リザードマンを食べよう!
返す返すも失敗したとデュランは思った。
リザードマンの討伐。新米冒険者がゴブリンの次にやるような仕事だ。
実際、デュランのパーティならば3~4体いようが相手にならなかっただろう。
初めて見たリザードマンは蜥蜴人、という風には見えない。
二足歩行で歩き、猫背というよりはT字のように立つ。
身長は140
風貌ははるか昔に滅びたという恐竜のそれに近かった。
「ゲロロロロロロッ!!」
到底、理性があるような声ではない。
リザードマンは亜人だと声高に叫ぶものもいるが、実物はただの肉食獣だ。
森に潜んでいる数は3~4体どころではなかった。
二桁はいるだろうか。
小さい前足には、鋭い鈎爪が二本ずつ。
それに切り刻まれ、噛みつかれて、デュランのパーティメンバーはどんどんやられていった。
「うわっ、うわぁああああああああああ!!」
デュランは赤い髪を振り乱しながら、剣を振り回す。
それを警戒するリザードマンたちだが、やがて襲われるだろう。
そうなれば全滅だ。
「”
リザードマンが横薙ぎの炎によって、焼き払われる。
いったいどうしたことかと、デュランは炎が飛んできた方向を見た。
まず目につくのは顔の十字傷。
鼻筋をX字に通っており、凶相が伺える。
にもかかわらず目つきや眉からはどこかおっとりとした印象を受けた。
短めの黒髪で、体は部分部分金属で出来た鎧を着ている。
右手には、尖らせた肉切り包丁。
戦闘用に改造しているのか、横向きに見れば十字に見えそうな鍔が。
左手には鍋程度に小さな盾が、腕に括り付けられている。
見るからに戦士という感じだが、今の炎を見るに魔法も使えるのだろうか。
「大丈夫かい? 君」
「ああ……、って後ろ!!」
リザードマンが男に向かっていく。
その鋭い爪を食らうかと思った瞬間、物陰から何かが飛び出してきた。
「”
神官服に身を包んでいる少女。
肩ほどで整えられた銀髪が絹のように美しい。
冒険者にしては小綺麗で、華奢。
しかし振り下ろしたメイスは棘付きで攻撃力が高そうだ。
地面に振り下ろされたメイスから黒い雷光が弾け飛ぶ。
周りにいたリザードマンは今度こそ、倒れていった。
「ふぅ、なんとかなったね」
「ええ、冒険者……風貌からするとまだ駆け出しのようですね」
二人が集まり、デュランを見ながら会話している。
どうするか考えているのだろう。
だんまりではよくないとデュランは起き上がり、挨拶をすることにした。
「た、助かったッス……オイラはデュランと言うッス」
「よろしくね」
「周りに転がっている方々はお仲間……ですよね?」
「あ、ああ……」
デュランの仲間たちは首を噛みちぎられ、あるいは動脈を切り裂かれて絶命していた。
街に戻れば蘇生することも出来る。
……が蘇生費用など、駆け出しに払える額ではない。
そもそもこんな森の中で死体3つをどうやって持ち帰るか。
デュランが頭を抱えていると……。
「蘇生代、お出ししましょうか?」
「え、た、助かるっすけど……いいんすか!?」
にこり、と神官が微笑む。
まるでそれは女神のようだった。
慌てたように隣にいた戦士が耳打ちする。
「ちょ、ちょっと!? アコさん、お金なんてあるの!?」
「大丈夫、考えがあります。これだけ食料があれば……」
そう言って、耳打ちし返す神官。
そのあと戦士が頷いたかと思うと、神官が何やら呟いた。
鳥が飛んできて神官の肩に止まる。魔法のようだ。
そのまま懐から紙を取り出すと、手紙を書いて鳥の足に括り付けた。
鳥が飛んでいく。
「今のはなんすか?」
「伝達魔法です。鳥を扱い、手紙を送り出す魔法なんですが、結構使えて……」
「ああ、近隣の村から助けが来るはずだ。その間に調理しておこう」
「……調理?」
戦士がリザードマンを解体し始めた。
デュランはそれに驚き、飛び跳ねる。
「な、なにしてるんすか!?」
「ああ、近隣の村は食料が足りないそうだ。そこでリザードマンを捌いて、分けようと思ってね。蘇生代の代わりだ」
「ま、魔物を……食べるんすか!?」
神官と戦士が顔を見合わせた。
心底何を言っているのか、わからそうな顔だ。
だが、やがて得心が言ったように戦士がポン、と手を叩いた。
「背に腹は代えられないだろ!?」
「それは……そうっすけど……」
魔物を食う、という習慣を持っている者は少ない。
ホーンラビットなど動物によく似ているものなら食べることはある。
しかし単純に魔物は凶悪で、冒険者でなければ狩れない。
また「魔物を食うと早死にする」という風聞を信じるものもいた。
だがたしかに何も食わずに餓死するよりははるかにマシだろう。
「とりあえず、私達も食事にしましょう」
「リザードマンの料理……それなら……」
戦士が手際よく解体したリザードマンの肉に手をつける。
程よい大きさにすると、フライパンで焼き始めたのだ。
さらに、いくつもの実をそのフライパンに投入していく。
こんがりといい匂いがする。デュランも思わずよだれが出てきた。
「食べますか?」
「ええ!? でも魔物を食べると早死するって……!」
「少なからず魔力や毒を含みますからね……ですが、毒消しや実を調合したり、魔法を使えれば問題ありませんよ。無くても、常食しなければ早死はしないかと」
「へ、へぇ……」
デュランはまだ魔法が使えない……が、ゆくゆくは覚えるつもりだ。冒険者というものは、魔物を倒していくと強力な技術や魔法を会得することが往々にあるのだった。
皿に盛り付けられたリザードマンのステーキ。
こう見ると、ただの牛肉などと大差ない。
デュランが警戒しながら、一口食べる。
何らかの実が効いているのか、ツンとニンニク風味がする。
ソースの程よい辛味と、甘みがする。なにより肉汁がジューシだ。
牛、というよりかは鳥肉に似ている。
いやその中間だろうか。
「お、美味しい!!」
「そうでしょう、そうでしょう」
「若者を悪の道に引き込んでしまった気がする……」
一通り食べたところで、二人が挨拶してくれた。
「俺はチョップマンと呼ばれている。よろしく」
「私はアコと申します」
「お、オイラはデュラン! よろしくお願いします!!」
そんな風に話していると、冒険者が救助にやってきた。
デュランはなんとか解体したリザードマンの肉と、仲間の死体を村まで運ぶことが出来た。
あとから聞いたところ、チョップマンたちはここいらじゃ有名な冒険者だそうだ。
デュランは彼らみたいになりたい、と思った。
魔物を食べる自信はないけれど。
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