第9話 交渉人《ネゴシエーター》
海辺洞窟群の入浴施設。
その脱衣場兼カフェ。
そこに集まるのは、四人の見た目美少女だ。
だって宇宙人の二人は年齢不詳だし。
ともかくここに集まるのは、今まさに争っている勢力の幹部達と謎の第三勢力。
「何が「……と言うわけ」なのかは分からないけど!私に任せてよ!」
海高のセーラー服に着替えたシズカさん。
キモノは何か洗ったらパリッとしてしまったので、ローニン感が出なくて嫌とのことだ。
「誰もまだ何も言ってないよ?」
サイズの合っていないセーラー服をシズカが着るとどうなるか。
シズカのボケに丁寧に突っ込みながら、山田はシズカから目が離せない。お胸周りとか、絶対領域周りとか。
「相変わらずシズカさんは荒ぶってるな~」
荒ぶるというか、空回り気味のシズカに色ボケの山田。
何もかも懐かしい。
そしてスコップは困っていた。
シズカには良い考えがあって、よく分かっていないくせに解決できると思っているのだ。
困るしかない。
「ねえ、ホント。介入とか、そういうのやめよう?後三人倒されたら終わるから、ね?もう僕がオチになるって覚悟できてるんだからさ!」
残るのはクワガタムシとカブトムシと、スコップ自身。
なんてメンツだよ。
「スコップ。私、なんかイヤなんだ!あなた達怪異組と山田達の虚弱組、間に入って話をしないとこのまま無意味に殺し合いが続くだけ……そもそも今、何がどうなってるの?」
「そういや、私も知らないわよ。きっかけは何だったの?あと、私強いんだけど」
レジスタンストップのキル数を誇る山田。
戦いの理由はどうでもよく、シズカロスの青春フラストレーションを怪人達に叩きつけていただけなのだ。
「山田も知らないの?」
「うん、スイレンちゃんは?最初から参加してたし」
「えっと……」
山田に詰め寄られたスイレンは、何故かスコップを見る。
「ぼ、僕だけが悪いんじゃないからね……!」
山田とスイレンは自動販売機でドリンクを買ってきた。語り部はスコップのようだ。
「始まりは、何でもないことだったんだよ……」
「私、
シズカさんは辛くて痛い炭酸水が苦手。
ベロを出す仕草も可愛く、山田がもだえる。
「シズカ……かわいい♥」
「うるさいよ色ボケシスターズ」
二年前、シズカが失踪した翌週から騒ぎは始まった。
シズカを恐れ、活動を自粛していた怪異達がシズカ不在に気が付くと、暴れ始めたのだ。
「もう何号窟の奴だったかも忘れたけど、そいつが近所の海水を「服だけ溶かす水」に変えたんだ。海を見たかい?あの赤い海がそうだ。今でも元に戻っていない」
「馬鹿なの?」
「それでちょっと事故が起こった」
ま、起こるだろうな。シズカは思った。
起こらなきゃ、今すぐこの世界を破壊しても良い。
「調査に来ていた僕も、そんな水になっているとは知らずに波をかぶっちゃって……」
スコップズルい。シズカは思った。
全裸イベントが不可抗力で回想シーンだなんて、どんな風にも美化できるじゃないか。
「困ってたら突然、
すげぇなあいつ!シズカは思った。
後で事件現場に過去再生魔法をかけることに決めた。
「先輩、ごめんなさい。実はソレ、私のせいなの……」
「何だって!?」
突然カミングアウトしたのは
スコップは驚いた。だって、
スイレンの独白は続く。
「あの日、佐久間と私は海岸を歩いていたの……」
「何か調べに?」
「ええ。海沿いの道から見られないような岩影の、良いところを二人で探してたの」
「何のために?」
「そりゃナニのために。そしたら全裸でスタンバイしていた佐久間が、岩に足を取られて躓いて、ちょうど私に覆い被さってきたから……ほら、つい対空技を」
そりゃカップルになるように皆で煽ったけどさ。
とんだモンスター達を産み出してしまったようだと、三人は慄いた。
「岩の向こうに消えた筈の佐久間が、先輩の悲鳴とともにもう一度、今度は空高く打ち上がったのを見て、何が起きたかはすぐ理解したわ」
地球人のスイレンの対空技はともかく、生身で宇宙を渡ることもできるスコップの全力対空技を食らって生きていける地球人などいない。
