あなたが幸せでありますように

@arz6sk

あなたが幸せでありますように

 ある時、ある国、ある場所で、一組の夫婦が不幸な人生を終えた。

 二人はお見合い結婚で、[仲人こそが我が使命]とのたまう両家の親の共通の知人という絶妙に面倒な立場のお見合いおばさんがセッティングしたそれに見事に流されてしまったのだ。

 お互いに「まぁ、相手の顔を立てて参加だけして後はなぁなぁで断ろう」という魂胆で適当にハイハイと頷いていたのもお見おば(お見合いおばさん)の勢いに抗えなかった原因の一つだったのだろう。

自分の人生に関わる事なのにね。


 ともあれ二人は二人は夫婦となり、数年後に子供も産まれごく一般的な家庭が出来上がったわけである。



 破綻が起きたのは偶然か、はたまた必然だったのか。

 夫の不倫が発覚した。

 知らせて来たのは不倫相手の女性である。

 夫と彼女は幼馴染みであり、中学・高校と彼氏彼女の関係だった。

 周囲の友人達からも「早く結婚しろ」「式には呼んでね」と冷やかされるほどの仲だったそうだ。


 知らんがな。


 けれど大学受験を目前にした高3の冬、彼女の父の仕事の都合で転校を余儀なくされ、哀れ二人は遠距離恋愛。

 そのまま段々と疎遠になっていき、いつしか関係は自然消滅。

 実にありふれた悲しい思い出の一つ、酒の席で友人に話すネタの一つ。

 そんなほろ苦い青春の1ページとしてそれぞれの胸の中に仕舞われた美しい思い出。


 そうなるはずだった。


 数年後、二人は出会ってしまった。

 同じ会社の上司と部下として出会ってしまったのである。


 そりゃあ燃えますよ。

 焼け木杭に火も付きますよ。

 メロドラマもかくやの禁断のオフィスラブががっつり展開されましたとも。

 彼女さんもテンション上がって奥さんに「あの人と別れて下さい!!」なんてダイナミックエントリーかましますとも。


 それが良くなかった。


 バカ二人の不倫の話は瞬く間に会社に広がり、ご近所に広がり、好奇の視線に晒された一般家庭は当然の様に崩壊した。


 その後はお察しの事だろう。

 夫は離婚後、慰謝料を稼ぐため馬車馬の様に働き愛していたはずの不倫相手とも破局。

 最期はノイローゼになり己の不実を元妻に詫びながら冬のある日にどこぞの森で首を括ったようだ。


 

 被害者であったはずの妻もまた不幸であった。

 慣れない子育てに右往左往しながら全うに生きてきたはずなのに、突然知らない女が我が家に現れたかと思えば自分の夫との赤裸々な情事を朗々と語るのである。

 半泣きで警察に連絡するのも当然だろう。

 結果として仲の良かった近所の友人達が下世話な他人となってしまい、我が子を連れて実家に戻ることになったが。

 その後も少なくない好奇の目と上から目線の同情に耐えながらも女は我が子を育てるために努力をし続けた。


 冬のある日、クリスマスのプレゼントは何が良いか我が子に尋ねた時、モジモジとしながら


「パパとママと一緒にケーキが食べたい」


 そう言われるまでは。




 

 自分の、自分一人の努力を我が子に否定された。

 疲れきっていた女には我が子の言葉を、両親の仲の良い姿を求める子供の言葉を受け止める余裕は、もう無かった。


 泣きながら引き留める我が子の言葉も届かず、女はフラフラと夜道を歩き続けた。

 その最期は走る車に轢かれるというあっけないものだった。







 そして、奇跡は起きた。









 気付けば自分は若返り、時はお見合いの日の前日である。

 夢かと思い色々試すも、どうやら現実なのは確かな様子。

 己の不実により不幸を背負った男と、その巻き添えをくらい不幸になった女はお互い強い思いを心に宿し


「「ごめんなさい!!」」


 お見おばの面子を潰したのであった。

 



 その後、一度死んだ二人はもう怖いものなしである。


 女は自分の意思で婚活を行い、信頼しあえるパートナーを得ることに成功した。


 男は再び出会ったかつての恋人と今度はなんの障害もなくゴールインすることが出来た。

 不倫なんぞでヤバいテンションにならなければまぁこんなものだろう。



 そうして二組の夫婦はお互いかかわり合いになることもなく、ハッピーエンドを手に入れたわけである。















    ………なーんて










 納得できるかーーーーーーーー!!!!!









