第11話:星の淵の決戦

星の淵の神殿ホールに轟音が響き渡った。

ゼファーの放った闇がアルティアとカイエンを襲い、光と闇が激しくぶつかり合った。

祭壇の青と赤の結晶が脈打ち、空の『明けの明星ルミナ』と『宵の明星ヴェスパー』が異様な輝きを増している。

黒い霧がホール全体を覆い、壁の紋章が揺らめいていた。


「預言を完成させ力を得るのは、この俺だ!」


ゼファーが哄笑こうしょうし、剣を振り上げると闇が渦を巻き巨大な刃となって二人に迫った。

アルティアは光を盾に変え防いだが、衝撃で後ずさる。


「くっ……強い…!」


彼女が呟くと、カイエンが闇の刃を放ちゼファーの攻撃を相殺した。


「アルティア無事か?」


彼の赤い瞳が鋭く光り外套が風に揺れる。

ゼファーは笑い祭壇に手を置いた。

箱の結晶が反応し霧がさらに濃密になり、影の怪物が複数現れ、素早い動きで二人を囲むと一斉に襲いかって来た。

アルティアは、影の攻撃を光の盾でいなし、そこへカイエンがすかさず闇の刃放つ。

見事な連係で数体仕留めるが、すぐに霧から新たな影が生まれる。


「キリがない! どうする!?」


アルティアが叫ぶと、カイエンはゼファーを睨んだ。


ゼファーを直接叩くしかない!俺が行く、影は任せた。」


「わかったか。」


彼が闇を渦に変え、ゼファーに突進した。

ゼファーは剣で闇を弾き、低く笑った。


「カイエン、お前は俺には勝てない。お前に剣技を教えたのは誰だ?」


ゼファーが闇を放つと、カイエンはそれを避け祭壇に跳び乗った。

箱を手に持とうとした瞬間、ゼファーの剣刃がカイエンの肩を掠め、血が飛び散った。


「カイエン!」


アルティアが叫び、光を爆発させて怪物達を一気に吹き飛ばし、その勢いでゼファーに突進する。


「遅い!」


アルティアが光の刃で斬りつけたが、彼は霧に溶けるように消え背後に現れた。

ゼファーが闇の鎖を放ち、アルティアの足を縛った。

足を絡め取られたアルティアが倒れそうになると、カイエンが闇で鎖を切り彼女を支えた。


「大丈夫か?」


カイエンの声に焦りが滲む。

アルティアは頷き、光を手に集めた。


「ありがとう平気だ。」


彼女が立ち上がると、ゼファーは祭壇に近づき結晶を手に持った。

青と赤の光が彼の身体に流れ込み闇が一層濃くなった。


「これで終わりだ。星裔せいえいの力を奪い、俺が新たな星を生む!」


ゼファーが叫ぶと、ホール全体が震え天井の石が落ち始めた。

アルティアとカイエンは互いを見つめ頷く。

二人は、試練で得た力を思い出した。


「光と闇を一つに…!」


アルティアが光を放ちカイエンが闇を重ねた。二つの力が融合し、白と黒が混ざった輝きがゼファーを襲った。

ゼファーは剣を前に出し防御の構えを取るが、防ぎきれず後退し、祭壇に膝をついた。


「何んだ…この力は…!?」


ゼファーが驚きに目を丸くすると、アルティアとカイエンは一斉に突進した。

光の剣と闇の刃がゼファーを挟み、剣が軋んだ。


「お前の野望は、ここで終わる!」


カイエンが吼え、闇を爆発させた。

アルティアも光を重ね、ゼファーの身体が光と闇に包まれた。


「ぐあぁぁぁぁぁぁっ……。」


彼が叫び声を上げ霧が薄れる。

だが、次の瞬間ゼファーの笑い声が響いた。


「終わりだと? 違うなこれからだ。」


ゼファーは霧を纏い闇に溶けるように消えた。祭壇の結晶が砕けホールに静寂が戻った。


「逃げた…?」


アルティアが息を切らし、周囲を見回した。

カイエンは肩の傷を押さえ祭壇に近づいた。


「いや、気配が消えてない……ここか!」


彼が闇を放つと、ホールの壁が揺れ隠された通路が現れた。

霧が漏れ出しゼファーの声が低く響いた。


「お前たちの力は認める。だが、星の淵は俺の領域だ。次で決着をつける。」


声が遠ざかり、通路の奥に闇がうごめいていた。

アルティアは剣を握り直しカイエンを見た。


「追うのか?」


アルティアの声に決意が宿る。

カイエンは頷き、巻物を手に持った。


「ああ、奴を逃がせば預言が別の形で動き出す。」


二人は通路に足を踏み入れ暗闇へと進んだ。

通路は狭く湿った空気が漂っていた。

壁には古語が刻まれ、ルミナとヴェスパーの紋章が薄く光っている。

アルティアは光を灯しカイエンの肩の傷を見た。


「カイエン、血が……。手当てをしていこう。」


「いや必要ない。それより、一刻も早くゼファーを追わないと。」


少し体勢を崩しよろけるカイエンに、アルティアは小さく笑い光で、傷を軽く癒した。


「無理をするな。私の事をもう少し頼れ。」


彼女の言葉に、カイエンは目を細めた。


「そうだな……頼りにしてる。」


二人は視線を交わし通路の奥へ進んだ。

やがて、通路が開け巨大な地下ホールにたどり着いた。

中央には黒い水晶が浮かび周囲に霧が渦巻いている。

ゼファーが水晶の前に立ち、剣を手に笑っていた。


「よく来た。ここが星の淵の深部…預言を完成させる場所だ。」


彼が水晶に手を触れると、霧が凝縮し巨大な影の巨人が現れた。

赤い目が無数に輝きホール全体を圧する。

アルティアとカイエンは背中合わせに立ち、力を構えた。


「また怪物か! 芸の無い奴だな。」


アルティアが挑発するとゼファーは哄笑こうしょうした。


「芸が無い……か。違うな、貴様らを試してるだけだ。この巨人を倒す事が出来れば俺と戦う資格がある。」


「戯言を!」


「この巨人は今までの雑魚とは違うぞ?」


カイエンが手を振ると巨人が咆哮し腕を振り下ろした。

アルティアは光を盾に変え、カイエンは闇で攻撃を弾いた。

二人の力が共鳴し巨人の腕を切り裂くが、すぐさま闇が集まり再生する。

再生したとたん闇が押し寄せ二人は壁に追い詰められた。


「核だ、核を探すんだ!」


カイエンが叫ぶと、アルティアは光を放ち、巨人の胸を照らした。

だけど核である赤い結晶がみつからない。


「無駄だ!この巨人には核など存在しない。」


「核が無い……!?どうすれば?」


「アルティア、落ち着け!核がないなら巨人ごと消し飛ばすだけだ!」


二人が頷き、光の剣に闇の刃を重ね光と闇を融合させ解き放つと、光が巨人を包み込むとそのまま消し飛んだ。


ゼファーは、目を細め拍手をする。


「やるではないか。では、望み通り本気で相手をしてやる……来いカイエン!」


彼が闇を放つと深部全体が震え、新たなる局面を迎える。

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明星の双鎖 JASピヲン @piwon

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