第2話

俺が欲しかったのは『ひな』だけ。


それ以外はどうでもいいと思っていた。


なのに、



「あぁ、さくらに着物も作ってやらないとな」


「そんな!文左衛門様に仕立てていただいたのもありますからっ」


「気に入らねぇ」


「はい?」


「あいつに爺ぃ面させるのが気に入らねぇ」


「・・・・・・」



目の前で呆れるひながいる。


自分でもこんな気分を味わうなんて思ってもみなかった。


患者でなければ、ガキなんて全くと言っていいほど興味は無い。


それは今でも変わらないが、



「明日にでも呉服屋を呼ぶか」


「呼ぶだなんて、本当に」


「あぁ、そうだよな。店に行ったほうがいいものが見つかるか」


「ヒロ様!」



困ったように俺の名を呼ぶ声。


彼女だけが俺をそう呼ぶ。


それがなぜか心地いい。


彼女だけだったはずなのに、


『とうしゃま』と呼ぶさくらの声も、洸樹の泣き声も、


俺の中で『特別』に位置する。



「あ、そう言えばヒロ様、来月は――」



こうして将来の事を気軽に話せるときがくるなんて、


あの頃のおまえには想像も出来なかっただろう?


ひな。

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