ディープ・ダークネス・チェンジング

最悪な贈り物@萌えを求めて勉強中

第1話 内の壁

ぽちゃり。


天井から垂れ落ちる雫。


暗い空間に音が響く。


岩の壁が僕を囲み、僕の手には鉄の輪が付けられており、その鉄の輪からは鉄の紐が岩に伸びている。


僕の後ろには、木の扉があり、その扉に僕は背中をつけて身体を預けている。


「やっほ!」


唐突に僕の後ろから声がした。


僕はその高い声に答える。


「やっほ。」



僕の声が洞窟の暗い空間の中に響いた。


ポチャリと音がなって、雫が落ちる。


「今日ね、スキルの授与式があったの〜」


唐突にはじまる語り部。


高い音の声が後ろから聞こえる。


「それでね、私のスキル。なんだと思う?」


「わからない」


「ふっふ〜私のスキルはね、勇者なんだよ!」


スキル。


それは人間に与えられる特殊な能力のことで、教会という場所に行き、そして、そこで神様からスキルを授与される。


それがスキル。


スキルというのには種類があり、前に言っていた。「勇者」というスキルは最高のスキルだと。


「勇者、前にずっと欲しいって言ってた。」


「そう!!ずっと欲しかったんだ!だって、私、夢が勇者だもん!!」


そういって、ドン!と扉から音がした。


「痛ったぁ…!!」


この人の名前はマリー。

顔は見たことはない。


僕の名前はラース。

顔は見たことない。


僕が明確に意識を持った時、既にここに居た。

何もなくて一定の時間立つと音がする空間。


これが世界の全てだと思った。


そして、僕が意識を明確にもってからしばらくした時、僕の後ろから声がした。


「だれか…居ますか?」


と。

その声がマリーだった。


マリーは、僕に教えてくれた。


僕の後ろには「木」という存在が群がって存在する「森」という存在が広がっていて、その奥には「家」という存在があつまる「村」という存在があり、そこには、「人」という存在があるらしい。


見たことは無いけど、マリーは僕に色々なことを教えてくれた。


そして僕は、「暗い」という存在が広がる狭い世界の存在、「洞窟」という存在の中に住んでいる。


「洞窟」の中では「水」という存在の一部である、「雫」という存在が「天井」というところから落ちて、「ポチャリ」という音が鳴るらしい。


そして、僕の後ろには世界が広がっているらしい。


世界のことも


スキルのことも


魔物のことも


人間のことも


色々な存在のことも


僕はそれを、マリーに言われて初めて言葉に出来た。


「それでね…私、少しの間だけここを居なくなるの…」


「うん。」


「勇者のスキルを持っている人はね、魔王を倒さないといけないんだ!だから、魔王を倒すまで、バイバイ!」


「うん。バイバイ」


マリーは言うと、また、僕は1人になった。

1人になるのには慣れている。


でも、今回は1人の時間は少し長かった。


今までは1人の時間があって、しばらくするとマリーがきて、マリーと話したら、しばらくして、またマリーが来ての繰り返しだった。


でも、それからマリーは来なかった。


「誰か…居ますか?」


しばらくすると、別の人の声が聞こえた。


「はい」


僕は答えると、今度は、複数の声が聞こえた。


「ほ、本当にいる…」「あの噂は本当だったんですね…」「教会もそりゃあ進入禁止にするわけだ…」


すると、今度は、背中に預けていた扉が消える。


そして、瞳の中に何かが飛び込んできた。


僕は、いきなりの感覚に、目を閉じる。


「ほら、出てこい。」


声がした。


目を開ける。


暗いとは別の感覚…


マリーは言っていた。


これを「眩しい」という感覚だということを。


そして、段々と瞳の中に感覚が広がっていく。


目の前には、動く何かがあった。


「えっと…」


その動く何かの一部が、音に会わせて動く。


「大丈夫…ですか?」


僕は、その動く何かを見て、理解した。

マリーの言っていた。


これが顔という物だと。


「あなた達は…人間?」


その、動く何かは、一部を動かして音を出した。


「そう…だけど…早く立ったら?」


人間は、顔の一部を動かして音を出す。

しかし、僕は「立つ」という事を知らない…


「立つ…とは…?」


「こいつ、ちょっと頭が可笑しいんじゃないのか?」


「仕方ないでしょ…こいつ、吸血鬼ヴァンパイアなんだから…にしても、教会も本当にギリギリだよね…1000万年も前に滅ぼされたヴァンパイアの生き残りを今更解放するなんて…」


「1000万年前?なんだそれ」


「とりあえず、立って」


「立つ…とは何?」


「足を使って立つの!!!!ほら、二人とも、ちょっと手伝って!!」


人間は、僕に触れると、「立つ」という行為をさせた。


「何もしらないようだから、教えてあげる。頭を下に向けて」


僕は頭を下に向ける。


2本の細い棒が1本の棒に繋がっており、それが、視界の一番下まで伸びている。


「まず、これが足ね」

そう言って、人間は、1本の凄く細い棒で、2本の細い棒に触れた。


触られたという感触が頭の中に広がる。


「これが…足…」


「それでこれがお腹」


1本の太い棒に触れる。


「理解した。」


「とりあえず、こいつを抱えて教会まで行こうか…話はそれからだよ」


「了解」


「はいよ」




しばらくした後、扉を開けられて最初に飛び込んできたのと同じ色をした細長い棒が連なる空間にやってきた。


人間に聞くと、どうやら「神殿」という所に来たらしい。


神殿には、人間がたくさんいて、そこでは1人の人間に「聞きたいことあったら、色々聞いて」と、言われた。


とりあえずは僕は、身体のことを聞いた。

僕の身体には、指という物や、足、腕、歯という物があるらしい。


人間の数え方というのも教わった。

僕の回りには人間という存在が28人居た。


色のことも教えてもらった。

建築物という物のことも教えてもらった。


空という存在も教わった。


空という存在の色が「黒」と「青」と「赤」の3種類あることも気付いた。


そして、その色の入れ替わりが9回ほど行われた時、僕は世界のことについて良く知った。


9日間で学んだ事を使い、今の風景を話そうと思う。




「僕を囲むように白い柱が広がり、柱の先には白い板のような大きな天井が乗っている。柱と柱の間からは夜空が見え、夜空に広がる星々は鈍く輝き、丘の下の村々に降り注ぐ。どうだろうか。マスター。」


「うん。上出来だね。」


目の前に立つ白衣を来た女が片方の目にメガネを掛けて言った。


「さすが、9日間、不眠不休で言葉を教えた甲斐があるよ。」


「本当に感謝する。世界が広くなった気がする。」


「心の世界は広くなっただろうね。確実に」


丘の上の神殿にて、僕と彼女は、二人だけでランプで照らされた下、話す。

ランプの中では赤色の火が揺らぎ、暖かくその場を照らす。


「それじゃ、そろそろ降りようか…」


「了解した。」


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