第4話 この門は開けておけ!

 海辺高校の中庭を破壊し、裏山洞窟までペタペタと歩く女がいた。

 怪異蔓延るこの町。更には怪異の住処であるこの高校敷地を全く警戒せずにその女は歩く。

 何も理解しない愚か者?

 いや違う!彼女こそ恐れる物が何もない、本物の強者なのだ!


「シズカ姉さん。悪いがこの先に通すわけには行かない」

 高校の裏門を守護する戦士がいた。

 身長は2メートルまではいかないが、相当大柄。全身が筋肉であり、もしその拳を受けよう物なら、シズカの小さな体など粉みじんに砕けてしまうだろう。

「この声紋は……アツシか?」

「シズカ姉さん、覚えていてくれたか」

 記憶に間違いがなければアツシは当時小学三年生。海で遊んだり、虫取りをしたり、シズカの探検仲間だったはずだ。

「大きくなったな……」

 地球人の幼態は二年でここまで大きくなるのだったか?シズカの本棚データベースにはそんな情報はなかった。

「でも成長期の男の子って、ニョキニョキ伸びるらしいし……」

 この町の常識は世間では非常識。シズカは間違って覚えてしまっていた。

「姉さん、用向きを聞こうか」

「この先に強敵ともがいる。俺は会わねばならん。アツシ、お前が立ちはだかるのなら全力で排除する。それだけだ……!」

「そうだ!全力でかかってこい!俺すら倒せぬようでは、この先では通用せんぞ!」

「変身!」

 ニャーン!

「変身だと?ゆうき姉ちゃんと同じ力!?」

 そういえば夏祭りの日、変身した山田はすごく可愛かった。少し大人になった今でもまだあの格好に変身してるのならば……!

 戦いの最中にも関わらず、妄想で空きだらけのシズカさん。アツシはそれを逡巡ととらえた。

「どうした!昔の知り合いとは闘えないか!甘い、甘すぎる」

 シズカは見た目冷静に、アツシが振り下ろす大刀を指一本で受け止める。

「何だと?クッ……動けない」

「ねえアツシ、山田が変身してるってどういうこと?どうして知ってるの?それに何かみんな好戦的なんだけど、……お芝居じゃないの?」

 シズカは強者ムーヴをやめた。どうやらアツシは遊んでくれているわけでもなさそうだったから。

 大刀を止めたままシズカは変身も解いた。しかしそんな状態でもアツシは動くことができない。むしろ押し返されはじめている。

「なんだ……この力は。だが俺も「あの方」に門番を任されたのだ、なにがあっても通すわけにはいかん!」

 アツシが呼吸を整えようとした一瞬。

 シズカはアツシの懐に間を詰め、額に人差し指を置いた。

「死なないでね」

 軽く突く。

 ただそれだけでアツシは数十メートルも飛んでいってしまった。

「……」

 カタカタと楽しそうに揺れる腰の魔剣を鞘ごと捩り折り、シズカはアツシに駆け寄った。

「アツシ!生きてる?」

 ここまで綺麗に頭部を破壊されては生きてはいないだろうが。

「……とりあえず『再生リジェネ』『蘇生リバイブ』」

 アツシだった物がじわりと輝きだす。

「あ、あとは自己責任で!」

 アツシ(仮)をその場に放置して、シズカは逃げた。



「アツシが敗れた?」

 ヘソ出しスコップはその報告を聞いた。

 アツシはまだ小学五年生相当ではあるが、改造住民の中ではかなり強く仕上がった戦士だ。

「キチキチ……」

「首ももげた?」

「キチキチ……」

「いや、首取れたら死ぬのよ?」

 報告してきたのは赤い鎧を着込んだ巨大カブトムシ。彼はどうも人間の世界に疎いところがある。

「不思議そうにしないでよ……。加賀美ちゃん、彼の報告は?」

 スコップは青い鎧を着込んだ美少女・・・戦士に問いかけた。

「ソウジ様の報告は正しいわ。アツシは殺された。……シズカお姉さまの手によって!」

「え?」

「私は見たわ。お姉さまの指先一つでアツシの頭が爆散して……」

「ひえっ!」

 スコップは心の底から慄いた。

 (シズカさん、話が違うよ!どっちにも付かないって言ってたじゃない?しかも可愛がってたアツシを躊躇いもなく殺すなんて、完全にあっちに付いたって事じゃないか!僕らじゃ絶対に勝てない……!)

「加賀美ちゃん、シズカさんの監視……」

「絶対嫌よ!今度こそコーティングして食べられちゃうわ!」

「なにそれ、怖い」

 今でこそ美少女している加賀美ちゃんだが、本性はアレキサンダーメガロクワガタ、つまり虫である。シズカとのファーストコンタクトで命の危険を感じたのだがそれをまだ引きずっている。

「結局僕が出るしかないのか……」

「あいつ等を出せば良いじゃない、地獄蜂兄弟」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る