“厨二”と宙に舞う少女の物語

縞間かおる

第1話 “厨二”の夜は風に吹かれて

 プシュ~!!ブオーッ!! カ・カ・カ・カ


 何かの映像で見た蒸気機関車の様な音を立ててエアコンが止まった。


「えっ?!」


 椅子ごとズリズリ動いて枕元に投げていたリモコンを掴み、エアコンに向けて色々操作してみたけど無反応……


 と、ドアの外から階段をトタトタ上がってくる足音が!!


 どう聞いてもあの足音は真鈴まりん!!


 やべえ!!

 今、部屋に踏み込まれたらエアコン壊しの濡れ衣を着せられる!!


 幸い足音は階段の途中で止まったようだ。


『お兄ちゃん~! 寝てんの?!! いい加減お風呂入んなよ!』


 オレ、発語に注意しながらいつもの無愛想な口ぶりでドアの外へ応える。

「起きてる~ 今、入る」


 取り合えず窓の鍵を開け、網戸にして下へ降りて行くと妹の真鈴は“うっとおしい子ザル”みたいに毛づくろいしながら待ち構えていた。


「上がるときはタブのお水抜いて、中をちゃんとシャワーで洗っておいてよ!!」


「ん、ああ……」


「『ん、ああ』じゃないんだからね!! お風呂掃除もしないくせに!!」


「―ぅわったよ~」と乱雑に言い置いてオレは“子ザル”を跨ぎ風呂場へ向かう


「ああ!! また私をモノ扱いした!!!」とキャン吠えする妹を振り返りもせずに……



 ◇◇◇


 風呂から上がって2階の部屋に戻る途中で、エアコンが止まってしまった事を思い出した。


 しまった! 出る時、水でも浴びるんだったと部屋のドアを開けると……


 どこかの風鈴を鳴らした風がそよそよと入って来た。


 えっ??


 誰か居る???


 最初、チラッと団扇が見えて


 それから風にそよそよする浴衣の襟足が……



「オトコの子って意外と長風呂なのね」


 わりと落ち着いた感じの声なのに振り向いたその人……そのコは……多分、オレと同じか……少し上くらいだ。 けど……


「えっ?えっ? あの? どういう……??!!」


 人って面白い!!心の中より、口から溢れ出る言葉の方がまるで演技でもしているかの様にうろたえている。


「ふ~ん……」


 カノジョは……そんなオレの心の中まで透かして見えてでもいる様にオレを斜に眺めてから団扇で『おいでおいで』した。


 後から思い返すと笑ってしまうのだが……

 オレは忠犬“なんたら”みたいにカノジョの傍らにペタン!と座った。


 カノジョはゆっくりと団扇を仰いでオレに風を送ってくれる。


「湯あみした後のキミはいつも暑そうだね」


「どうして……??」


 オレの問い掛けにカノジョは小首を傾げる。


「どうして…… 知ってるかって事?」


「う、うん!」


「それはね、ここのところずっとキミを見ていたからだよ」


「見ていたって!! いったいどこから??」


「決まってるじゃない! 窓の外だよ。 ホント、キミはひどいヤツだよ 私が居るのに全然気付いてくれないんだもん!」


「だって!! ここ二階だよ! 窓の外って!! あり得ないから気付かないよ!!」


「いやいや普通にあり得てるから。キミが、あんまり気付いてくれないから……ちょっと悪戯してエアコンを止めたのよ。そしたらようやく窓を開けてくれて……こうしてお邪魔できたわけ」


「ひょっとして窓から?」


「ひょっとしなくたって窓からだよ」


「二階の?」


「そう! そこの窓から」


「一体どうやって?? ハシゴか何か??」


「そんなもの使わないわよ。身一つ」


「二階なのに??」


「うん、ああ! 私、幽霊だから……こういう時は重力の影響を受けずに済むのよ」


 そう言ってカノジョはほんのり微笑んだ。






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