第46話 一緒に行くわ

「わたくしも一緒に行くわ」


 そう言って馬車に乗り込んできたイリスを見て、ファルコの部下が目を丸くする。

 瓦礫撤去のためにメーロを迎えにきた彼に対し、イリスが同行することを強く主張したのだ。


「……ですが……」

「お兄様は、わたくしにくるな、とは命じていないはずよ。そうでしょう?」

「……それは、まあ……そうなんですが」


 男に困った顔で見つめられ、メーロはすぐに目を逸らした。すると諦めたのか、男が深い溜息を吐く。


「分かりました。では、出発します。本日の任務は瓦礫の撤去及び遺体の回収です。一般の方が現場に近づけないよう規制はしていますが、すぐ近くで待機しているでしょう」


 馬車が走り出し、男が状況説明を始める。

 想像するだけで気分が悪くなるような状況だ。でも、昨日とは違う。今日は、イリスが隣にいてくれる。


 イリス様のスキルは、正直、瓦礫の撤去には全然向かない。

 なのにイリス様は、私と一緒にきてくれるんだ。


 イリスの肩にそっと頭をのせる。目が合うと、イリスは優しく笑ってくれた。


 ……キス、したいかも。さすがに、他人がいる状況ではしないけど。


 一度温もりを覚えてしまったら、恋しくて仕方がなくなるらしい。メーロはそっと手を伸ばして、イリスの手を強く握った。





「……これは、酷い状況ね」


 馬車を下りたイリスは、周囲を見渡して苦しそうに呟いた。ほとんどの家屋が倒壊して、ガラスの破片があちこちに散らばっている。

 壊れた家財は、そこに住んでいた人々の生活を生々しく物語っている気がした。


 深呼吸をして、メーロも周囲を確認する。少し離れたところに軍人が複数立っていて、一般人の立ち入りを禁止しているようだった。

 限界まで現場に近づいている人達は、きっとここに住んでいた人達なのだろう。


「メーロ殿」

「……はい」

「いろいろありますが、まずは、その……遺体を、一か所に集めてもらうことはできますか。彼らは基本的に、家族の遺体を探しにきているんです」


 もちろん、能力的には可能だ。気が進まない、という理由で断ることはできない。


 だけど……きっとみんな、もしかしたらって、そう思って待ってるんだよね。


 もう、生きている人は瓦礫の下にはいない。昨日、何度も説明した。だがそれでも、遺体を見るまでは信じない、信じたくない、という人は多いはずだ。

 今から、そんな彼らに現実を見せる。見たくないであろう現実を。


「……メーロ」


 イリスが、そっとメーロの手を握った。


「大丈夫。わたくしがいるわ。メーロが今からするのは、とても優しい仕事よ。貴女のおかげで、死者は家族と同じお墓に入れるんだもの」

「イリス様……」

「そしてそれは、生きている人の心も救うことよ」


 頷いて、目を閉じる。ここにきた時から、やるべきことは決まっているのだ。躊躇っている時間がもったいない。


 これは、誰かがしなきゃいけない仕事。誰かが、望んでいる仕事。

 そして、私ができること。


 私には、イリス様がいる。だから、大丈夫だ。





 夕方までかかって、なんとか諸々の作業が終わった。途中で休憩を挟んだものの、スキルを使い続けたせいでくたくただ。

 イリスもスキルこそ使わなかったが、走り回って、王女とは思えないほど働いていた。


 馬車に乗り込んで、宮殿への帰路を進む。眠くなってきて、メーロは大あくびをした。


「寝ていいわよ。帰ったら、起こしてあげるから」

「……はい」


 イリスの言葉に甘え、目を閉じて睡魔に身をゆだねる。

 一秒も数え終わらないうちに、メーロは眠りについていた。





「今日もありがとうございました。これでもう、メーロ殿には被災地へ行っていただく必要はありません」


 馬車を下りると、ファルコの部下に深々と頭を下げられる。明日からはもうあそこへ行かなくていいのかと思うとホッとした。


「……それと、一つご報告というか、お知らせというか……」

「なんでしょう?」

「今回の地震で孤児になってしまった者が今、一時的に王都の教会で保護されています。メーロ殿に感謝を伝えたい、と言っている子も多いんですよ。よかったら、会いに行ってみてください」


 それだけ言うと、男は馬車に乗って去っていった。馬車が見えなくなってから、教会ね……とイリスが呟く。


 一時的、と言っていたから、おそらくこれから孤児たちの行き先が決まるのだろう。


「どうする? メーロが行くなら、わたくしも同行するわ」


 私に助けられた孤児……っていうことは、私が家族を助けてあげられなかった子達、ってことだよね。


 会いに行かなければ、これでもう終わりだ。でも会ってしまったら、またいろんなことを考えさせられるだろう。


「……行きたいです」


 なのにメーロは、そう口にしていた。自分でも、上手く理由は説明できない。


「分かったわ。一緒に行きましょう、メーロ」


 微笑んで、イリスはメーロの頭をそっと撫でてくれた。

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