佐久間は死んだのだ。
「私は
「事故だ!」
まあ、ナントカ星人には違いないね。
「そっか、佐久間死んじゃったんだ」
「え?シズカ泣いてるの?」
あまりにもシズカの声に力がなかったものだから、隣の山田が顔を見ると、ポロポロと涙を流すシズカ。
「おかしい?友達が死んじゃったら、悲しむでしょう?」
「あ……。そうだよね」
三人は自分達がもう泣けなくなっていることに今更ながら気が付いた。
そして、シズカの心もまだ回復していないことにスコップは気付く。
「子鉄……!」
少しして、落ち着いたシズカが愛刀の名を呼ぶと。
洞窟の外に捨ててきたはずの魔剣がシズカの手の中に現れた。
「そのナントカ星人は俺が倒す……!」
シズカの金色の瞳が金色に輝く。
『人造魔剣子鉄』はその契約者と深くリンクすることで全ての能力を使用することができるようになる。契約者の瞳は金色に輝き、闘いに対する忌避感は消え去り、全てを切り裂く超パワーとほんの少しの俺様状態が付与されるのだ。
「だから、アレは事故で!」
「あ、そうか。スコップを殺すことになるのか……。悪に堕ちた友と全力で殺し合う……!良いじゃねぇか!」
「ぼぼぼ僕も被害者!」
「悪人はいつもそう言う……」
シズカはスコップに向き合い、子鉄を上段に構えた。
「シズカ!ダメだよ」
「剣に操られているね……?だったら僕にも勝機はある!」
スコップも覚悟を決めたのか、隠し持っていた拳銃で応戦の構えだ。
「スコップ、ズルいぞ!」
魔剣を持ち出して親友を襲おうとした邪猫が何を言い出すのか。
「因みにトリガーは精神感応式だからね。君が動いた瞬間に、BANだ」
「……山田ぁ」
動いたら駄目と言われたら、余計に気にしちゃう。シズカはプルプルし出して、山田に助けを求める。
「知らないわよ」
「安心しなよ。死にはしないから……」
拳銃に込められているのは噂の対シズカ毒らしい。
「あ、私アレやったこと無い。首筋に刺すんでしょ?プスッて」
スイレンは握った何かをプスッっとする仕草をした。
「スイレンちゃん……」
山田が非難の視線でスイレンを睨む。
しかし腕はスイレンと同じ動き。本能で楽しそうだと思っているのだ。
動作を反復する2人にシズカは思わず抗議した。
「いやアレ、スッゴく痛いんだからね。と言うか……」
シズカは思い出した。
宇宙最強のはずの自分だが、なぜかスコップには勝てていないことに。
「私、対スコップ戦は黒星先行なんだよね」
しかしお互い構えは解かない。
拳銃と剣。
もう勝負は見えている。だがシズカも勝負を諦めていない。
「シズカってスコップ先輩と仲悪いの?」
「逆。仲良すぎて喧嘩するのよ。猫とネズミみたいに」
「そうなんだ……」
自分よりスコップとの方が仲良しに見える。山田は少し嫉妬した。
ほんの一瞬だったのかもしれないし、数時間経ったのかもしれない。
シズカは何万通りものシミュレーションを行った。
しかしこの状態から勝ちを拾うことは不可能だという結論しか出てこない。
かくなる上は……
「今回は私の負けを認める。でも一つ言わせて欲しい。佐久間の案件がなかったら、コレ言ってお終いだったやつ。良い?」
「待て」が得意なスコップは、ロクでもない予感を感じつつ、首を縦に振る。
ここまで待った。
何が来ても今更だ。
「では……。で、でもこれは、流石の
ズドン。
「ニャッ!」
来ることは分かっていても、生身で弾丸よりも速く動く事が出来るはずもなく。
音速を超える質量体をもろに食らったシズカは脱衣所の壁まで吹き飛ばされた。
「容赦ない……」
「シズカ……」
こういうのも自業自得というのか。
地球人2人は撃たれたシズカを助けにいく気を失っていたのだが。
「あ、あははは……」
親友に容赦なく発砲したスコップが笑っていた。
普段は焦っているイメージしかないスコップが、ピクリとも動かないシズカを見て、以外と可愛い声で大笑いしている。
「なんだよそれシズカさん。ちょっと面白いじゃないか!あははは……」
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