第6話:遺跡の囁き
平原を切り裂く風の中、アルティアとカイエンは全速力で走っていた。
背後では、聖鎖教団の巡回隊と霧から現れた怪物たちの戦闘が続いている。
馬の嘶きと剣戟の音が遠ざかり、黒い霧が視界を覆う中、二人は遺跡の輪郭を目指した。
空では『
「こっちだ!」
カイエンが叫び、アルティアの手を強く引いた。
彼女は息を切らしつつも光を足元に灯して道を照らした。
平原の草が膝まで伸び、足を取られそうになるがカイエンの握る手が彼女を支える。
遺跡は近づくにつれ、その姿を鮮明に現した。崩れかけた石柱が円形に並び、中央に半壊した塔がそびえている。
壁には星と鎖の模様が刻まれ、隠れ家で見た物と同じ古語が薄く残っていた。
カイエンは塔の入り口にたどり着き肩で息をしながら振り返った。
「
彼は外套を脱ぎ、入り口の石を押して隙間を開けた。
アルティアは頷き、光を手に持つと中へ滑り込んだ。
塔の内部は薄暗く湿った空気が漂っていた。
床には苔がびっしり生え、壁にはひびが入り、かつての栄華が崩れ落ちた痕跡が残る。
天井の一部が抜け、空の二つの星の光が差し込んでいた。
アルティアは剣を下ろし、周囲を見回した。
「ここが眷属の遺跡…? 何だか不気味な場所だな。」
彼女の声が反響し、カイエンは壁に手を当てて答えた。
「昔、ヴェスパーを
彼は壁の文字を指さし、赤い瞳を細めた。
「アルティア、これを見てみろ。」
アルティアは近づき、光を壁に当てた。
古語の文字が浮かび上がり教団で学んだ知識を頼りに解読を試みた。
「『星の意志は双鎖に縛られ、解く者は新たなる光と闇を紡ぐ』……さっきの場所のと似てるけど少し違うな。」
彼女は眉を寄せ、カイエンを見た。
「新たなる光と闇って何だ?」
カイエンは肩をすくめ塔の中央に歩み寄った。そこには円形の台座があり、埃に覆われた何かがあった。
彼が手を伸ばすと、それは小さな金属製の箱だった。
表面にルミナとヴェスパーの紋章が刻まれ、開けると中から、青い結晶と赤い結晶の欠片が現れた。
「俺達の持っている欠片と同じだ。」
カイエンが手に持つと、赤い結晶が彼の持つヴェスパーの欠片と共鳴し微かに光った。
アルティアもペンダントを近づけると、青い結晶が反応した。
「これって…
彼女が呟くと、箱の底に刻まれた文字が目に入った。
「『双鎖を解く鍵は
カイエンは箱を閉じ欠片を手に握った。
「ゼファーがお前を狙う理由だ。お前の血……ルミナの
彼の声に疑念が混じる。
その時、塔が揺れた。
外から低いうめき声が響き、霧の怪物が近づいてくる気配がした。
アルティアは剣を構え、光を強めた。
「教団がやられたのか!?」
「いや、教団には目もくれてないんだろうな。
怪物は俺たちを狙って追ってくる。」
カイエンが闇を手に纏わせ、入り口を見た。
だが、揺れが止まり代わりに静かな
「
声はどこからともなく聞こえ、アルティアとカイエンは顔を見合わせた。
声は続き、まるで二人に語りかけるようだった。
「光と闇が一つにならば、運命は砕け新たな道が開かれる…。」
「何!?」
アルティアが叫ぶと声は消え、塔の中央に光と闇が渦を巻いた。
渦の中から古びた巻物が現れ、床に落ちた。
カイエンが拾い上げ広げると、そこには星図と古語が記されていた。
「預言の続きか…?」
彼が呟き、アルティアが覗き込んだ。
星図にはルミナとヴェスパーの軌跡が描かれ、中央に『
「ここに行けば……答えがあるのか?」
アルティアが問うとカイエンは頷き、巻物を畳んだ。
「可能性はある……だが、ゼファーも同じものを狙ってるだろうな。」
彼が立ち上がると、外から
それは教団のではなく、黒いローブの集団……影の眷属が遺跡を取り囲んでいた。
「カイエン、見つけたぞ!」
先頭の男が叫びながら剣を抜いた。
顔はフードで隠れていたが、その声にカイエンが反応した。
「ゼファー…お前の方から出迎えてくれるとはな。」
カイエンが闇の刃を構えると、アルティアも光を手に灯した。
ゼファーはフッと不敵な笑みを浮かべながらフードを脱いだ。
黒髪に赤い瞳、カイエンに似た鋭い顔立ちが現れる。
「裏切り者の弟を放置するわけにはいかない。お前とルミナの
ゼファーの言葉に、アルティアは息を呑みカイエンへと振り返る。
「弟!? カイエン、お前……。」
彼女が驚きに目を丸くすると、カイエンは苦々しく笑った。
「昔の話だ……今は敵だ。」
彼が闇を放つと、ゼファーがそれを剣で弾き眷属が一斉に動き出した。
アルティアは光を盾に変え、カイエンと背を合わせた。
「カイエン、後で説明しろ!」
彼女が叫ぶとカイエンは頷き、戦闘が始まった。
光と闇が遺跡を照らし眷属の剣が二人の周囲を切り裂く。
ゼファーは祭壇に近づき、箱を見つけて笑った。
「これだな……預言の鍵。」
彼が箱を手に持つと塔が再び揺れ、光と闇の渦が強まった。
アルティアとカイエンの力が共鳴し眷属を吹き飛ばすが、ゼファーは動じず箱を開けた。
「くくく……なるほど交点か……。
もう用は済んだ、退くぞ。」
彼が欠片を手に持つと、黒い霧が彼を包み眷属と共に消えた。
塔は静まり返り、アルティアとカイエンは息を切らして膝をついた。
「逃げられた…。」
アルティアが呟くと、カイエンは巻物を握り潰すように締めた。
「いや……奴が交点に行くなら俺たちもそこに行く。」
彼の声に決意が宿る。
アルティアは頷き、立ち上がった。
外では星の光が一層強まり運命の交点が二人を待っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。