第35話 ファルコのスキル

「分かった」


 元々、メーロの答えなど知っていたのだろう。ファルコは満足そうに頷くと、近くに落ちていた石を左手で拾った。

 小さいが、硬そうな石である。しかしファルコが手のひらに力を込めると、呆気なく石は破壊されてしまう。


「俺の固有スキルは、身体強化だ」

「……身体強化、ですか?」

「ああ」

「その、脚力強化とか、跳躍力強化とか、握力強化ではなく……?」

「ああ。俺の固有スキルは、あらゆる身体能力を強化することができる」


 あらゆる身体能力の強化、って……。

 この人のスキル、当たり過ぎない!?


 脚力強化、跳躍力強化など、身体能力の一部を強化する能力を持つ者は稀に存在する。

 しかし全ての身体能力を強化できるスキルなんて、見たことも聞いたこともない。


「軍人にはぴったりのスキルだろう?」

「……はい。それはもう、ぴったりすぎるというか……」


 どれだけ身体能力が優れていようと、スキル攻撃をくらってしまえば簡単にダメージを受ける。

 だが、スキルによって身体能力を強化した場合は別だ。


 ファルコ様って、最強なんじゃない……!?


「だろう。俺もこのスキルは気に入っている。だが、お前のようにサポート向きのスキルじゃない」


 そう言うと、ファルコは火事の話を始めた。メーロがスキルによって多くの住民を救助した件である。


「俺があの場にいても、一気に全員を助けることはできなかっただろう。だがお前は違う。戦いにも応用は効くが、それ以上にお前のスキルは救助向きだ」

「……私のスキルが、救助向き……」


 今まで、自分のスキルが何に向いているかを深く考えたことはなかった。けれど、言われてみればそうかもしれない。


「ああ。だからお前にはそのスキルを使って、人助けをしてもらいたいと思っている。それなら、イリスのやりたいこととも重なるだろう」


 そう言うと、ファルコはメーロから目を逸らしてしまった。身長差のせいで、彼がどんな顔をしているのかは分からない。

 けれどきっと、優しい顔をしているのだろう。


 ファルコ様にとって、イリス様は誰よりも大切な家族ではない。

 だけど、ファルコ様なりに、イリス様のことを考えてくれてるんだ……。


 胸の奥がじんわりと熱くなる。宮殿の中にもこうしてイリスのことを考えてくれる人がいるというだけで、なんだか幸せな気持ちになれるのだ。


「はい! イリス様と一緒に、人助けをします!」

「頼むぞ」

「はい!」


 ファルコは微笑むと、地面にある小石を指差した。


「近くにある小石を全部、お前のスキルで一ヶ所に集めてくれ」

「……へ?」


 メーロのスキルを使えば、特定のものを一ヶ所に集めることができる。今までも、魔物や人をスキルを使って一か所に集めてきた。

 しかし。


「……小石って、あまりにも膨大な数の気がするんですけど……」


 ファルコの言う『近く』がどれほどの範囲を指すのかは分からないが、見渡す限り荒れ地が広がっている。地面には無数の小石が転がっているのだ。


「とにかくやれ。メーロ。スキルの特訓において、一番大事なことがなんだか知っているか?」

「……し、知りません……」

「限界までスキルを使いまくることだ」


 自信満々にファルコはそう宣言した。


「俺はスキルが発動してから、四六時中スキルを使っていた。身体強化、なんていう使いやすいスキルだったからな」

「四六時中……!?」


 メーロの場合、スキルの発動にはかなりのエネルギーを必要とする。全ての人間がそうとは限らないが、体力を消耗する者は多いし、なんらかの回数制限がある者もいる。

 身体強化、などという強いスキルであれば、その分必要とするエネルギーも多い……と考えるのが普通だ。


 それを四六時中って……ファルコ様、いったいどうなってるの!?


「お前にやってもらう訓練は大きく分けて二つだ」


 ファルコは右手の指を二本立てた。太い指だな……なんてどうでもいいことを考えてしまうのは、間違いなく現実逃避である。


「一つは、スキルをひたすら使い続ける訓練。もう一つは、限界まで食べ続ける訓練。休憩時間はないと思え」

「……わ、分かりました……!」


 今さらどうしようもない。どうしようもないのだが、メーロが泣きたくなってしまうのもまた、どうしようもないことであった。





「起きろ!」


 顔に冷水を浴びせられ、メーロは重たい瞼をなんとか持ち上げた。汗と水でぐちゃぐちゃになった顔を、手の甲で拭う。

 起き上がると、ファルコからパンを渡された。


「食え」


 バターも塗っていない冷めたパンだ。しかも同じ物を、もう30個は食べている。


 スキルを使ったせいでお腹は空いてるけど、これはもう食べたくないし、食べ過ぎてなんか気持ち悪い……!


 食べ過ぎて気持ち悪い、なんて思ったのは初めてだ。


「さっさと食え。食わないとスキルが使えないだろう。そして立て」

「……は、はい……」


 パンを受け取り、口の中に突っ込む。吐き気を抑えながら完食すると、次のパンを渡された。もちろん、同じパンである。


 エネルギー不足で倒れるまでスキルを使い、倒れた後は冷水をかけられ、胃袋が破裂しそうなほど大量に食べさせられる。

 もう限界だ。これ以上スキルを使いたくないし、もう食べたくない。今すぐ柔らかいベッドで寝たい。


「早くしろ! 休憩するな!」


 ファルコの大声を聞きながら、メーロは何度も心の中で溜息を吐いた。


 身体能力の強化スキルってことは、声帯も強化されてるのかな……ファルコ様の声、うるさすぎるんだけど……。


 聞いてみたいが、聞けるはずもない。

 メーロは失礼な質問を飲み込み、次々と差し出されるパンを食べ続けた。

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