第7話 地底溶岩湖の戦い

 筋肉小学生アツシが目を覚ましたのは病院のベッドだった。

「ここはどこ?」

 改造町人にはなっていたが、素体としての彼は至極まともな小学生であったため、一部の者が憧れるセリフを口にするチャンスをいともたやすく棒に振ったのだが、知らないのだからどうしようもない。

「気が付いた?先生を呼んでくるわね」

 ちょうど居合わせたミニスカお色気ナースが部屋を出ていく。

 エッチだなとアツシは思ったが、すぐに考えが霧散してしまう。

 丸ごと再生された頭部がきちんと機能しだすにはもう少し時間がかかるだろう。

 だから、お医者様のやって来る気配が全くなくても、アツシは気にならなかった。


『Mから連絡。アツシの意識が戻ったそうだ』

「そう、良かった」

「うぇ……アレから戻るんだね……凄いのは凄いけど」

 ヤオハチから連絡をもらい、急遽海辺高校に駆け付けたゆうきとスイレンだったが、そこで見たものはR18すら生温い、アツシの惨状だった。

 遺体を処理しようと近づいた時に、わずかに傷跡が修復されていっているのに気が付いたのだ。

 それに、いつも高校に近づくと襲い掛かってくる、カラス型の怪異や犬型の怪異が襲ってこない。見たくもない間宮教諭の磔姿。それらの妨害もなく、すんなりと校舎の裏までたどり着くことができたのだ。

「誰かが敵を無力化していってる?」

「シズカ……」

「ま、三井先輩の報告では、アツシをこんなにしたのはシズカさんらしいし。障害をすべて潰していくってあの人らしいと言えばあの人らしいし……」

「シズカ……」

 あんなに冷たく接したのに、シズカは元の未来へ戻る前に自分の敵を処分していってくれている。

 自分への愛が、シズカを戦う猫姉さんにしてしまったのだろうか。

 ゆうきはキュンとなった。

「アツシの再生も、シズカさんの仕業、いや「おかげ」なんだろうね。もはや何でもありだな、あの姉さん」


 そして今、二人は謎の五重塔の五階まで来ていた。

「この手紙、ボスのメッセージだよね」

 各階には雑魚敵しか残っておらず、レジスタンス最強の戦士であるゆうきとスイレンに雑魚が敵うはずもない。ほとんど苦労もせず最上階にたどり着いた二人の目の前の壁にはメッセージが張り出されていたのだ。

『我らが怨敵邪猫シズカを抹殺に行く。試練を望む者たちよ、しばし待たれよ』

「で、下にあったクレーターは」

「ボスの成れの果てだろうね~」

 地面の窪みの中心には何かのシミ。

「追いかけよう!」

「どうして?」

「だって、シズカが私のために」

「色ボケゆうき、出たな。良いじゃない、このまま最後までシズカさんにやってもらおうよ……あ、無理か」

「どうしたの?何か不安要素があるの?」

「ラスボスって、スコップ先輩じゃん?シズカさん、スコップ先輩を倒せないよ、多分」

「……そうかも」

「シズカさん失踪前は、ずっとあの二人つるんでたし、ゆうきちゃんよりもずっと彼女x彼女してたし」

「いやああああ」

「さすがに彼女は殺せないでしょ?」

「彼女は私いいいいい」

 実際のところ山田とスコップを比べたら、シズカはスコップのほうを躊躇わずプチってするのだけれど、地球の乙女たちには、それは理解しがたい感覚だろう。


 そして邪猫こと猫姉さんシズカ。

 今まさに地底から噴き出す高温度の火山ガスと戦っていた。

「これは効くわね……」

 着ていた服もさらしも焼失したのか身に着けておらず、全裸状態で彼女はそれでも戦っていた。

 ……天然のサウナで。

「何がいいのかって、ずっと思ってたけど」

 長年の旅や連戦の疲労など、全く感じさせないきめ細かな肌に汗がにじむ。

「やっぱり疲れてたのかな?こうやって自分で軽く追い込んで弛緩させるのって、よけい癒されるっていうか」

 ここは洞窟内の温泉施設。

 前から有ることは知っていたが、人前で肌をあまり見せたくなかったシズカは利用しなかったのだ。家に帰るのも大した苦労でもなかったし。

 ただ今回は返り血とか虫の残骸とか、いろいろ汚れちゃったので、仕方なしに利用させてもらう。

 

「洗濯は後……20分か。他のお風呂も試してみようか」

 誰もいないことは確認済みだが、警戒しながらシズカは室内を移動する。

「露天風呂。半分外。どう考えても変態チックなんだけど、まあ物は試し……」

 二年前には際どい水着で子供達を悩殺したり、全裸で壁にめり込んでみたり、全裸で意味不明のことを叫んでみたりしていた人物なのだが、基本はやっぱり恥ずかしい。

 

 誰が作ったか分からないこの施設だが、人間型の者しか使わないので、怪異と人間の戦いが激化している現在、この施設を日頃から使うのは怪異側では一人しかいなかった。

 その一人スコップが、露天風呂でぼやいていた。

「どうして僕がシズカさんと殺り合わなきゃダメなんだよ。絶対死ぬじゃんか……」

 頭まで湯につかり十数秒。

 もう逃げよう、と決意して勢いよく顔を上げた、その先に。

 

「「あ……」」

 

 そして、二つの巨星は出逢う……

 いわゆるラッキー何とかという事象だった!

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