第3話 時空監察官シズカ!

 シズカは感心していた。

 わりとノリの良いスコップならともかく、山田までシズカの強者ムーヴに乗っかってくれるなんて。

 月日の流れは人をここまで変えるものだな~なんて。

 それに姿を見ることは叶わなかったが、声もこの二年ですっかり大人になったようだった。

「何か、声が色っぺー過ぎるんだけど」

 シズカは山田の姿も見ておくんだったと激しく後悔した。

 

 そしてたどり着いた海辺高校の正門。

 不思議なことに門の前を横切っていた川は干上がっていて、川底だった所には動物の骨のような物が割と沢山転がっている。ちょっと人間のものっぽい骨も見えるがきっと気のせい。

 すぐそこにあったはずの海も見えない。

 校庭にはやたらと太陽が照りつけ、陽炎が立っている。カサカサがカサカサ転がっていく。

「この状態が変なのか、イマイチ分かんないんだよね~」

 帰ってきた時空監察官のメンタルはこの程度のことでは揺らがない。

 

 締め切られ、鉄条網がぐるぐる巻きにされた頑丈な正門も、シズカの一閃でスクラップと変わる。

「おっと。これは切るな……って遅かった」

 シズカの愛刀『人造魔剣子鉄』はとにかく手が早い。しかもすれ違いざまに相手の急所を切り裂くという悪癖付きだ。ニューワールドストリートで虎徹違いで造られたという。

 強くなり過ぎたシズカの力をセーブする目的で使っているのだが、たまにいうことを聞かない。

「次勝手に切ったら、折るって言ったよね」

 シズカは子鉄の刀身を素手で握り、容赦なくへし折りにかかる。魔剣も小刻みに震え、発熱して折られまいと抵抗する。

「へえ、この前よりかは抵抗するね」

 子鉄は抵抗も虚しく、2つとさらに半分に折られ、捻られ、無理矢理鞘につっこまれた。


 不法侵入を果たしたシズカは、無人の校庭を歩く。

 埃っぽい風が吹き、磔台に打ちつけられたら何体かの間宮教諭をカラスっぽい何かが突つく。

「もっといいの食べたらいいのに。あ、そうか。時期的に夏休みだ」

 シズカはカラス?達に謎の巨大魚を投げてやると、美味に飢えていた彼らはそちらに群がった。

 

 どうやら裏山の洞窟から怪異があふれ出てしまっているようで、あちらこちらから妖しい視線を感じる。

 

 中庭を通り抜けると洞窟第一階層まではあと少し。

「わっふ」

「ニャッ!」

 油断していた。

 山田の成長した姿を想像しながらデレデレと中庭を歩いていたら、いつの間にか周りを囲まれていた。

 犬っぽい何かに。

「っぽい連中ばっかりだ!」

 シズカの戦訓。異星人とか異界人とかではなくても基本、対話から始めよう。

 しかしシズカは犬が嫌いなのだ。すぐにでも殲滅したい。

「……でもスコップの親戚かもしれないし」

 ぎょろりと飛び出た目玉。だらしなく伸びた長い舌。汚れた毛皮はもはや元の色は判別できない。脚なんかは本数も曲がり方も様々。何が嬉しいのか、シッポだけは必死で振っている。

 地の文であるが断言しよう。決してスコップ嬢の親戚ではない。

「こ、これお近づきのしるし……」

 シズカは一番近くにいる個体(ジョンと命名した)に、おずおずとタイ焼き型の魔獣を差し出す。

 パクリ。

 ジョンは警戒することもなくタイ焼きをシズカの手ごと食べた。

「ジョォォォン!」

 シズカは咥えられていない左手を袖の中に引っ込めて内側から懐を探ると、それを掴む。左肩がはだけるのも構わず、高く掲げた。

「変身!」

 ニャーン

 電子音が鳴り、シズカは全身に光を纏った。

 足元からシズカの身体に沿って無数のラインが延びていき、メタリックな戦闘スーツを形作っていく。

 脚、胸部、腕の装甲に炎のエフェクトとともに濃い紅が差し、炎が赤いスカーフに変化する!

 最後に黒いフェイスマスクが下りると……。

「時空監察官シズカ!さあ、正義の前に跪きなさい!」

 時空監察官は司法官であり裁判官で執行人だ。この犬?達に悪意があったのかはわからない。しかし、シズカが悪だと断定した以上、彼らに未来はない。1体100。明らかにシズカが劣勢だが。

「小鉄!」

 スクラップになったはずの小鉄がシズカの手の中に蘇る。月の輪の紋章が輝く。

 さあ、戦いだ!

 

この闘いきっとFuture

平和のためにCross of Heat

この宇宙のためにBurning Heart

Dash Dash Dash Dash

○rans ○ransformer


 一分かからず、中庭は破壊され尽くした。

「また、やりすぎた。ほら、子鉄も。いちいち折れてるんじゃないわよ」

 哀れ子鉄の役割は衝撃の緩衝材だった。

「さあ、行くよ」

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