2話 あなたは500年間頑張ることができましたか?─イエス!イエ―――スッ(泣)!

俺はあれを前に戸惑っていた。あれが増えていたのだ。なんと、3つに………







ズーーーーーーーーンッッッ




腹の底に響くような音を目覚まし代わりに、俺は目覚めた。そして、ベッドから落ちた。




「フゲッ!うーん………何だよ、朝かよ………」




昼だった。俺は立ち上がると、顔を洗うため洗面所へと歩き出す。




「今日も代わり映えしない1日になるんだろうな…」




木製の階段を下り洗面所のある、一階へと向かう。


ん?ふと窓の外を見ると、大きな草原を通る一本道を走って来る奴らがいた。




「あれは………確か先代受付嬢とその旦那………」




こちらに向かって来るところを見るときっと俺に用があるのだろう。だが、俺は構わず洗面所へ向かい顔を洗った。




ピンポーン、ピンポピンポピンピンピンガシューン…




おいなにしてやがる。




俺は走って外に飛び出した。




「おい何すんだ!せっかく作ったインターホンがぶっ壊れちまったじゃねぇか!」




というかそう簡単に壊れるような作りではないハズなのだが………




「魔女様!大変なんです!」




先代受付嬢が話している間も惜しいとばかりに俺の手を掴んで言った。




「森にワイバーンが出たんです!私達も戦ったのですが、全く効いていない様子で………」




「分かった、行こう」




「本当ですか?!良かった…これで安心だわ…」




隣で旦那が恐怖からか、地蔵のようになっていたが、まぁワイバーンがでたならしょうがない。




「『絶対記憶』」




これは『絶対記憶』スキル。俺が帽子を被った状態で発動するとどんなことでも記憶しておく事が出来るという優れたスキルだ。だが、俺は今帽子を被っていなかった。




「悪い悪い。寝起きなもんで…」




「は、はぁ………」




と言うわけでリビングから帽子を取ってくるついでに服を着替えた。なぜか俺がこの世界に来たときに身につけていた初期装備だ。黒い魔女帽、水色のシャツ、そして黒いローブと完全に魔女ッ子ルックだ。




もちろん全部女物である。なめんな。




「よし、もういっちょ!『絶対記憶』」




深い海に潜るような感覚。最初は苦しかったが今となっては慣れたものだ。




みつけた…。




「よし、行こうか!」 




「「はい!」」




おぉ、何もない所から声が!と思ったら空気になっていた旦那の声だった。







ここは『結界村』。今から1000年前に通りすがりの超凄腕の女神官様が張って下さりやがった結界のお陰でモンスターは寄り付かない。というか人も、モンスターも出入りできない。出入りできるのは、川の水や木の根っこ、風と太陽光くらいだ。




だがその数少ない恩恵の内に強いモンスターが現れずらい、というものがある。だがここは異世界。なんとごく稀に、だが強いモンスターが生まれてしまうことがある。理由は分からん、あの駄目神に聞け!




そう、超凄腕の女神官というのはあの駄目神ソルスのことだったのだ。あれから500年。500年経った。


いや違った、今日で500年経つんだ。なんと、俺は500年頑張った。そして今のレベルは98。あと1レベルであの結界を破壊できる………




「魔女様!森に着きました。ですがこの先は………」




「分かってるよ、一人で行けってことだろ?」




「すみません…私達も出来ることならお手伝いしたいのですが………」




「気にすんな、これは俺がやりたくてやってるんだ。それに、でたのはワイバーンなんだろ?じゃあなおさらだ。危ないし、正直言って邪魔だ」




先代受付嬢はうつむいてしまった。あぁ!違うって!お前たちが頼りにならないって言いたい訳じゃないんだよ!




「えーっと…その…なんだ、どうせあれだよ、俺たぶんこのままずっとここいるしさ。だから…その…心配しなくていい。俺はお前たちを責めてるわけじゃないよ」




「はい、ありがとうございます!その…ごめんなさい。私達魔女様に助けられてばかりで何にも返せてないなって思って…」




いいや、たくさんもらったさ。この500年。頑張って来られたのはこの村の人々のお陰だ。




「これは恩返しだよ」




俺が呟くと彼女は全て察してくれたようで、嬉しそうに微笑んだ。察しが良くて助かる。こんな恥ずかしいセリフはいえたもんじゃない…




いまだに空気な旦那とは大違いだぜ………




「じゃ、行ってくらー!」




「はい!魔女様、ご武運を!」




見送ってくれた彼女に手を振りながら俺は森の奥へと走って行った。







毎回入る度に思うが、この森………




「迷子になっちゃった☆」




まじで道に迷う。可愛く言ってもこの森にはもう人っこ一人いやしない。そう、人はいない。こういう時は、頼れるあいつの出番!




