第9話:双鎖の裁定
双星の峰の頂上は光と闇に包まれていた。
祭壇から放たれる輝きがアルティアとカイエンを照らし、空では『
風が唸りを上げ、祭壇の石柱が微かに震えていた。第一の試練で過去の影を、第二の試練で互いの意志を乗り越えた二人に最後の試練が迫っていた。
アルティアは剣を手に持つと、光を灯して祭壇を見た。
「最後の試練……、一体どんな試練が。」
彼女の声に緊張が滲む。
カイエンは巻物を握り闇を手に纏わせた。
「何が来るか分からないが、覚悟は出来ている。」
彼の赤い瞳が鋭く光る。
その時、祭壇から再び声が響いた。
荘厳でどこか冷たい響きが広場を包んだ。
「
声が消えると祭壇の中央に巨大な渦が現れた。光と闇が混ざり合い、まるで生き物のように
一つは金髪の女性で、白いローブをまとい光を放っていて、もう一つは暗い外套に身を包み、闇を纏った黒髪の男の姿が現れた。
アルティアとカイエンは息を呑んだ。
「あの姿は……まさか……ルミナ?」
アルティアが呟くと金髪の女性が静かに微笑んだ。しかし、その瞳は冷たく感情が感じられない。
「我はルミナ……光の意志。お前たちに試練を与える。」
彼女が手を振ると光の鎖がアルティアを縛った。鎖は熱く、彼女の腕に食い込む。
カイエンは闇の刃を構え、黒髪の男性を見た。
「奴がルミナなら……お前はヴェスパーか?」
彼が問うと、男性が低く笑った。
「そうだ、我はヴェスパー闇の意志。お前たちの運命を裁く。」
彼が手を振ると、闇の鎖がカイエンを縛り動きを封じた。
アルティアが光を放って鎖を解こうとしたが、鎖は消えず逆に締め付ける。
カイエンも闇で抵抗を試みるが、結果は同じだった。
ルミナとヴェスパーが同時に声を上げた。
「
その言葉に祭壇の渦が強まり、二人の結晶が浮かび上がった。
「血と力…お前達もゼファーと同じ事を言うのか!」
カイエンが
鎖が一瞬緩むが、またすぐに再生する。
アルティアは光を手に集めルミナを睨む。
「私たちは予言の犠牲にはならない! 私はカイエンと共に運命を超えるんだ!」
彼女が叫ぶと、ルミナとヴェスパーが目を細めた。
「超える意志がある……か。」
ヴェスパーが言うと、渦から無数の闇の刃が放たれ二人を斬り刻む。
「くっ…このままじゃ…二人共……。」
アルティアは息を切らし、カイエンを見る。
彼は歯を食いしばりながら立ち上がり。
「なぁ、アルティア…お前、俺を信じられるか?」
彼の声に切迫感が滲んでいる。
アルティアは一瞬驚いたが、すぐに頷いた。
「あぁ、一緒に運命を超えよう。」
彼女が光を強めると、それに続きカイエンも闇を手に集めた。
「やるべき事は一つ……俺達の光と闇の力を混ぜて、それを奴らにぶつける!アルティア!!」
彼が叫ぶと、二人は手を伸ばし互いの力をぶつけ合った。
光と闇が交錯し祭壇の渦と共鳴する。
鎖が軋み、ルミナとヴェスパーが驚きに目を丸くした。
「何だ、あの光は!?」
光と闇が融合し、まばゆい輝きが広場を包み込むと、二人を拘束していた鎖が砕け、渦が消える。
二人の結晶が祭壇に戻ると、ルミナとヴェスパーが後退し声が響いた。
「
声が消え、神々の姿が霧のように溶けた。
祭壇が静まり、試練が終わりを迎えた。
アルティアとカイエンは息を切らし、互いを見た。
「これで終わった…の?」
彼女が呟くと、彼は小さく笑った。
「ああ。……たが、アルティアあれを見てみろ。」
彼が巻物を拾い上げながら、祭壇を指さすと文字が変化していた。
『交点を越えし者、新たな星を紡ぐ』
「新たな星を紡ぐ……ルミナ達が最後に言っていた。」
その時、広場の端から黒い霧が立ち上がり、そこからゼファーが現れた。
「実に素晴らしい試練だったな、カイエン。」
彼の背後には影の眷属が控え、祭壇の結晶を狙っている。
「ゼファー!?
カイエンが闇を構えると、ゼファーは
「 お前達が試練を……予言を進めるのを待っていたのだ。だが、まさか双鎖を超えるとはな……その力奪わせてもらうぞ!」
「ちっ!」
彼が手を振ると霧が怪物へと形を変え、二人にに襲いかかる。
「カイエン!」
アルティアは光を手に持つと、カイエンと並んだ。
「試練を乗り越えた私たちを、簡単に倒せると思うな!」
彼女が叫ぶと、光と闇が再び共鳴し、一瞬で怪物を吹き飛ばした。
ゼファーは目を細め、剣を構えた。
「くくく、面白い……ならば本気で相手してやる。来いカイエン!」
ゼファーが闇を放つと、カイエンの闇とぶつかり合い衝撃波が広場を揺らした。
アルティアは光を槍に変え、眷属に突進した。
戦闘が激化していくと、空の二つの星が輝きを増す。
ゼファーの力は強く、一撃で石柱を砕くほどだった。だが、アルティアとカイエンの連携は試練を経て一層固まり、光と闇が融合した攻撃でゼファーを圧倒し始めた。
「くっ…!」
ゼファーが後退する。
「どうした、ゼファー?本気で相手をするんじゃなかったのか?」
カイエンがゼファーを挑発する。
「調子に乗るなよ、カイエン。ならばこれならどうだ。」
ゼファーが、力を込めると剣の周囲に闇が集まり出した。
「なっ!?俺の闇が吸い取られていく!?」
カイエンの腕から闇が流れ出しゼファーの持つ剣に流れ込んでいく。
「させない!」
アルティアが槍に変えた光をゼファーに目掛けて投げつけると、集まり出した闇が霧散する。
「ちぃっ!双鎖を超えた
霧を纏って姿を消そうとした瞬間、カイエンが闇の刃を投げ、ゼファーの腕を
「逃がさない!」
アルティアが光を放つと、眷属が盾となってゼファーへの攻撃を阻む。
「双鎖の力、暫くお前達に預けておくぞ。」
彼の声が遠ざかり、広場に静寂が戻った。
アルティアとカイエンは、なんとかゼファーを退け安堵すると息を整え祭壇を見た。
「新たな星を紡ぐ……これは新たな試練なのか?」
彼女が問うとカイエンは巻物を広げ、新たに現れた星図を指さした。
「ここだ、星の淵…エテルシアの果ての地だ。」
「そこに、新たな道が……。」
二人は双星の峰を降り、新たな旅へと踏み出した。
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