エインヘリヤルの召喚術士

ジュエル

第零章★領主の記憶

◆プロローグ-現在


「ソータ! どこにいるの!?」黒い大理石の床に騒がしい靴音を鳴らしながら、室内に入ってくる金髪の女性。


 室内は、がらんとしている。掃除の行き届いた窓ガラスからは月明りが差しているが、それにしては少し明るすぎる気もする……。

 だが、それは彼女にとっては当然のことで、室内に光る魔法の源であるマナが視認出来る。そのお陰で明るく見えるのだ。



 ――高台。


「まったく……勘弁してほしいよな」黒い部分鎧に身を包み、黒く光る禍々しい篭手を装着している男は自分の手元に届いていた手紙を見ながら、そう呟いた。


 現在、彼は夜空の下でヴェシアナと呼ばれるこの土地を一望出来る高台へと来ていたのだが、二時間ほど前に城の食堂で夕食を食べていた時に手紙が届いた。

 明日の予定とは関係のない話になれば良いのだが……。


 ここヴェシアナ領は、陛下から賜った大切な領地。寂れていたこの土地は、彼の人類初の試みによって人口が増え続けている。……だが、今のヴェシアナはそれだけに留まらない。

 草原と森林とボロボロの民家が数件。そして立派だが古い城があっただけの土地だが、この男、ソータによって領地は大きな発展を遂げていた。国に払う税も十分に賄えている。

 それどころか、高額納税をする一大領地として知られ始めている。


「あの……ソータさん、そろそろ戻りませんか? またクレリアさんに怒られますよ」片目が赤く燃え上がるように光る、青髪の絶世の美女が彼の傍へ行き、そう告げる。


「心配するな、ローナ。あいつなら……もう怒っているだろう」少し困ったような、あるいは呆れたような表情を浮かべたソータはそう言うと、ローナと呼ばれた青髪の美女を抱き寄せ、優しく口付けをする。




 ――ヴェシアナ城――食堂。


 ソータとローナが食堂に入ってくると、使用人たちは一斉に頭を下げる。


「……楽にしていろ」ソータは使用人たちにそう告げると、そのまま食堂の奥にある中央のイスへ近付く。


 そんなソータとローナ二人の様子に溜め息をついて、呆れたような表情を浮かべる金髪の女性クレリア。その隣には茶髪の女性が黙って座っており、自身の持つ大きな戦鎚を黙々と磨いている。


 食堂は広く、ソータ、ローナ、金髪の女性クレリア、茶髪の女性ロッサ、そして使用人たち……それ以外にも人はおり、白髪の男性エルディアはソータが座るイスの隣へ座り、腕を組んで黙っている。


 そんな中、口火を切ったのは金髪の女性クレリアだった。

「分かってんの? ソータ! 明日は――」クレリアがそこまで話した所で、白髪の男性エルディアはそれを手で制した。


「落ち着けクレリア。こいつは明日のこの領地を挙げた収穫よりも自分の女が大事なんだろうよ!」


「悪かったよ……」頭をポリポリとかくソータ。そう言うソータに追い打ちをかけるように話始めたのは、ロッサと同じく会話に参加していなかった金髪の男性ゼルゲルだ。


「大体、ソータ・マキシは協力してやってる俺たちに感謝が足りてねえんだ! 感謝が!!」


「いや、感謝はしている!」そう言って弁解するソータ。



 本当だ……





 本当に感謝しているんだ……






 肩を並べる仲間……友と呼べる存在の有難みを、俺は身に染みて実感しているんだ……。


 何せ昔の俺は……





 前世の俺は…………



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