第11話、縄文の冬 1

 山の斜面には土をとる場所がある。石で大きく土をけずり、なかのしっとりした黄土色の土を使う。土を石でたたいてこまかくすると、粉のようになる。土器に土の粉と水を入れて、浮いたゴミをとりのぞく。水を捨てると、ねんどのようになる。


 そう、土器を作るのだ!


 ほおっておいたり、水を足したりして、ちょうどいいやわらかさにする。こまかい砂を加えて、よく混ぜる。たたきつけたり、ふんだり、投げたり。くりかえしていくうちに、砂のザラザラがなくなり、なめらかなかたまりになってきた。


「もういい?」

「まだまだ」


 トゥキはねんどを指で押して言った。指がすこしのくぼみをつくった。


「えー……」


 さらにふむ。平たくなったのをたたんで、またふむ。ノカがおどりはじめる。タァラが歌いはじめて、美音子も歌う。モレィとトゥキが手をたたいて、だんだん楽しくなってくる。ねんどにツヤが出てきたとき、トゥキが言った。


「このくらいでいいな」


 モレィとトゥキは、草でつくったコースターの上で底を作りはじめた。丸く丸く。それから長いねんどのヒモを作ってぐるりと底に重ねていく。下から上へ、ぐるぐると。だんだん上が外にひらくように。上のフチを波の形に広げた。


 フチの上にくるんとしたもようをはりつけたり、木ベラで形を描いたり、よじったヒモを転がしたりする。教科書にのってた土器はもっとウネウネしていた気がするけど、これもすごい。


 美音子たちは、ねんどのかたまりをこねて、小さな土器を作る。手でなんどもなでて、表面をなめらかにする。できたら一日、日陰でかわかす。


 形ができたら、次はもようだ。ヒモをくるくる転がすけどうまくいかない。


「まっすぐ押すんだ」


 トゥキに言われて、まだ焼いていない土器をもってヒモを転がす。あ、いいかんじ。ヒモのデコボコがねんどについてもようを作る。でもちょっと力を入れすぎると、ねんどがへこんでしまった。内側から押したりして、形をなおす。


 そうやって見よう見まねでもようをいれたが、ノカが不満そうだ。


「なんかちがう。ヘン」

「なんかって……」


 そう言うノカのはどうなんだとみると、小さいけれど、ちゃんともようがはいっていた。大きな土器と同じ、波のようなふちにくるんとしたぶぶんがあって、まんなかにも帯のようなもようがついている。その帯の上と下をヒモでもようをつけている。いつも使っている土器と同じ形ともようだ。


「すご」


 思わずつぶやくと、ノカは急に目をみひらいて、顔をそむけてしまった。


「ほめたのに」


 形ができたら、内側をまんまるのツルツルした石でみがく。ヒモとヒモのさかいめがわからなくなるように。ねんどがピカピカと光ってくる。

 





 いっぽう、タァラは、人の形にねんどをつくっていた。あ、土偶どぐうだ! 円形の顔に、ひじをはったようなうで、がにまたの足。目はつぶれた丸で、頭からつながった鼻が高い。正直、あんまり上手じゃない。


 体に木のヘラでたくさん線をつける。シトゥがつつくようにもようをつけた。


「ミネコも」


 美音子はつけられたもようにつなげるように線をかいた。まっすぐだったり、点々だったり。モレィとトゥキ、ノカもすこしずつもようを入れる。


「みんないれた。これでいい」






 焼く前に、陽のあたらないところでかわかさなければならない。



 土器のことをわすれたくらいのある日の朝、ススキやかれ草を集め、石の輪のなかに、家の炉からもってきた火をつける。小さな木の枝を入れて燃やす。そのまわりに土器をならべておく。そのあいだ、トゥキやモレィはのんびりとおしゃべりしていた。


 ヒマだ。タァラとシトゥがいなくなってしまったので、美音子はしかたなくノカに話しかけた。


「ノカは、土器作るのうまいんだね」

「そうだよ」


 ノカはようじんぶかく、短く答えた。会話がとぎれる。火がパチパチいう音が聞こえる。なんとなく気まずくて、美音子が枝で火をつつこうとしたとき、ノカが口を開いた。


「ミネコはなんにもできない。ぜんぶヘタ」

「……うん」

「なのに、なんでやろうとするの?」


 なんで。どういう意味だろう。


「ええと……、ノカ、ジャマだった?」

「ちがう。わたしは草とるのできないから、タァラにやってもらう。なんでも知っているのはクシラだし、魚取るのうまいのはアワィ、クリの木を知っているのはワク、布を作るのが早いのはボツィ、力が強いのはヨミ、ワナつくる場所を見つけるのはアトリ」


 ノカは不機嫌そうだったけど、話をやめたいわけじゃないみたいだ。


「でもミネコはなんにもできなかった」

「あのね、わたしは……わたしは、このムラで暮らしたいんだ。わからないこと、できないこといっぱいあるけど、やってみないとわからないから。できることがあったら、やりたい。だから、いろいろやる」

