第6話 塔の試練
「アツシ復活したかな~?」
シズカは心配だった。何度か成功している術だし、死にたてだったし、失敗はしないはず。だけどいつだって初心にかえることが大事だ。だから心配してみた。
アツシ大爆散のせいで、両陣営が大変なことになっているのだが、当然シズカの知るところではない。
歩き慣れた校舎の裏道をのんびりとシズカは歩く。
夜までに家の電気が使えるようになればいいのだ。月々の支払いはされているのだから、管理していてくれたスコップに訳を聞けば用はすぐに済むはずだった。
目の前の五重の塔を見るまでは。
「アレだコレ。戦って最上階まで行かないとならんヤツ」
入り口の看板には「試練の塔」とある。
「めんどくさいな……」
シズカには選択肢があった。
一階ずつ攻略する?時間がかかる。
出直す?今日は絶対風呂に入らねばならぬ。
ぶっ壊す?……一番魅力的。しかしそれでは二年前と変わらない。
「フッ……俺の答えは、こうだ!」
シズカは塔には入らず、外周を回ることにした。塔なんか無かったことにしたのだ。
「どうせ誰か知り合いが守ってんだろうし。殺すわけにもいかないし。……子鉄」
当たり前だが、回り道なんてできないように柵がある。その柵の端まで行けば越えられるのだろうが、かなり遠いようだ。シズカは歩く労力と破壊の手間を天秤にかけ、破壊を選んだ。
「ちょっと待ちな!」
意外だった。
こういうのって、主人公達には塔を無視できない(編集者の意向とか)理由があるから、罠とわかっていながら塔に乗り込んでいくのだ。そして主人公達が必ず塔に行くから、周りに敵の見張りとかはいない。
塔の守護者達は倒され待ちだから動かないはずだし。
急いでる今、効率厨のシズカにとってはコレが最適解だったのに。
「この俺たちが守護する塔を無視して進むなんて、無粋なことはやめようぜ、姉御」
「それとも何か?俺たちじゃ相手に不足とか考えちゃってる?」
ふらりと現れた二つの影。
シズカよりも頭二つは背が高く、イケメン俳優のように優しげなお顔には似つかわしくない殺気のこもった射すような視線。
服装もやや痛い。
ダボダボと言っていいくらいの黒いスーツ。
白の手袋。二人で色もデザインも異なる派手なネクタイ。
どこかの組織に属しているのだろう、右胸の「X」をデザインしたロゴマーク。
二人で色もデザインも異なる右手首のリングのような刺繍は階級でも表しているのだろうか。たぶん趣味の違いだろう。
そしてもっとも特徴的なのが左肩のみに掛かるマント?吊り紐がやけに目立つ。
「誰?」
「オヤオヤ、たった二年で僕たちを忘れちゃうなんて。兄貴、こんな寂しい事ってないよね」
「そう言って自らの罪を誤魔化そうとしているのだろう。愚かな猫だ……」
「スキャン完了。人間じゃないねむしろ昆虫に近い……あんた達がそこの塔のボス?」
「俺はキックスズメバチの
「俺はパンチスズメバチの
「「人呼んで、地獄蜂兄弟!」」
「あ~待って、なんか……」
シズカは思い出した。
加々美が全滅させた、シズカ邸防空部隊の代わりに加々美が斡旋してきたデカい蜂がいたことを。
「お前が!半端な契約だけして失踪するから!」
「あの後の就職も苦労したんだ!」
知らんよ。
シズカはとりあえず胸中でぼやく。
人語を解する加々美ちゃんとならともかく、単なる虫とは契約なんて結ぶはずがない。ケンタウリ人にとって、虫は食料。ビジネスの相手ではないのだから。
「お前、今俺を笑ったな……?」
「そりゃあ、面白いし?w二つ付けるわ」
虫が逆恨みして人間になって「ふくしう」に来た。ワロスww
「兄貴!こいつ殺そう!」
「じゃ最後に。アンタら、どうやって人間の姿になったの」
おかしな町だが、虫が人になるなんてファンタジーが起きるような事はないのだ。
「我等が同志スコップの秘術だ。お前も知っているだろう?ヤツの秘術はあらゆる奇跡を起こす!」
「……分かった。もう死ね。……変身」
ニャーン!
毎度おなじみ、銀色の執行人が現れる!
「兄貴!俺達も!」
「応!」
「「変身!」」
シズカの変身にも怖じ気ず、地獄蜂兄弟は蜂型の玩具をベルトにセットして叫ぶ。
どこからともなく大量の蜂が飛んできて二人の身体を覆い尽くす。もちろんエフェクトだがシズカさんは本気で不快を感じている。
虫がはじけると、そこには蜂っぽい装甲を纏った戦士が二人。
「変身できるのが自分だけだと思っていたか」
「あのお方に頂いたこの力、自らの死でもって味わうと良い」
「あのお方って……まさかスコップ?」
「まさか!あのちょっと可愛いだけの犬コロにこのようなものを作る力はない!我が主の騎士となれと!」
「あのお方が与えてくださったこの力!」
「主?あのお方?可愛い?もうアタマ一杯だ!スコップなの!?」
なんかほんわかワードが混ざっていて、シズカはひどく混乱する。
「否!我らはちょっと可愛いだけの犬コロの下には付かん!滅びよ、邪猫!」
「我等の主である昆虫サークルの姫、加々美ちゃんに安眠を!」
親友は自分を殺そうとしていたわけではなかった。何か理由があって、彼らに協力させられているに違いない。
シズカは戦いの最中にも関わらず、笑い出したくなった。但しあの
シズカはミャウドライバーを一度叩いた。ニャーン!
「……まあね、確かにスコップは最高に可愛いからね!ギャラクシーキック!」
収束するエネルギーで輝く右足を振り抜く。
「あ、しまった」
地獄蜂兄弟は名セリフも遺さず爆散した。
ここまで木っ端みじんだと再生も効かない。
「ま、いいか」
シズカは変身を解いた。
昨夜はスコップのことも、後ろ姿を暗闇の中ちらりと見ただけなのを思い出す。
「まだカワイイムーヴやってんだ……良いぞ!」
再会の楽しみが増えたと、洞窟へ向かうシズカの歩みは軽やかに。
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