写真家の一枚
ゆったり虚無
津波
1枚の写真が原因で、写真家は問い詰められていた。
写真家の周りには報道陣が円を成して群がっており、こぞって写真家に質問を投げかけていた。
事の発端となった写真は震災の写真であった。
津波に流される少女が、倒壊し流される家々と共に写っている。
なぜこのような写真を撮ったのか?
なぜ助けようとしなかったのか?
遺族の方になにか言うことはないのか?
このような質問が写真家に投げかけられる。
写真家は一言も喋らずに、虚ろな目で報道陣を眺めていた。
浴びせかけられるフラッシュは写真家を飲み込んでいた。
写真家に少女を助けることはできなかったのは少し考えれば分かることだ。
津波が迫る最中、他人を構う暇などない。
だが、体が自然に動いた。
恐怖という根源的な感情を無視し、写真家は少女を撮った。
襲い掛かるカメラのフラッシュの世界に、津波の片りんを写真家は見た。
後日、写真家が謝罪する写真が世間に報道された。
しかし、その当日の午後に写真家の遺体が発見されたため、報道は写真家の自殺を取り上げるようになった。
今、一人の男が立っている。
写真家を問い詰めた内の一人の記者である。
そして今、津波が彼を飲み込まんとしていた。
写真家の一枚 ゆったり虚無 @KYOMU299
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