仮想的
小狸
短編
*
「聞いて。ネットでこんな意見を見かけてね――」
「ありえないよね――」
「本当、世の中に敵って多いんだなって思う――」
友人との久方ぶりの食事は、そんな一方的な彼女の愚痴で終わった。
くたくたになった私は、自宅に帰宅して、そのままベッドにダイブしたい衝動に駆られて、ギリギリの所で我慢した。
大学時代にできた友人である。
元々属していたグループの中で、彼女がリーダー格であった。元から仕切りたがりだったというか、誰かを下に置かないと気に食わないタイプの彼女であったように思う。
本人の個人情報保護のために、名前は出さない。
何かを話そうと思えば誰かの愚痴、誰かの文句、現状へのどうしようもない不満ばかりをつらつらと述べて、正直辟易していた。
いつも誰かと敵対していた――ように思う。
学科でも自然にいくつかグループができていたけれど、元彼がどうとか、その現彼女がどうとか、そんな理由で、常に勝手に誰かを敵認定していた。
最近は、休日にずっとSNSを監視して、気に食わない思想の人に対して、文句を言ったり、引用リポストを送ったりしているらしい。
全く。
誰もお前のことなんて気にしてないってのにな。
そんな人間なんかと縁を切ってしまえば良いと思われるかもしれないけれど――いやもうマジで本当、皆様の言う通りである。
この際縁切っちゃおうかなと、思わなくもない。
ただ、連絡がマメなのと、金銭感覚などは普通なので、簡単に切ろうとは思わない。お互いの誕生日も祝いあうくらいの仲である。
どうしてそう誰も彼も敵にするのだろうな――と、改めて考えてみる。
そもそも私は、人間関係は敵味方ではない、と思う派の人間である。
世の中には敵も味方もいない――いるのは平等に、「他人」だけ、である。
なぜなら、最終的な自分の決定は、自分でするものだからである。
味方がどう思っているとか、他の人がどう思っているからとか、そういうことは関係がない。
それらを踏まえた上で、彼女について考えてみよう。
彼女にとっては、自分に合わない人、自分と解釈が一致しない人、自分と都合が合わない人こそが、敵であるそうだ。
敵。
つまりは共存し得ない相手――滅ぼさなければ自分の存在が危うくなるものである。
自分を守るために、敵認定している――のだとしたら。
いつもはリーダーぶって、成績が良いことを鼻にかけて、自分は集団の全てを牛耳っているみたいな言い草をしているけれど。
彼女は、本当は、自分に自信がないのではないだろうか。
自信がないから、自分に対する批判意見を受け入れることができない。
だからこそ、その批判意見が生まれない環境を、相手を敵とすることによって、作り出そうとしている――。
成程、そう考えると、彼女の今までの行動にも得心がいく――と同時に、それは幼稚な生き方ではないか、と思ってしまう。
そんな、周りが味方だとか敵だとか、社会に出た上でいつまでもそんなことを言ってどうする?
時には敵とも渡り合わなければならない。いつまでも味方であるとは限らない。一秒後には敵になるかもしれない他人なのである。そんなことも分からないまま、彼女は大人になってしまった。いつまでも馬鹿の一つ覚えみたいに陰キャだの陽キャだの言っている高校生気分が抜けない大学生のようである。
人は人の数だけ人生があるのだし、社会人として生きていく上ではそんな狭量なことを言っていられないと思うのだが、彼女は大人になった今でも、自分の中の小さな世界で生きている。
そんな彼女を、可哀想だと思ってしまった。
そんな風に思うと――何だか脱力するかのように、何もかもがどうでも良くなってしまった。
誕生日を祝っているから何だってんだ?
彼女は、一時期私を敵認定していたことだってあったのだ。
そんな奴に人生の貴重な時間を使って、何になる?
あー、もういいや。
一生そうやって、
そう思ってスマホを開くと、彼女からLINEが届いていた。
「今日は話聞いてくれてありがとう! すっきりした! またご飯行こうね!」
誰が行くか。
私は未読のまま、彼女をブロックした。
《Imaginary Enemy》 is the END.
仮想的 小狸 @segen_gen
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