第10話:影の道
双星の峰を降りたアルティアとカイエンは、平原の
眼前に広がるエテルシアの風景は朝と夕暮れが混ざったような光に染まり、遠くの地平線が霞んでいる。
カイエンは巻物を広げ『星の淵』と記された点を指さした。
「エテルシアの果て…大陸の西端。
彼の声に現実的な重みが滲む。
アルティアは眉を寄せる。
「数百里!? そんな距離をどうやって……まさか、徒歩でとは言わないでしょうね? 」
彼女の言葉に、カイエンは小さく笑った。
「いや、歩きでは無理だ。俺達、眷属が使ってた手段がある。」
彼は外套の内側からヴェスパーの欠片を取り出し光らせた。
赤い輝きが脈打ち、風が微かに方向を変えた。
「これで『影の道』が開ける。」
「影の道?」
アルティアが首をかしげると、カイエンは平原の草をかき分け古い石碑を見つける。
苔むした表面にヴェスパーの紋章が刻まれている。
彼が欠片を嵌めると、石碑が震え地面から黒い霧が立ち上った。
霧は渦を巻き、門のような形に固まった。
「眷属が移動に使う転移門だ。星の力を借りてエテルシアの各地を繋ぐ。」
カイエンが説明すると、アルティアの
「そんな便利な物が…でも、安全なのか?」
彼女が問うと、カイエンは肩をすくめた。
「安全の保証は出来ない。眷属が罠をはっているかも知れない……だが、今使える移動手段はこれしかない。」
彼が門に足を踏み入れると、霧が彼を包み姿が消えた。
アルティアは一瞬迷い、光を手に持つと後を追き門をくぐると視界が揺れる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
次の瞬間、アルティアは熱い砂の上に立っていた。目の前には赤茶色の砂漠が広がり、陽炎が地平線を歪ませている。
カイエンは数歩先に立ち、周囲を見回していた。
「ここは、砂漠の果てか……星の淵に近い。」
彼が巻物を確認していると、アルティアは驚きに目を丸くした。
「一瞬でこんな遠くまで!? すごいな……影の道。」
彼女が言うと、カイエンは苦笑した。
「たしかに便利だが正確じゃない。星の淵までは、あと少し歩く必要がある。」
彼が砂漠の奥を指さすと遠くに黒い影のような山脈が見えた。
風が砂を巻き上げ、二人の視界を遮る。
「今までゼファーが私達の前に現れていたのも、これを使っていたのか。 」
「もしかしたら、奴も星の淵に居るかも知れないな。とにかく先を急ぐぞ。」
アルティアは頷き、カイエンの後を追って歩き出す。
━━━━━━━━数時間後━━━━━━━━━
太陽が傾きかけた頃、二人は砂漠の端にたどり着いた。目の前には切り立った崖が広がり、その下に深い谷——『星の淵』が広がっていた。谷の底は暗く黒い霧が漂い、底が見えない。
崖の
「ここが星の淵…。」
アルティアが呟くと、カイエンは巻物を広げ星図と照らし合わせた。
「間違いない、この神殿だ。」
「……ここが預言の最終地点。」
彼が橋を指さすと、霧が動き橋の上で何かが光った。アルティアは目を細め、光を放って照らした。
「誰かいる!」
彼女が叫ぶと、橋の上に黒いローブの男が現れ不敵に笑い、剣を抜いた。
「カイエン、ルミナの
男が手を振ると、霧から影の怪物が現れ橋を塞いだ。アルティアは光を手に持つと、カイエンと並んだ。
「ゼファーの手下か。やはりゼファーは奥に!」
彼女が光の槍を放つと、
「ぐおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
怪物が咆哮しそれを弾いた。
カイエンは闇の刃を構え、男に突進した。
「邪魔だ!」
カイエンが闇を放つと男がそれを剣で防ぎ、二人の
怪物が腕を振り上げアルティアに襲いかかる。
アルティアは、それを素早く身をかわし斬りつける……が、斬りつけた傷がすぐに再生する。
「これじゃきりが無い! 核は…核はどこに!?」
彼女が叫ぶとカイエンが男を弾き飛ばし、怪物の背後に回った。
「アルティア、ここだ!」
カイエンが怪物の背中に闇を突き刺すと、怪物の胸に赤い結晶が現れた。
アルティアは、そこへ槍にした光を放つと結晶が砕け怪物が崩れ落ちた。
「ちぃっ!」
男は舌打ちして霧に消えた。
「逃げたか…。」
アルティアが息を整えると、カイエンは橋の向こうを見た。
「ゼファーが居る。急ごう!」
二人は橋を渡り神殿へと向かった。
神殿の入り口にはルミナとヴェスパーの紋章が刻まれ、黒い霧が漏れ出している。
カイエンはヴェスパーの欠片を手に持つと門が開いた。
中は広い円形のホールで中央に祭壇があった。祭壇の上には、奪われた箱が置かれ青と赤の結晶が輝いている。
そして、その前にはゼファーが立っていた。
「カイエン、ルミナの
ゼファーが笑い、剣を手に持つ。
霧が渦を巻き祭壇が震える。
「今度こそ、お前をここで止める!」
彼女が叫ぶと、ゼファーは
「止める?預言は止まらない。お前たちの力は俺のものだ!」
彼が闇を放つとホール全体が揺れ、光と闇の戦いが始まった。
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