「なにができるの?」

「それは……わかんないけど……」

「……すこしはできるようになった」


 ノカは美音子を見ないようにしてつぶやいた。


「ミネコはトクベツ、ヘンなやつだけど」






「そろそろ焼くよ」


 トゥキとモレィが、木を燃やした灰をかいて平らにする。それからまだ焼いてない土器を灰のうえにおく。美音子もてつだおうとしたけれど、土器が熱くて、あわてて手をはなした。トゥキとモレィは平気なのかな。


 今度は、土器のまわりで木の枝を燃やす。日が高くなったころには、火が強くなっていて、土器がまっ黒くなっていた。土器のうえに木の枝を積みかさねると、火が大きくなる。もう熱くてぜんぜん近よれない。木の枝で火のようすを見ながら燃やす。


 夕方になると、だんだん木が燃えつきてきて、なかの土器が見えてきた。


「え、帰っちゃうの?」


 せっかく焼けたのに、ひとばんほうっておくみたい。


 次の日の朝、つもった灰をよけると、焼けた土器が見えた。すごい! ちゃんと焼けてる! 割れてない! 木の棒でふちをたたくと、カァンと高い音が鳴る。楽しくて、楽器のように全部の土器をたたいた。もちろん美音子の土器もできた。これもたたくと、小さいけどカンカンと鳴った。


「わあ……!」


 手にもつと、なんだかかわいらしくて、だいじになでたくなった。見ていたノカが後ろで言った。


「なんだ、ちゃんとできたじゃん」


 美音子はいっしゅんびっくりして、それから土器をもちあげてさけんだ。


「うん!」







 だいぶ寒くなってきて、布の服のしたに皮を着るようになったころ。


 林にいき、葉っぱのなくなったクリの木の枝を落とした。下でワクが指さした枝を、木に登ったヨミが石オノで切る。石オノはなんども打ちつけないと枝が折れない。ドスッ、ドスッと音がして、枝がえぐれていく。


「落とすぞ!」


 ヨミの声のあと、枝がドサッと落ちてきた。木のまんなかの、たくさんある枝を落とす。横に広がった枝も、いくつか落とす。からからにかわいた細い枝も落とす。そうすると枝の間からきれいな空が見えるようになった。


 クリだけじゃない。ドングリの木も枝を切る。おじいちゃんが庭の梅の木を切っていたのを思い出す。あれは高枝切りハサミだったけど。「こうすると、梅の木がじょうぶになって、実も大きいのが取れるんだよ」と言っていた。


 落とした枝はひとつに集める。その横に大きな穴をほる。美音子がすっぽり頭までうまるくらい深い穴だ。その底をよーくふんで固める。それから茶色くかれたスギの葉っぱを入れた。


 クマキが火をつける。ムラからはなれているからここで火をおこすんだ。かわいた木の枝を、足ではさんだ太い木の枝のくぼみに押しあて、手でこする。すると白いけむりがあがってきて、木のクズが出てきて、木クズのなかがポッと赤くなる。クマキはススキの穂で木クズをおおい、ふうっと息を吹きかけた。けむりがぶわっと広がる。


 そのススキを穴に入れると、あっというまに火がついて燃えあがった。さいしょに入れるのは、かわいた細かい枝。それに火がついて、赤く炎があがったら太い枝をのせて焼く。けむりがもうもうとたって、目とノドが痛い。ときどき棒でつついて、枝と枝のあいだにスキマがないようにまっすぐ並べた。






 そのあいだにワクたちはまわりを探している。木に巻きついている草のツルをたどって、下の土を掘りだした。


「なにしてるの?」

「■■■をとるんだ」


 まだ何をさしているのかわからないことがある。ワクは、ツルのしたを石で掘って、美音子に見せた。


「あ、イモだ!」


 それはナガイモに似ていた。スーパーに売っているナガイモより細くて曲がってゴツゴツしている。


「ミネコ、こっちもとるよ」


 ワクがイモを掘っているあいだ、美音子やタァラたちはうえのツルについた実を取る。まんまるで、ちょっと固い。むかごだ。むかごを大きな葉につつんで火のそばにおく。しばらくしてとりだすと、やわらかくなっている。


「わ、ほくほくする」


 イモのような味で、ちょっとあまくておいしい。むかごをおやつに、美音子たちは火を見ていた。







 火をつけて半日、枝が黒くなって、表面が白っぽくなってきたら、うえに緑の葉っぱを山のようにのせる。葉っぱはすぐに燃えて、白い灰になった。灰で火が見えなくなる。でも、その下でパチパチいっていた。そのうえに川でぬらした大きな布をかぶせた。さらに土をのせて、足でふむ。土はほかほかで、温泉にいったとき入った砂ぶろみたいだ。

 

 十日ほどして、焼いた木をとりにいく。石でほりだして布をめくると、灰のしたに、まっ黒い炭ができていた。にぎりこぶしくらいの、炉で使っている炭だ。ちゃんと火が消えていることを確かめてから、土器やカゴに入れてもち帰る。これから一年の炭になる。


 できあがった土偶は家のなかの、たなのようになっているところにかざった。ボツィはよろこんでそれに手を合わせていた。まるでひいおばあちゃん家の神だなみたいだと思った。


「ミネコ、明日は木を切りにいく」

「枝は落としたよね?」

「春になったら家をつくるから」


 雪がふりはじめるころ、ノカとは話せるようになっていた。

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