ピィーーーーーーーーーッ!!




俺は全力で口笛を吹く。すると………




「キョエーーーッ!」




どこからか聞こえてくる鳴き声はあの頃より、カッコ良く、そして可愛くなくなった。だがあいつはいつでも俺の相棒だ!




森の中でも少し開けた所に今俺は立っている。ここならあいつも着陸出来るだろう………




あいつはやって来た。あの頃は小さくて可愛かったあいつは、俺の身長の二倍を超える程の巨体を誇り、四枚の翼はまるで小型ジェット機の羽のような大きさにまで成長している。そう。あいつと言うのは………




「スズメーーーーーーー!!!!」




「キョエーーーーーーーーーーッ!!!!!」




スズメ(仮称を卒業し本名になりました)である。




あれから500年経った今でも元気に生きている。理由は簡単。こいつは正式名称キタノトリ。魔鳥と呼ばれるモンスターに分類される種族に属しているからである。




魔鳥には、寿命と言うものがない。魔鳥には核と呼ばれる器官があり、そこを破壊されない限り死なないのだ。魔鳥については色々勉強した。だって俺の人生の相棒だもん。




正式名称キタノトリ


種族魔鳥 属性なし 種族固有スキルあり


種族固有スキル コンパス どんな時もどんな所でも北を向くことができる。全魔法を無効化する。


と、魔族辞典に載っていた。




いや全魔法無効化とかチートやん。と思ったがやはり俺の人生の相棒にして、この森の主、それぐらいできて貰わないと困るぜ………




「キョエーーーッ!」




「よし、スズメ!ワイバーンの所まで頼む!」




俺はスズメの背中に飛び乗るとそう叫ぶ。




「キョエーーーーーーーーーーッ!」




任せろとばかりに鳴き声をあげるスズメ。まじで頼りになりすぎだろ、今日からアニキって呼ぼうかな………




数十秒で見つかった。逆に俺が見つけられなかった方がおかしい。だってめっちゃ暴れてるもん。朝の(昼の)もあいつかよ…




「となれば、ぶっ飛ばしに行くしかないよなっ…と!」




俺はスズメの背中から飛び降りるとワイバーンに向かって突っ込む。さっき『絶対記憶』スキルで調べたワイバーンについての情報を思い出し、最適な魔法を発動。




「『サンダーボルト』」




とたんに空中に黒い雲が生じ、雷を呼ぶ。この魔法、本当は人に打ってもピリピリするぐらいの魔法なのだが、俺のステータス補正で異常な効果を発動している。




「グゥオアアァァァッッ!!」




効いてる効いてるぅー!おいおい、効きすぎだろ…光属性の攻撃はほとんど通さないんじゃ無かったのかよ…




でもさすがは竜種。まだまだ行けるようだ。俺は地面に着地すると目の前の怒り狂った漆黒の翼を持つ竜に向かって名乗った。




「やぁやぁ竜さんこんにちはっ…と!」




ワイバーンは、ノーモーションで放った尾での攻撃を、避けられるとは思っていなかったようで動揺している。




「まぁまぁ、落ち着いてってば。まずは深呼吸をしてみよう。はい息吸ってーー?吐いてー……って炎を吐くなー!」




俺はワイバーンの放った『ファイアブレス』を正拳突き一発で消し去った。




「グルウッッ?!?!」




おぉビビってるビビってる。そんなビビらなくても殺したりしないってー。




「今は………だけどな」




黒い竜はジリジリと後ずさる。だがそこはすでに結界のすぐそばだった。




「グルウッッ!!グルァァァウ!!!!!!」




必死になって結界に攻撃を加えるが、結界はびくともしない。




「あぁあぁ………せっかく美味しい果物が生ってる木をぶっ倒しちまって………果物の美味しさが分からない奴って人生損してるよなー」




「グルァァッ!グルァッ!グラァァァァウッッッッ!!!!」




相当ビビっているようだ。だが逃がすことは出来ない。なぜならこいつは………




「経験値が多いっ!」




「グゥオッ?!?!?……………」




俺が奴に向けて幻の左を放つとワイバーンは口からなんかいろいろ吐き出し、倒れた。




「はぁー、疲れた…」







「魔女様がワイバーンを倒したぞー!!!」