 ハイどーも私です!

 語り手です!

 ハッピーエンドですね、良かったですね、みんな幸せになりましたね。

 

 なってねーよ!

 一人いるよ!

 一人だけ幸せになってない子がいるんですよ!!!

 

 え? それは誰かって?


 子供だよ!

 あの二人の間に産まれるはずだった子供だよ!

 すなわち私だよ!!!

 

 えぇ私ですよ、ある日突然父親が消えて。

 母親と二人訳もわからず変な目で見られながら暮らし、挙げ句の果てには真冬に母親がいきなり出ていって一人ポツンと家に放置されたお子さんですよ!


 

 当時私は六歳でした、出ていった母を追いかけようとグスグスと鼻水をすすりなら靴の紐を結ぼうと四苦八苦して、ようやく結べていざ玄関の扉を開けようとした瞬間、気付けば私はココにいました。

 それから数年、私はずっとココで両親であった筈の二人を見ていた、いや、見させられていました。

 辛かったですよ、どれだけ叫んでも声は届かない。

 手を伸ばしても触れられない。

 いつしか二人は別の人と結ばれて、それぞれの夫婦の間には自分ではない子供が産まれ、目一杯の愛を受けて暮らしている。


 その子達が六歳、かつての私と同い年になった年、つまり今年。

 もうどうでもよくなりました。

 私は産まれてはいけなかったのか?

 私は両親の幸せにはなれなかったのか?

 自分は一体何のために産まれてきたのか延々と考え続けて、もう十代後半ですよ私。

 まぁ今の私、外見なんて、無いんですけどね。

 だって産まれてないから☆






………むなしい。





 まぁ、とにもかくにもそんな訳で私はもう諦めました。

 あの二人の子供であることを諦めたのです。

 我ながらよくもまぁこんなに長い間執着したものですよ。

 私は産まれてきて良かったのだと思いたかった。

 私はあの二人の幸せの証なのだと思いたかった。

 けれど現実はそうじゃなかった。

 二人の幸せに私はいらなかった。

 寂しいのか、悔しいのか、もうわからなくなってしまったけれど。

 それでも私は諦めることを選びました。

 ようやく諦める決心をしたのです。

 いやぁ長い間待たせてしまって申し訳ないです。

 えぇ、もう大丈夫です。

 

 だから


 もう、私のために泣かないでください。

 

 神様。















 そして、十数年もの間何者にもなれずにいた魂はあっけなくこの世界から消え去った。


 望むならどんな世界にだって生まれ変われると伝えてはみたけれど、あの子の心は変わらなかった。


 どんな気持ちでその結末を望んだのか、自分にはわからないけれど、少なくとも未練はもうすっかり無くなっていたのだろう。

 だって、本当にきれいさっぱり消え去ってしまったのだもの。

 できれば明るい気持ちであったらいいなと思う。

 

 結局、自分はあの子を救うことができなかった。

 あの冬の日、あの子は母親を見つけることができず寒空の中で倒れてしまい、クリスマスの日、病院のベッドの上で息を引き取ったのだ。

 朦朧とした意識の中、父と母の姿を求めながら。




 



 自分には人の心なんてわからないけれど、クリスマスが人々にとって特別な日だというのなら、死に行く幼子の願いくらいは叶えてあげても良いのではないだろうかと思い時を戻した。

 きっとあの子が愛される未来が訪れるのだと楽観して。








 それがこの様だ。








 今、自分の目には二組の男女が写っている。

 かつてあの子の両親であった筈の二人。

 その二人は今、床に這いつくばり大粒の涙を流し声にならない嗚咽を流している。

 きっと、あの子を永遠に失ったことを魂が感じ取ったのだろう。

 それとも、我が子を消した己を時が巻き戻る前の己に責め立てられているのだろうか。

 どちらにしろ、もうどうでもいいことだ。

 

 自分が救いたかったのはあの二人ではないのだから。




 ソレは二人から視線に外すと、何処かへと去って行った。

 後に残るのはいつまでも続く男女の鳴き声だけである。






                終わり









………書いててわけわかんなくなっちゃった!









 






 



 

 

 

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