子供が死にます。でも愛してます。
金貨珠玉
あ、あ、あ、あ
「ママは死ねば良い」
言葉にした瞬間から、目の前の顔が歪む。
暗闇の中、白いカーディガンが揺れて、こちらに手が伸びてくる。
手は荒れている。
汚い。触らないで欲しいと思ってぼうようと眺めていたら、首を掴まれた。
苦しさはない。
ただ、首を捻られている子供が可哀想だと感じた。
横で眺めていると、二人の関係性も見えてくる。
激しく暴れる子供、静かにだが強く腕に力を込める母親。
「愛の鞭か、これが? 狂愛だろ?」
母親がぐるん、と顔をこちらに向ける。
ニタリ、と笑った。
子供と心中できれば、それでいいのか。
エレベーターで上から押しつぶせば。この二人を殺すトリックが成立する。
自分は上から二つ分の命をひとまとめにして、肉団子にした。
これなら、運びやすいし親子一緒だ。
愛してるならば、肉塊になっても一緒がいいだろう。
ナイフで何かダイイングメッセージでも書いておくか、そう思った時、気づいた。
しまった。
私も人を殺してしまった。
殺すつもりはなかった。
ただ、やってみたかっただけなんだ。
顔を上げると、2、3人の人間が周りにいる。
見られた。絶望だ。
しかし、こちらにはまだ気づいていないようだ。
どうするべきか。
そのうちの一人を眺めていると、目が合い興味なさげに離れていった。
? 他の面々もそうだ。
見ていれば私と目が合うのに、すぐに離れて行く。
肉団子の感触を味わいながら、見えていないのならば好都合と思うより、誰からも無視される不安感の方が大きかった。
私は立ち上がり、手を振り周りの人にニコニコ挨拶をして回ることにした。
ナイフはもういらないだろう。置いておいた。
大抵の人は無視するのに、掃除のおばさんぽい人は、私と同じくニコニコ顔で着いてきてくれた。
最初は嬉しかったが、だんだん鬱陶しくなってくる。
どこに行ってもニコニコ着いてくるのだから。
私は目立ちたくないのだ。
ひっそりと生きていたい。
だから、これも肉団子にしようとした。
腕を引っ張って拘束して、足とたたんで丸めればすぐにーー
おばあちゃんだ。
おばあちゃんにまた会えたんだ。
あぁ、自分はこんなに変わってしまったのに、孫だと気づいてくれたのか。
狂愛は執着だ。でも、それでいい。
膝枕をしてもらうと、ゴミの臭いが香った。
ずっと掃除してたんだね。
「おばあちゃん……行かないで」
「ここにいるよ」
ごめんね。
好きな人に、大好きな人に殺されるなら本望だと思ってたけど、殺す方はとてもとても辛いね。
おばあちゃん不幸だね。
お母さんにも、悪いことしたね。
「産まれてごめん」
「いいんだよ」
あぁ、何か、臭い。
目がシパシパする。
身体が弛緩して麻痺してくる。
『私達も、後から逝くからね』
あ、あ、あ、あ
り、い、そ、し
が、し、ぼ、た
と、て、う、ま
う、る、ね、た
子供が死にます。でも愛してます。 金貨珠玉 @pearl4129
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