俺がワイバーンの死体を持って村に戻ると、村はお祭り騒ぎになった。ギルド前に死体を下ろし、ギルドに入る。




「おーい、ワイバーン殺ってきたぞー?」




と叫ぶと、そんな声が一瞬でかき消える程の大歓声に包まれた。




「さすがは魔女様だ!」




「魔女様!今日もありがとう!」




ハイハイ、と適当に返事をしながら俺は現受付嬢の元へ向かう。




「受付のお姉さん、ステータス。見たいんだけど?」




「魔女様、もしかして?!」




「あぁ。たぶん上がってる」




またしてもギルド内が大歓声に包まれた。うるさいうるさい!俺は耳を塞ぎながら叫ぶ。




「まだだって!まだ上がってるって決まった訳じゃないから!」




「いいや、あがってるさ!なんてったって魔女様は誰よりも多くレベルアップしてるんだ、レベルアップのタイミングが分かるようになっててもおかしくないさ!」


 


まぁ確かに分かるようになった、いやなってしまった。くそっ、こうなったのも全部あの駄目神のせいだ!あの駄目神め、次会ったらどうしてやろうか………




「魔女様!ステータス、確認しましょう!」




「あ…あぁ、頼むよ」




俺は石板に手をかざす。確か、前回上がったのは8年前だったかな…と考えていると空中にステータスが浮かび上がる。




「レ…レベル、99です…魔女様!」




「うおおおぉぉぉぉぉっしゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」




ついに…ついにたどり着いた………長かった、長かったよ………俺が嬉しすぎて泣き始めるとギルド中から喜びの声や、嗚咽が聞こえてくる。




「お前ら、出よう!皆で!ここから!」




「「「はい!」」」




ギルド内に反対の声を上げる者は誰一人としていなかった。




「皆、今から一時間後、村の広場に集まってくれ。俺があの忌々しい結界を破壊してやる!もう何も!我慢しなくていいんだ!」




「「「おおぉぉぉぉぉっっ!!!」」」




皆、行こう!自由な世界へ!







1時間後、村の広場にはこの村のすべての人たちが集まった。いつも家に引きこもっているニート共も今日ばかりは外にでている。




「お前ら!今から俺が『破壊』スキルでこの結界をぶっ壊す!ここからでたい奴!手ェ上げろー!」




よし、皆手を上げている。これで、でたくない奴を無理やり出した、とかにはならないだろう。




「よし、いくぞ!『破壊』」




『破壊』スキル俺が持つ中でも特殊なスキルの中の一つだ。物質と物質の間に無理やり魔力を生成し、断裂させる。という非常に使い勝手の良いスキルだ。これなら結界も割れるだろう。




半径およそ10キロメートル、高さ数百メートルにもなる巨大な結界に無理やり魔力を流し込む。




くそっ、予想以上に反発される…




「魔女様!頑張って!」




「魔女様!あんたならやれる!」




「破創の魔女なんだろ!結界ぐらい破壊してみろ!」




最後の言った奴誰だ!




その時、結界に小さなヒビが入った。




「キター!」




そのままガンガン魔力を流し込む。割れろ割れろ割れろ割れろ………




ピシッ!




破裂音が響き渡る。




「見ろ!ヒビが大きくなってるぞ!」




いける!




「うおおぉぉぉぉらぁぁぁっっ!!!」




全身全霊。文字通り魔力も気力も体力も魔力と共にぶちこむ。




「500年…いや、1000年だったか?お前はもう頑張ったよ。後は俺に任せて…ゆっくり休め」




ヒビが全体に回り…




この村を1000年外界から断絶させていた結界はたった一人の男女の手によって破壊された。




結界は粉々に砕け散り、まるで祝福の雨のように俺たちに降り注いだ。




淡く光る結界の欠片は俺たちの体をすり抜け地面に溶けていく。




その雨はその後1時間ほど降り続けた。




その光景はきっとこの世のどんなものよりも美しかった。




そしてこの日、俺がこの世界に来て。




500年経ったのだった。

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