつらなさんは“萌え少女”以外の何者でも無かった。



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