散りゆく花は空を知る
sui
散りゆく花は空を知る
春の風が吹くたび、桜の花びらがひとひら、またひとひらと舞い落ちる。
丘の上にある一本の桜の木の下で、少女は小さな苗を植えていた。
傍らには、白い着物を纏った青年が静かに佇んでいる。
「……ねえ、この桜が咲く頃、私はここにいないかもしれない」
少女がそう呟くと、青年はふわりと微笑んだ。
「それでも、君が植えたこの木はきっと春になれば花を咲かせるよ」
「それを私は見られないのに?」
「見られなくても、咲くんだよ。それは君がここにいた証になる」
少女は黙って土をそっと掘り返す。
病を抱えた自分が、この桜の成長を見届けることはないと知っていた。
「……ねえ」
彼女はふと空を仰ぐ。
桜の花びらが風に乗って、青空へと舞い上がっていく。
「散る花びらって、どこへ行くんだろう」
「空を知るんだよ」
青年はそう言って、彼女と同じ空を見上げた。
「地に落ちる前に、一度は風に乗って高く舞い上がる。散るからこそ、空を知るんだ」
「……なんだか、少しだけ羨ましいな」
少女は静かに微笑む。
桜の苗を植え終え、そっと手を合わせた。
「この子が空を知る頃、私はもうここにいないかもしれないけれど……」
「でも、君の想いはここに残るよ」
風が吹いた。
舞い落ちる花びらが、少女の髪に触れる。
少女は最後にもう一度、空を見上げた。
そこには、どこまでも続く春の青が広がっていた。
散りゆく花は空を知る sui @uni003
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